しっくり馴染む自宅兼事務所  施工のプロが自ら手がけた あたたかみのある空間

自由なリノベーション施工のプロが自ら手がけた
あたたかみのある自宅兼事務所

人と人の繋がりが感じられる物件

建築工事全般を行う工務店の代表である平岡健太さんが暮らすのは、川崎市中原区・武蔵新城駅近くにある賃貸マンションの一室だ。こちらのマンションは賃貸でありながら、住まい手の希望に応じてカスタマイズができるユニークな物件。同じマンションに住まう原﨑寛明さん・星野千絵さん夫妻が設計を、平岡さん自身が施工を担当し、スケルトンリノベーションを行った。

平岡さんはこの辺りが地元。独立するタイミングで、自宅兼事務所となる物件を探していた。「マンションオーナーの石井さんは、実は中学の先輩。『ちょうどひと部屋空いたから、住んじゃえば?』と声をかけていただいて即決しました」と振り返る。また、独立する前に勤めていた会社で、原﨑さん・星野さん夫妻の部屋の施工を手がけていており、その後も付き合いが続いていたことから、設計をお願いしてリノベーションを行うことにした。

「このマンションは、住人同士の仲がいいのが魅力的。近所のお店もみんな顔見知りなんです。住みなれた地元で、人と人の繋がりを感じながら働き、暮らしたいと思いました」。

玄関を入るとすぐに広々としたLDKが広がる。玄関そばのニッチは、施工途中で「ここにものが置けたらいいな」と考え、フレキシブルに造作。グレーのペイント(PORTER'S PAINTS)がアクセントになっている。

玄関を入るとすぐに広々としたLDKが広がる。玄関そばのニッチは、施工途中で「ここにものが置けたらいいな」と考え、フレキシブルに造作。グレーのペイント(PORTER’S PAINTS)がアクセントになっている。

奥に見えるのが寝室スペース。扉は付けず、床を一段上げて3本の独立柱をつけることで、ゆるやかに区切った。白い壁と木のぬくもりに、シックな黒い家具や小物を同居させるのが、インテリアのポイント。

奥に見えるのが寝室スペース。扉は付けず、床を一段上げて3本の独立柱をつけることで、ゆるやかに区切った。白い壁と木のぬくもりに、シックな黒い家具や小物を同居させるのが、インテリアのポイント。

自身を体現したオープンなスペース

1985年築で延床面積40平米弱というこの物件。元の間取りは、廊下や個室がある普通の1LDKだったという。
「僕は、区切ることや隠すことが好きじゃないので、広々としたオープンな空間にしたいと思いました」と、リノベーションのテーマを語る平岡さん。その希望を受けた原﨑さん・星野さんは、水回り部分だけに扉をつけ、その他のスペースはひとつながりとした。
「ベッドを置くスペースもおおらかな空間の中に組み込み、床の段差と独立柱でゆるやかに区切りました」(星野さん)。
結果、開放的に明るく生まれ変わった部屋に平岡さんは、「オープンで隠し事が嫌いな自分の性格を体現したような部屋なんです」と、満足げに微笑む。

また、室内に現れた鉄骨の柱型や梁型はラワンベニヤで仕上げ、床にはセランガンバツの無垢材を敷いた。さらにデザインのポイントとなるのが、壁に張られた「付け柱」で、壁内の柱位置を示すように設けられている。空間を引き締め、どこか寺社のような落ち着きも感じさせる。照明は、そんな木のぬくもりを感じる空間を引き立てるよう、スポットごとに照らす配置とした。

こちらのリノベーションの最大の特徴は、住まい手である平岡さん自身が、施工を全て手がけた点。かねてから仲が良く気兼ねしない関係性の建築家夫妻と活発に意見を交わしながら、シンプルで洗練されたデザインを練り上げた。

「お部屋の床と同じセランガンバツを玄関にも張って、すっきりとした統一感と視線のつながりを狙いました」と星野さん。

「お部屋の床と同じセランガンバツを玄関にも張って、すっきりとした統一感と視線のつながりを狙いました」と星野さん。

テラスにもセランガンバツを敷いてある。セランガンバツはそもそもウッドデッキなどに用いることが多く、とても頑丈。

テラスにもセランガンバツを敷いてある。セランガンバツはそもそもウッドデッキなどに用いることが多く、とても頑丈。

寝室に隣接して設けたウォークインクローゼット。LDKからはちょうど死角になっていて見えない。

寝室に隣接して設けたウォークインクローゼット。LDKからはちょうど死角になっていて見えない。

コンパクトに使い勝手よくまとめた水回り。ラワンベニヤで覆った梁や柱、そして付け柱が、温かみを添える。

コンパクトに使い勝手よくまとめた水回り。ラワンベニヤで覆った梁や柱、そして付け柱が、温かみを添える。

料理好きな平岡さんの希望を反映し、使い勝手よく造作したキッチン。シンクやカラン、コンロ、レンジフードは黒で統一した。「ダクトは黒いものがなかったので、自分たちで黒く塗りました」と原﨑さん。

料理好きな平岡さんの希望を反映し、使い勝手よく造作したキッチン。シンクやカラン、コンロ、レンジフードは黒で統一した。「ダクトは黒いものがなかったので、自分たちで黒く塗りました」と原﨑さん。

キッチンカウンター下の棚にはキャスターがついていて、作業台として使うこともできる。

キッチンカウンター下の棚にはキャスターがついていて、作業台として使うこともできる。

知り合いの家具屋さんに新居祝いとしてつくってもらったテーブル。「フローリングと同じ材を使っていて、ラインがピッタリ揃うところが気に入っています」(平岡さん)。

知り合いの家具屋さんに新居祝いとしてつくってもらったテーブル。「フローリングと同じ材を使っていて、ラインがピッタリ揃うところが気に入っています」(平岡さん)。

ものづくりの楽しさを発信する場所

「住まいって、出来上がったもの、誰かがつくってくれたものを、買ったり借りたりするというイメージが強いと思います。でも僕は施工を仕事にしてきて、こんなに楽しい作業はないと思っているんです」と話す平岡さん。ものづくりの楽しさを伝えたいと、リノベーション工事の期間中には、友人を招いた「DIYイベント」を開催したという。
「3歳くらいのお子さんから大人まで、20人以上が集まってくれました。壁と天井を白くペイントしたり、木部にオイル塗装をしてもらったのですが、みんなすごく楽しそうで、特にお子さんはびっくりするほどの集中力で取り組んでいましたね」(平岡さん)。

また、部屋を見渡すと棚やキッチンカウンターもラワンベニヤ材で造り付けられているが、これらは星野さんが図面を描き、平岡さんと大工のご友人の2人で製作したもの。自らの手をかけたぴったりサイズの家具たちが、快適な暮らしをサポートしている。
そしてよくよく見ると、棚板はL字金具で付け柱に取り付けられている。これは、設計を担当した原﨑さん・星野さんのアイデアだ。「付け柱を利用すれば、壁に穴を開ける必要はありません。住んでいくなかで『ここにも棚が欲しいな』と思ったら、自在に増やしていけます」(原﨑さん)。

この部屋に住み始めたばかりの平岡さんは、「ようやく自分が理想としていた自宅兼事務所が出来上がりました。開放的で木の温もりを感じられて、とても気に入っています」と笑顔で頷く。きっとこれから先、この空間で新たな交流が生まれ、生業とする住まいづくりもアクティブに展開していくのだろう。

手づくりの家具、棚、付け柱、柱梁の材は全てラワンベニヤで統一。木目を引き立てて保護する透明の塗料を塗ってある。

手づくりの家具、棚、付け柱、柱梁の材は全てラワンベニヤで統一。木目を引き立てて保護する透明の塗料を塗ってある。

付け柱は、意匠的な意味合いだけでなく、棚などを自在に取り付けられるという特性も持っている。時計や絵画などを飾る時にも便利。

付け柱は、意匠的な意味合いだけでなく、棚などを自在に取り付けられるという特性も持っている。時計や絵画などを飾る時にも便利。

窓際に設けた仕事スペース。棚には内装のカタログなどが並ぶ。「慣れ親しんだ街並みを眺めながら作業できるところが気に入っています」と平岡さん。

窓際に設けた仕事スペース。棚には内装のカタログなどが並ぶ。「慣れ親しんだ街並みを眺めながら作業できるところが気に入っています」と平岡さん。

建築工事や建築に関するコンサルティングを行うコーケン代表の平岡健太さん(中央)、設計を担当した原﨑寛明さん(ハイアーキテクチャー主宰)と星野千絵さん(コバルトデザイン主宰)。

建築工事や建築に関するコンサルティングを行うコーケン代表の平岡健太さん(中央)、設計を担当した原﨑寛明さん(ハイアーキテクチャー主宰)と星野千絵さん(コバルトデザイン主宰)。

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