デザインユニット夫妻の住まい  純和風の昭和レトロ物件を 海外のアパルトマン風に

デザインユニット夫妻の住まい 和風の昭和レトロ物件を
海外のアパルトマン風に

古い連棟物件に可能性を感じて

インテリアスタイリストの窪田俊さんとフローリストのHarunaさん夫妻が住むのは、中野区沼袋に建つ2階建長屋のような連棟住宅だ。築60年超えのこの物件には長く住むお年寄りも多く、一角には古き良き昭和の気配が漂う。
「知り合いのインテリアスタイリストさんが格好良いリノベをして住んでいて、気になっていた物件でした。空きが出たというので見にきて、夫婦で面白いね!と盛り上がり、すぐに購入を決めました。磨けば光りそうだというインスピレーションが働き、独特のアングラ感にも惹かれましたね」(俊さん)
当初の室内の雰囲気は「昔ながらの日本家屋」。時代を経た建物ゆえに、汚れや傷みもかなり目立っていたという。
「本当にボロボロで不安もありましたが、表口と裏口があったり、室内窓がたくさんついていたり、柄入りの磨りガラスが可愛かったりと、今の家にはない遊び心が素敵で、とても気に入りました」(Harunaさん)。
壁を取り払い大空間になった1階。床はアンティーク加工がされた材でヘリンボーン貼りに。テーブルは1920年代のフランスのアンティーク。

壁を取り払い大空間になった1階。床はアンティーク加工がされた材でヘリンボーン貼りに。テーブルは1920年代のフランスのアンティーク。

三和土部分を広げてゆったりつくり変えた玄関に、磨りガラスから柔らかな光が入る。白と黒のタイルがポップで楽しい印象。

三和土部分を広げてゆったりつくり変えた玄関に、磨りガラスから柔らかな光が入る。白と黒のタイルがポップで楽しい印象。

時代を感じる飴色の階段は既存。磨りガラスの向こうは書斎になっており、「ここから『ご飯できたよ』って俊さんを呼びます」とHarunaさん。

時代を感じる飴色の階段は既存。磨りガラスの向こうは書斎になっており、「ここから『ご飯できたよ』って俊さんを呼びます」とHarunaさん。

間取りは一新し、ビンテージ物件の味わいは残す

窪田さん邸のリノベーションを担当したのは、株式会社FIND。同社の笠原圭一郎さんと俊さんは元々知り合いで、気心の知れた間柄だったという。
「笠原さんに初めてここを見せたときは『うわっ、なかなかの古さですね』と驚くと同時に『しっかりベースを整えて、見違える空間にしましょう!』と言ってくださいました」(俊さん)。
プランやデザインを考案したのは、主に俊さん。趣のあるレトロな雰囲気は残しつつ、住みやすさや開放感を重視して、間取りや内装を決めていった。
「目指したのは、海外の小さなアパルトマンのような雰囲気と心地よさです。夜、お酒を飲みながら考えを巡らせるのは、至福の時間でしたね」(俊さん)。
メインの生活フロアとなる1階は、廊下や壁を無くしてひとつながりに。元々ガレージだった部分は、その日当たりの良さや開放感を生かし、Harunaさんの花屋へと生まれ変わらせた。
古い物件ゆえ、時間も費用も普通以上にかかったが、ご夫妻はその価値はあったと振り返る。
「この家に住み始めたら、もうここ以外での暮らしは考えられなくなりました。やりたいことを全部叶えてもらったFINDさんには感謝しています」(Harunaさん)。
玄関と反対の南側の開口部。掃き出し窓の向こうは花屋で、その先は外につながる。壁面のドライフラワーアレンジメントはHarunaさんの作品。

玄関と反対の南側の開口部。掃き出し窓の向こうは花屋で、その先は外につながる。壁面のドライフラワーアレンジメントはHarunaさんの作品。

トイレに入ると、正面の窓に明かりが灯る。「斜め上の位置どりが面白いですよね」(Harunaさん)。

トイレに入ると、正面の窓に明かりが灯る。「斜め上の位置どりが面白いですよね」(Harunaさん)。

ご夫妻お気に入りのセミクローズドキッチン。ぴったり収まるL字ユニットがなくて、IKEAのI字ユニットを二つ組み合わせたそう。窓の向こうは花屋。

ご夫妻お気に入りのセミクローズドキッチン。ぴったり収まるL字ユニットがなくて、IKEAのI字ユニットを二つ組み合わせたそう。窓の向こうは花屋。

既存の壁面から仕上げ面を前に出してつくった飾り棚。俊さんセレクトの小物は、季節や気分により並べかえられる。

既存の壁面から仕上げ面を前に出してつくった飾り棚。俊さんセレクトの小物は、季節や気分により並べかえられる。

キッチンの壁収納。アンティークのコーヒーミルなど、さりげなく置かれた全てが絵になる。

キッチンの壁収納。アンティークのコーヒーミルなど、さりげなく置かれた全てが絵になる。

洗面台の左側はお風呂。「ここにも謎の可愛い窓がついています。換気のためかな」(Harunaさん)。

洗面台の左側はお風呂。「ここにも謎の可愛い窓がついています。換気のためかな」(Harunaさん)。

昭和レトロなお風呂は既存。タイルの上の壁は白く塗り直した。「ユニットバスではないので、天井が高いのが気に入っています」(俊さん)。

昭和レトロなお風呂は既存。タイルの上の壁は白く塗り直した。「ユニットバスではないので、天井が高いのが気に入っています」(俊さん)。

異なるテイストを組み合わせ、引き立たせる

窪田さん邸の2階に上がると、そこは明るいアトリエのような大空間。モルタルの床と壁、そこに置かれた家具や植物を、たっぷりの光が優しく包み込む。
「元は四つの部屋に区切られていたのを、大改造してホールのようにしました。名称のない自由なスペースなので、色々な使い方を楽しめると思います。ご希望をいただければ、スチール撮影スタジオとしてお貸ししています。夜はもっぱら僕の晩酌スペースになっています」(俊さん)。
インテリアは全て俊さんが選んだもので、海外のアンティークを基調に、デザイナーズ家具、シンプルモダンな家具などが組み合わされている。2階のインテリアは何度も模様替えを重ねた上で、最近ようやく落ち着いたそうだ。
「僕が好きなスタイルは、アンティークとモダンの融合。どちらか一辺倒だと飽きがきちゃうこともありますが、組み合わせることでどちらも引き立って退屈しない空間になります」と話す俊さんに、「本当にずっと家具のことを考えているよね」と微笑むHarunaさん。
モルタル塗りが印象的な2階。手前側は元和室で、畳を外して一段下げた。「あったら可愛いと思って」つけた木製ドアは岡崎製材のもの。古色風のワックスを塗って味わいをプラスした。

モルタル塗りが印象的な2階。手前側は元和室で、畳を外して一段下げた。「あったら可愛いと思って」つけた木製ドアは岡崎製材のもの。古色風のワックスを塗って味わいをプラスした。

一段上がった窓側のスペースは、白い壁と板張りで明るい雰囲気に。床に貼ったアンティークの板材は、スケート場で使われていたものだそう。

一段上がった窓側のスペースは、白い壁と板張りで明るい雰囲気に。床に貼ったアンティークの板材は、スケート場で使われていたものだそう。

アンティークや植物で彩られた空間に、北欧名作家具のセブンチェアが引き立つ。

アンティークや植物で彩られた空間に、北欧名作家具のセブンチェアが引き立つ。

イタリアの高級家具ブランド「GERVASONI」のソファ、アイアン製のアート作品、「オルネ ド フォイユ」の切り株スツールなどが共演。白いテーブル、照明、ラグはIKEA。

イタリアの高級家具ブランド「GERVASONI」のソファ、アイアン製のアート作品、「オルネ ド フォイユ」の切り株スツールなどが共演。白いテーブル、照明、ラグはIKEA。

どちらに視線を振ってもワクワクさせられる窪田さん邸。壁に飾られた絵画は、Harunaさんがフランスで知り合った画家の作品など。

どちらに視線を振ってもワクワクさせられる窪田さん邸。壁に飾られた絵画は、Harunaさんがフランスで知り合った画家の作品など。

2階唯一の個室であるベッドルーム。木枠の窓が安らぎを醸し出す。床材にはステイン塗装をして、古色風に。

2階唯一の個室であるベッドルーム。木枠の窓が安らぎを醸し出す。床材にはステイン塗装をして、古色風に。

インテリアと花を愛でる暮らし

俊さんとHarunaさんが結婚したのは2017年。インテリアと花に対する互いの感性を尊重し合う2人は、2019年から「F.I.N.D UNIT」というデザインユニットを結成し、インテリアと花の力で無限の可能性を持つ空間を創り出している。
自宅に小さな花屋「GERMER」を併設し、オーダーアレンジメントの製作やフラワーレッスンを行うHarunaさんは、結婚してすぐ、フランスに1年間の花留学に行ったという思い切った経歴を持つ。
「色づかいやドライフラワーの楽しみ方が日本とは大違いで、とても素敵な刺激を受けてきました。心良く送り出してくれた俊さんも少し変わっていますよね(笑)」。
レッスンの日は「GERMER」に幅広い年代の生徒さんが集うが、なぜか家の見学ツアーも始まるそうだ。
窪田さん夫妻がこの家に暮らし始めてもうすぐ8カ月。俊さんが情熱を注ぐインテリアとHarunaさんが愛情を注ぐ植物に彩られた住まいは、お二人の生き様を体現しているようだった。
パリの花屋さんのような店構えの「GERMER」。近所の方がふらりと立ち寄って花を買っていくことも多い。

パリの花屋さんのような店構えの「GERMER」。近所の方がふらりと立ち寄って花を買っていくことも多い。

「GERMER」の内装は、ご夫妻で仕上げたそう。「植物を引き立てるように、壁には墨色の漆喰塗料をぬりました」(Harunaさん)。使われている什器は、フランスのアンティークが中心。

「GERMER」の内装は、ご夫妻で仕上げたそう。「植物を引き立てるように、壁には墨色の漆喰塗料をぬりました」(Harunaさん)。使われている什器は、フランスのアンティークが中心。

ひときわ存在感を放つフランスのアンティークチェアは、俊さんからHarunaさんへの誕生日プレゼント。

ひときわ存在感を放つフランスのアンティークチェアは、俊さんからHarunaさんへの誕生日プレゼント。

玄関のしつらえ。モダンな小物たちの中で黒猫やお花が生き生きと映える。

玄関のしつらえ。モダンな小物たちの中で黒猫やお花が生き生きと映える。

こちらは本物の猫のにゃん坊。遊び場所に事欠かないこの家で、悠々自適に暮らす。

こちらは本物の猫のにゃん坊。遊び場所に事欠かないこの家で、悠々自適に暮らす。

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