高台の団地をリノベ  構造壁でつながった70㎡を ゆるやかな時が流れる

高台の団地をリノベゆるやかな時が流れる
仕切りのない70㎡ワンルーム

視界が抜ける絶好ロケーション

横浜市郊外の丘の上。建築士・向坂穣さんは、築50年程の団地を自邸としてリノベーションした。
「高台のロケーションと、団地ならではの余裕のある敷地、1フロアに2世帯という造りにレア感を感じました」。
分譲で売り出されていた70㎡程の一室を購入し、同業者の妻とふたりの子ども、家族4人で暮らす空間に。
「団地なので壁式構造です。でも、壊せない壁がありつつも、ワンフロアに挑戦したかったんです。仕切りのない空間を風が通り抜ける、流れのある家が理想でした」。
3方向に開口のある贅沢な間取りと、窓の向こうに広がる街の景色。絶好の条件を活かしたリノベは2年程前に完成した。
高台にあり見晴らしがいいLDK。和室だったところをフローリングにしてダイニングキッチンとつなげた。無垢のスギの床材は、30mmと厚めなのでやわらかく包容力のあるタッチ。

高台にあり見晴らしがいいLDK。和室だったところをフローリングにしてダイニングキッチンとつなげた。無垢のスギの床材は、30mmと厚めなのでやわらかく包容力のあるタッチ。

ジャン・プルーヴェのウォールランプをダイニングの照明に。壊せない梁を活かして間接照明も取り入れた。「天井には照明をつけず、存在感を消してプレーンにしておきたいんです」。

ジャン・プルーヴェのウォールランプをダイニングの照明に。壊せない梁を活かして間接照明も取り入れた。「天井には照明をつけず、存在感を消してプレーンにしておきたいんです」。

一級建築士の向坂穣さんと妻・日奈子さん。抜けがよく家族の気配の感じられる空間に、という思いが一致。

一級建築士の向坂穣さんと妻・日奈子さん。抜けがよく家族の気配の感じられる空間に、という思いが一致。

浮遊した箱が廊下を仕切る

構造壁をオープンな仕切りとしたワンルーム。だから扉があるのはトイレだけ。ワークスペース、寝室としている和室、そしてバスルームにすら扉はなく必要な時だけ薄いガーゼのカーテンを引く。
「空気と光の通り道をつくりたかったんです。和室の収納は、上から吊り上げるかたちで浮かせてみました。重たい箱が浮いているのも面白いんじゃないかと」。
廊下の仕切りともなっているこの収納は、子どもたちが自由に絵を描いたり、スケジュールなどを書き込めるよう黒板塗装に。底には間接照明が施され、そこから光が拡散する。
「和室は床のレベルを上げ、高低差をつけているんです。オープンな空間なので均質的な印象になるのを防いでくれます」。
というのは妻・日奈子さん。同じく建築の仕事に携わっているため、プランニングの際はせめぎ合いもあったそう。
「私のワークスペースをどのくらいのボリュームにするかでもめたり(笑)。予定より狭くなったのですが、結果は正解でしたね」(穣さん)。
和室、ワークスペース、洗面を、浮き上がった黒い箱(収納)がゆるく仕切る。和室には縁甲板を用いた。

和室、ワークスペース、洗面を、浮き上がった黒い箱(収納)がゆるく仕切る。和室には縁甲板を用いた。

廊下の床は素材で切替えて、空間をさり気なく分けている。六角形のパーケットフローリングは日本の伝統的な亀甲模様。和をモチーフにするため、細かなところにも取り入れた。

廊下の床は素材で切替えて、空間をさり気なく分けている。六角形のパーケットフローリングは日本の伝統的な亀甲模様。和をモチーフにするため、細かなところにも取り入れた。

手前の床は玄関からつながっているフレキシブルボード。アイアンで造作したバーはコートハンガーに。ガーゼのカーテンを引けば、ゆるやかに空間を仕切ることができる。

手前の床は玄関からつながっているフレキシブルボード。アイアンで造作したバーはコートハンガーに。ガーゼのカーテンを引けば、ゆるやかに空間を仕切ることができる。

正方形の畳を敷いた和室は一段上がっていて、下は大容量の収納になっている。スーツケースなどがたっぷり入れられて便利。板張りの天井に間接照明が、安らげる雰囲気。

正方形の畳を敷いた和室は一段上がっていて、下は大容量の収納になっている。スーツケースなどがたっぷり入れられて便利。板張りの天井に間接照明が、安らげる雰囲気。

洗濯機をキッチンに移動しすっきりさせた洗面は、玄関からもアクセスできて動線がいい。。右手の扉のないバスルームは、湿気が籠らないメリットも。トイレの引き戸の取っ手も亀甲模様に。

洗濯機をキッチンに移動しすっきりさせた洗面は、玄関からもアクセスできて動線がいい。右手の扉のないバスルームは、湿気が籠らないメリットも。トイレの引き戸の取っ手も亀甲模様に。

穣さんのワークスペースも、床を切替えてメリハリをつけている。本棚やコートハンガーを壁付けに。机は「tool box」のキャビネットに天板を載せたもの。

穣さんのワークスペースも、床を切替えてメリハリをつけている。本棚やコートハンガーを壁付けに。机は「tool box」のキャビネットに天板を載せたもの。

造作で魅せるキッチンに

北側の壁に面していたキッチンは、東の開口側に移動させた。吊り戸棚は設けず、オープンシェルフにして見せる収納に。
「日がよく当たるので衛生面もいいみたいです。オープンなキッチンなので、食洗機などの設備っぽいものを見せないように、面材にこだわって造作しました」。
妻が調理をしながら仕事できるよう、天板のモールテックスをそのまま連ねて、脇に机も造作。さらに床にモルタルを敷いて連続性を持たせた。ここは縁側がイメージされているそう。
「LDKの床は無垢のスギ材なのですが、全部木を敷くとカントリー調になってしまいます。少し無機質なものを足して、マテリアルで差をつけたいと思いました」。
キッチンの引出しには、真鍮の取っ手をセレクト。素材感がミックスされたキッチンを、ライティングレールに点在させた電球型のライトがやさしく照らす。
「窓の下の公園で子どもが遊んでいるのを確認しながら料理が作れますし、ちょっと手の空いたときには仕事にも取りかかれます。目指していた“働けるキッチン”になりましたね(笑)」。
作業をしながら外の景色が楽しめる気持ちのいいキッチン。ベランダに面した縁側のモルタルは、冬は蓄熱、夏はひんやりとして効率的だそう。

作業をしながら外の景色が楽しめる気持ちのいいキッチン。ベランダに面した縁側のモルタルは、冬は蓄熱、夏はひんやりとして効率的だそう。

キッチンの天板から連続するかたちで、脇に妻のデスクを設けた。キッチンの面材はシナ材にオイル塗装したもの。真鍮の取っ手が風合いを添える。

キッチンの天板から連続するかたちで、脇に妻のデスクを設けた。キッチンの面材はシナ材にオイル塗装したもの。真鍮の取っ手が風合いを添える。

愛用の調理器具を吊るして収納。モールテックスの天板は掃除がしやすく汚れも味になる。

愛用の調理器具を吊るして収納。モールテックスの天板は掃除がしやすく汚れも味になる。

キッチンのタイルも亀甲模様に。壁に付けたボックスにはドリップコーヒーのセットを。

キッチンのタイルも亀甲模様に。壁に付けたボックスにはドリップコーヒーのセットを。

グローエの水栓はホースを引き出して360度動かして使えるのが便利。

グローエの水栓はホースを引き出して360度動かして使えるのが便利。

異素材や異文化をミックス

真鍮の取っ手や棚受け、カーテンなどは、「toolbox」の商品を選ぶことが多かったそう。
「素材感やテイストがちょうどいいんです。ガーゼのカーテンは、内と外をやわらかくつないでくれる感じがいいですね」。
天然素材と無機質な金属のマテリアルのミックス。そこに和室や縁側、天童木工の家具など日本文化の要素も取り入れて。色んなものをミックスさせた心地よい空間は、空気の流れとともに、穏やかな時間も流れていくかのよう。
「隣棟が接していないし、団地のどこか気の抜けた感が何か居心地がよくて。仕事もはかどるし、プライベートもリラックスできています」。
「空気が籠るところをつくるのが好きじゃない」という向坂さん。広々としたLDKを光と風が通り抜ける。天童木工のテーブルは、イスの低さに合わせて脚をカットしたもの。

「空気が籠るところをつくるのが好きじゃない」という向坂さん。広々としたLDKを光と風が通り抜ける。天童木工のテーブルは、イスの低さに合わせて脚をカットしたもの。

「toolbox」のガーゼカーテンを介して入る、やわらかい間接的な光が気に入っているそう。

「toolbox」のガーゼカーテンを介して入る、やわらかい間接的な光が気に入っているそう。

梁の低さを解消するため、覆いをつけて間接照明を取り付けた。LDKに均一に光がまわる。

梁の低さを解消するため、覆いをつけて間接照明を取り付けた。LDKに均一に光がまわる。

インダストリアルなデザインのスイッチも「tool box」。

インダストリアルなデザインのスイッチも「tool box」。

真鍮のスイッチパネル。細かなパーツも厳選。

真鍮のスイッチパネル。細かなパーツも厳選。

向坂建築設計事務所の向坂さん。「初めての自邸リノベーションなので、実験的な意味合いもありました」。

向坂建築設計事務所の向坂さん。「初めての自邸リノベーションなので、実験的な意味合いもありました」。

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