日本の美意識を現代に再現  陰影が映し出す 奥行きのある暮らし

日本の美意識を表現 陰影が映し出す
奥行きのある暮らし

リノベ済み物件をスケルトンに

「もともとこのエリアに住んでいて、前から気になっていたマンションだったんです。バブル時代〜現代ではなく、古くて味のある物件が希望でした。コンクリートをむき出しにした時にも、その表情が違うんです」。
建築家・蘆田暢人さんの自邸は昭和46年築のマンションの一室。自らリノベーションすることを目的のひとつに、3年程前に購入した。
「ところが、リノベ済みで売りに出されていたんです(笑)。新しいものが取り付けられていたキッチン、バスルームは取り払い、スケルトンにして再構築しました」。
廊下の位置をずらし、3LDKだった間取りを、ガラス張りの子供部屋を併設したLDK、ベッドルーム、WIC、バスルームに。黒い塗装とコンクリート、やわらかな床のカーペットに包まれた空間には落ち着いた光がまわり、静寂な空気が流れる。
天井高を確保するためコンクリートをむき出しに。壁の塗装は面によって明るさのトーンを変えている。ジャン・プルーヴェのウォールランプは工事中に取り付け、コンセントや配線を壁に埋め込んだ。

天井高を確保するためコンクリートをむき出しに。壁の塗装は面によって明るさのトーンを変えている。ジャン・プルーヴェのウォールランプは工事中に取り付け、コンセントや配線を壁に埋め込んだ。

玄関と室内を仕切るドア。ガラスと真鍮の取っ手を用いた。

玄関と室内を仕切るドア。ガラスと真鍮の取っ手を用いた。

玄関脇には土間のクローゼットを。ここまでは外のイメージなので土足で。

玄関脇には土間のクローゼットを。ここまでは外のイメージなので土足で。

暗い廊下の向こうに玄関の灯りがほんのりと。壁を黒く塗装するのは夫婦揃っての希望だった。

暗い廊下の向こうに玄関の灯りがほんのりと。壁を黒く塗装するのは夫婦揃っての希望だった。

家族のつながりを考えたLDK

「住まいの価値は明るくあることだけではないと思うんです。陰影礼賛という言葉があるように、昔の日本の家は陰を大事にしていました。陰の中にあって美しく見える空間を、自分の家には求めていました」。
南側のベランダに近いリビングの壁の塗装はやや明るめに、ベッドルーム、バスルームのある側はほぼ漆黒に塗装。凹凸のある壁面が光をふんわり反射させ、室内に微妙に拡散させる。
「光はガラス張りの子供部屋からも通り抜けます。光を効果的に使いたいというのもありましたが、同時に親子の関係性を考えたときに、子供部屋は仕切られた空間にしない方がいいと思い、ガラス張りにしました」。
現在、高校生の娘さんの部屋は扉にロールスクリーン、窓にブラインドが設置され、閉じているときもガラスを通してお互いの気配が感じられる。
「ブラインドの開閉は娘の気分に任せています。施工時には、家全体の色と素材を伝えた上で、本人に壁と床のカラーを選ばせ、DIYで塗ってもらいました」。
鮮やかな壁のブルーが、ガラス窓を通して陰のあるLDKに差し込む。
ジャン・プルーヴェがデザインしたVitra社のダイニングテーブルGUERIDONに、イスはイタリアのインテリアブランドPlankのMonzaチェア。梁を活かして設置したスポットライトは気分に合わせて調色することができる。

ジャン・プルーヴェがデザインしたVitra社のダイニングテーブルGUERIDONに、イスはイタリアのインテリアブランドPlankのMonzaチェア。梁を活かして設置したスポットライトは気分に合わせて調色することができる。

LDKの一角にライブラリーを設けた。メリハリをつけるため床は一段上げ、紫がかった木材、パープルハートを敷いた。

LDKの一角にライブラリーを設けた。メリハリをつけるため床は一段上げ、紫がかった木材、パープルハートを敷いた。

天井までガラス張りの子供部屋から光が通る。入り口は引き戸の代わりにロールカーテンを降ろすことも可能。

天井までガラス張りの子供部屋から光が通る。入り口は引き戸の代わりにロールカーテンを降ろすことも可能。

ブルーの色彩が映える子供部屋。壁も床も娘さんがDIYで塗装。

ブルーの色彩が映える子供部屋。壁も床も娘さんがDIYで塗装。

勉強はライブラリー横のアンティークのデスクで。ここは明るさを確保。

勉強はライブラリー横のアンティークのデスクで。ここは明るさを確保。

ブラインドはいつもほどよく開いた状態にしている。子供部屋もリビングの背景のひとつのよう。ヴィンテージのワゴンにはウイスキーやグラッパを。

ブラインドはいつもほどよく開いた状態にしている。子供部屋もリビングの背景のひとつのよう。ヴィンテージのワゴンにはウイスキーやグラッパを。

単一にならない工夫を

天井や梁のコンクリートの荒々しさに対して、床はソフトなカーペット、キッチンの面材にはマーブル模様の石材、そこに家具などの木材…。様々な素材感のミックスも特徴的だ。
「古い建物なので天井を現しにしてもまだ低く、コンクリートの存在感が強く感じられます。そこで色々な素材を散りばめることで雰囲気を和らげ、画一的になるのを避けました」。
廊下の天井には吸音材を、ベッドルームの天井には白い板を設置し、配管やコンクリートを隠してインダストリアル感が出すぎるのも防いでいる。
「家具にも自分のルールがあるんです。壁に沿わせている収納系はチークなど濃い飴色のもの、テーブルやイスなどの家具はオークやバーチなど浅い色のものを選んでいます。素材も色も、限定すればある程度うまくまとまりますが、それだと複雑さが足りなくなるんです」。
高級感を醸し出すタイルのような柄が浮き出たカーペットも、よく考えると視覚と素材感がごちゃまぜ。そんな意外性が不思議に調和している。
「家ってそんなにキレイなものではなく、家族でケンカもするし、本来統一されていないものだと思うんです(笑)。そこをうまく融合させてデザインするのが好きですね」。
使い勝手を考えて造作したキッチン。カウンターの面材など、所々にアフリカの石をあしらっている。

使い勝手を考えて造作したキッチン。カウンターの面材など、所々にアフリカの石をあしらっている。

キッチンの天板はモールテックス。様々な素材が融合する。

キッチンの天板はモールテックス。様々な素材が融合する。

妻の希望で設置したパントリー。収納にもこだわりが感じられる。

妻の希望で設置したパントリー。収納にもこだわりが感じられる。

バスルームには色を加えた。バスグッズは入浴の度、カゴに入れて持ち運びするそう。

バスルームには色を加えた。バスグッズは入浴の度、カゴに入れて持ち運びするそう。

ベッドルームの壁はやや明るいグレーに。天井は白い板でコンクリートを目隠ししている。

ベッドルームの壁はやや明るいグレーに。天井は白い板でコンクリートを目隠ししている。

ムラのある黒い塗装が光を反射。天井の吸音材には、遮音に加え配管を隠す目的が。

ムラのある黒い塗装が光を反射。天井の吸音材には、遮音に加え配管を隠す目的が。

床には無地、無地+柄、柄のみの3種類ある横長のタイルカーペットを、柄の現れ方を考えてパズルのように組み合わせた。蘆田さんが自ら施工。

床には無地、無地+柄、柄のみの3種類ある横長のタイルカーペットを、柄の現れ方を考えてパズルのように組み合わせた。蘆田さんが自ら施工。

ヴィンテージの北欧キャビネット。このサイズに合わせて子供部屋の開口を設定。

ヴィンテージの北欧キャビネット。このサイズに合わせて子供部屋の開口を設定。

昭和を代表する名建築家・村野藤吾デザインの古い家具を。

昭和を代表する名建築家・村野藤吾デザインの古い家具を。

蘆田暢人建築設計事務所代表・蘆田暢人さん。都市計画から住宅設計、家具のプロダクトまで様々なプロジェクトに携わる。

蘆田暢人建築設計事務所代表・蘆田暢人さん。都市計画から住宅設計、家具のプロダクトまで様々なプロジェクトに携わる。

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