DIYリノベーション建築家が暮らす
未完のワンルーム
自分ひとりの手で着工
神社のお囃子や、保育園の園児の笑い声。駅至近の賑やかな場所にあって、癒しのスポットのような光景が開放的な窓の向こうに広がる。
「実家が近くて以前からこのマンションは知っていたのですが、自宅兼事務所として使いたいと5年程前に購入しました。仕事の合い間を見ながら、3〜4年かけて自分で造り、1年程前に完成しました」。
と、一級建築士事務所「studioPEACEsign」の加藤渓一さん。施主と一緒にDIYで家づくりを行う「HandiHouse project」のメンバーとしても活動する加藤さんは、プランニングから解体、施工までをほとんどひとりで行った。
「お客さんに家づくりに参加してもらうプログラムを提案しているので、実際に自分でやってみる必要があるんじゃないかと。実験的な意味合いもありました」。
築44年のマンションを、長い時間をかけてDIYリノベーション。そのため、その時々で気に入っていた素材などが混在し、ご本人にとっても懐かしさの感じられる空間が完成した。
開放感のあるワンルームに
当初は和室のある2LDK。台形のユニークな形と、開口部の多い角部屋のメリットを活かして、ワンルームの大空間に。水廻り以外はドアを設けず、玄関とLDK、LDKとベッドルームの仕切りに、木の板を交互に並べたオリジナルの棚を設置した。リビングとダイニングは床の素材と段差で緩やかに変化がつけられている。
「ダイニング、キッチンは当時好きだった無垢のパイン材に、外部用の自然系の塗料を塗りました。木目が残るのを狙っています」。
リビングとベッドルームはラワンの無垢材を20cm角にカットしてもらい墨汁を塗って、市松模様に貼った。
「墨汁は薄めて、書き初め用の筆で塗ったところがポイントです。これも実験なのですが、コスパもいいし、木によく染み込んでくれます」。
白い壁はペンキを薄めて塗布。薄めることで木目が残り、自然な感じに仕上がるのだとか。
「木のままだとナチュラルになりすぎるし、真っ白にペイントしてもモダンになりすぎる。どちらにも偏りたくなかったんです」。
天井の梁の壁は、半分壊して現れたコンクリートをあえてむき出しに。中から出てきた電気スイッチの配線管をそのままぶら下げているのも、ワイルドな感じを漂わせている。
職人の技を集めたキッチン
「いちばんコストをかけたのはキッチンです」と加藤さん。「HandiHouse project」の活動を通じて知り合った職人さんの技を取り入れた。
「よくキッチンをお願いする家具屋さんのステンレスの収まりがかっこよくて、ステンレスの天板ありきでキッチンをデザインしました」。
シャープな天板を支えるのは、好きな材料であるMDF。オープンシェルフの棚板にも使っていて、棚板を支える鉄は知り合いの職人さんにオーダーした。キッチン前の色ムラのある壁も、左官屋さんに依頼し、オリジナルで調合したモルタルで仕上げたもの。
「この人に頼みたい、という部分は譲らず、あとは最小限につくりました。収納などは後から付け足せるし、必要に応じて考えていけばいいと思っています」。
天板の下に取り付けた小さな収納は、古道具屋さんで見つけた書類ケース。使い込んだ味のある道具が、オーダーメイドのキッチンになじんでいる。
未完成だからこその面白さ
「家は未完成でいいと思うんです。家族形態が変わってくれば住まい方も変わるし、その時々でどう楽しんで暮らせるか、考えるのがまた楽しい」。
古道具屋さんやインテリアショップなど、買物に行っては、部屋で使えるものを見つけるのを楽しんでいるという加藤さん。この空間もまだまだ変化をしていく。
「今は鉄屋さんに頼んで、ダイニングテーブルの脚を作ってもらいたいと思っています。あとは、TVを上から吊るそうか、とか。どんな方法があるか考え中です」。
窓を開け放って、ウッドデッキを敷いたベランダで、神社の森を眺めながら次のプランに思いを馳せる。そんな日常を楽しんでいる。