タマゴのような空間築60年のマンションを
大胆にリノベーション
職場に近い都心のマンション
都心のまん中ながら、大通りから一本入った閑静な住宅街。グラフィックデザイナーの千葉剛道さんと妻の誓子さんが、この地に建つマンションを購入したのは8年ほど前のこと。「子どもが生まれるのを機に購入を決意しました。そのときの条件は、私の仕事場に歩いていける場所にあることでした」(剛道さん)。デザイナーという仕事柄、終電では帰れないこともあるため、仕事場の近くで物件を探したという。
そんな中で出会ったのが、当時築50年ほど経っていた現在の住まいだった。「築年数は経っていましたが、共用部分が手入れされていて雰囲気が良かったところにひかれました」(誓子さん)。
間取りは1LDKに広めの納戸がついたもので、LDKともう一部屋の広さは同じくらい。「最初は良かったのですが、子どもが二人生まれてからはどんどん手狭になってきました」。
リノベーションを建築家に依頼
家族の成長とともに、この先ますます手狭になる住まいをどうするべきか。夫妻は引っ越しも検討したが、剛道さんの職場へのアクセスが良いエリアで気に入る物件はなかなか見つからない。「だったら、今の住まいをリノベーションして、なんとかあと一部屋増やして2LDKにできないかと考えました。そこで、インターネットでこのエリアの設計事務所を検索して、2社にプランと予算の提案をお願いすることにしました」(誓子さん)。
そのうちの1人が、ディンプル建築設計事務所を主宰する堀泰彰さんだった。設計前に千葉さん宅を見た堀さんは「千葉さん夫妻は部屋数を増やすことを望まれていましたが、単に個室を増やすだけでなく、手狭なLDKを魅力ある空間に変えつつ、今後二人の子どもが成長してもフレキシブルに対応できるプランが必要だと考えました」と振り返る。「そこで、ノーマルに部屋数を増やすプランのほかに、住まいを2分割している壁を撤去して全体をワンルーム状態にしてから楕円形のスペースをつくり、その中をゆるく3つに間仕切るプランを提案してみました」。
堀さんのプランを見た千葉さん夫妻は、まずは予想外の提案にビックリしたそうだ。そして「タマゴのような楕円の空間って面白そうだな」とワクワクしたという。
セルフでキッチンリフォームに挑戦
実は当初剛道さんは、誓子さんほどはリノベーションの必然性を感じていなかったという。けれども、堀さんの提案を見て「これならやってみたい」と前向きな気持ちに変わったとのこと。堀さんの提案でリノベーションの可能性を感じた夫妻は、間取りの変更だけでなく、合板の床を無垢材に変更したり、ケミカルな印象のビニルクロスを質感の良いものに変えるなど、快適な空間づくりのために、当初の予定を超えて堀さんに依頼することにしたという。
リノベーションに要した期間は、子どもたちの春休みに合わせた約2週間。既存壁を撤去し、床材と壁紙を張り替えた後、新たに楕円形の壁を立ち上げ、中を個室に区切った。「新しく立ち上げた壁は、天井高から15センチほど低く抑えることで、空調や換気に対応できるようにしました」(堀さん)。
さらに、「LDKが居心地良い空間になるなら、キッチンも」と、剛道さん自らキッチンのリフォームに乗り出すことに。入居時に備え付けてあったシステムキッチンのコンロと換気扇を付け替えた上、扉は夫妻で白いペンキで塗り直し、新たに選んだ把手をつけた。水栓の付け替えはさすがに難しく、専門家に手伝ってもらったという。
広がりのあるLDKで暮らしに変化が
リノベーションによって生まれた楕円の中を3分割したスペースは、夫妻の寝室、きょうだいの2段ベッドを置くスペースとデスクを置くスタディールームに振り分けられ、家族それぞれの居場所となった。
LDKは既存の間仕切りを撤去したことで、南側の開口部全面を見渡せるようになり、採光や通風面も格段に向上した。夫妻は「前の間取りの時には感じなかった広がりがLDKに生まれて、ゆったりとした気持ちで過ごせるようになりました」と口を揃える。この広がり感について、堀さんは「新しく立ち上げた楕円の壁は終点が見えないので、空間が奥へ続いているように感じる効果があるんです」と説明する。
家族それぞれのスペースと、皆が集うLDK。リノベーションで生まれ変わった住まいは、これからも家族の暮らしにフレキシブルに寄り添ってくれることだろう。