建築家の団地自邸リノベ  49㎡を最大限に活かす 回遊できるワンルーム

建築家の自邸リノベ 49㎡を最大限に活かす
回遊できるワンルーム

団地のメリットを活かして

築47年の団地の一室を購入、オフィス兼自宅にリノベーションした一級建築士の乙坂孝さん。
「後輩が住んでいる団地を見て、色々な暮らし方の可能性があるなと思ったのがきっかけです。広ければ何でもできるけれど、コンパクトな空間でどこまでできるか。面積が小さいほど設計者の力量が問われると思うんです」。
和室で構成されていた49㎡の3DKをスケルトンにしてスタート。構造と設備の制約の中で、体感的な広さと居心地の良さを確保すること、風が抜けるように造られている団地のメリットを活かすことを目指して、プランを立てた。
「LDKとベッドルーム&水廻り、オフィスの3つのゾーンで構成されていますが、感覚としてはワンルームです。必要なときだけ建具で仕切ることができるので、夏は開放して自然換気を促し、冬は閉じて暖房効率を上げる、という使い方も可能です」。
ベ引き戸を開け放てば、家中に光と風がまわる。壊せない構造壁はコンクリートをむき出しに。昔の施工の様子が伺えるのも面白い。

引き戸を開け放てば、家中に光と風がまわる。壊せない構造壁はコンクリートをむき出しに。昔の施工の様子が伺えるのも面白い。

南側のベランダから北側の開口に光が抜ける。少しでも広がりを感じさせるため、ソファーは通常よりも低めに設定してデザイン。ソファーテーブルも床が透けて見えるよう、ガラスの天板を指定してオーダーした。

南側のベランダから北側の開口に光が抜ける。少しでも広がりを感じさせるため、ソファーは通常よりも低めに設定してデザイン。ソファーテーブルも床が透けて見えるよう、ガラスの天板を指定してオーダーした。

テレビボード兼キャビネットはラワンで造作。ソファーに合わせて低い位置に取り付けている。

テレビボード兼キャビネットはラワンで造作。ソファーに合わせて低い位置に取り付けている。

視角効果で広がりを出す

こだわったのは回れる動線をつくること。
「日常生活を送る上でも回れた方が効率的だし、何より行き止まりをつくりたくなかったんです。行き止まりのない空間は、実際の面積以上の広さを体感できますから」。
水廻りに収納棚やクローゼットを併設し、そのブースを囲んで、玄関から洗面所、ベッドルーム、廊下を介してLDKへとぐるりと回れる動線を確保。
「廊下はもともとなかったものなのですが、ほどよい間合いをとるために、あえて設けました」。
LDKからいきなりベッドルームに接続させることなく、廊下を緩衝帯としての場所と考えることで、コンパクトな空間の中にも開放感と余裕が生まれる。
「玄関から入った時、廊下がまっすぐ抜けていくこと、端から端まで全体を見通せる場所をつくることも、視角効果を考える上で大事にしたところです」。
LDKから廊下を挟んでベッドルームに。建具はガラスの引き戸なので、閉めていても光が通る。当初は透明ガラスだったが、後から模様の入った半透明のフィルムを貼ったそう。ぼんやりとしたやわらかい光が魅力的。

LDKから廊下を挟んでベッドルームに。建具はガラスの引き戸なので、閉めていても光が通る。当初は透明ガラスだったが、後から模様の入った半透明のフィルムを貼ったそう。ぼんやりとしたやわらかい光が魅力的。

白塗装の壁はあえて設けたもの。クローゼットのまわりを回遊できるようになっている。

白塗装の壁はあえて設けたもの。クローゼットのまわりを回遊できるようになっている。

玄関を入ると廊下がまっすぐに伸び、突き当たりに観葉植物が。

玄関を入ると廊下がまっすぐに伸び、突き当たりに観葉植物が。

水廻りからベッドルームにつながる動線。仕切りが必要なときはカーテンで。トイレのドアノブはtoolboxのもの。

水廻りからベッドルームにつながる動線。仕切りが必要なときはカーテンで。トイレのドアノブはtoolboxのもの。

インテリアは全体から考える

キッチンには窓側にカウンターを設けた。ここで食事を摂ることも多いそうだ。
「キッチン側に折りたたみ式の天板を設え、カウンターを広くすることも考えています」。
天板はオーク、キッチン台の面材はラワンで造作。1.8mのキッチン台は既製品を使うと作業スペースが狭くなるため、自らデザインした。
「テレビボードにもなっている棚やソファー、ベッドルームの棚などもすべて造作しています。ポイントは重心を低く設定していること。天井高に対して低く、水平方向に視界が抜ける方が、空間が広く感じられるんです」。
ベッドルームでは、すのこの上にマットレスを敷いてベッドにすることで、重心を下げている。窓辺のブラインドは視角効果を狙って、1.5cmの細かい羽にこだわった。
「部分部分で考えるとちぐはぐになるので、インテリアは空間ボリュームや全体のバランスで考えています。コンクリートと白塗装の壁に突板フローリング、そこにステンレスやラワンなどを部分的に取り入れ、簡素な美しさを表現することも大事にしました。簡素美は、私の設計の基本的なスタンスでもあります」。
コの字型にカウンターを設けたオープンキッチン。作業台にもなるカウンターは、下に扉のない棚を設けている。

コの字型にカウンターを設けたオープンキッチン。作業台にもなるカウンターは、下に扉のない棚を設けている。

作業スペースを確保するためコンロは2口に。サイズに合わせてステンレスの天板をオーダー。キッチン台の面材はラワンで。

作業スペースを確保するためコンロは2口に。サイズに合わせてステンレスの天板をオーダー。キッチン台の面材はラワンで。

食事をとることができるカウンター。高さに合うイスを探して、石巻工房のイスをセレクトした。奥はオフィスになっている。

食事をとることができるカウンター。高さに合うイスを探して、石巻工房のイスをセレクトした。奥はオフィスになっている。

すのこにマットレスを敷いたベッドと、それに合わせた造作の棚は、重心を下に下げ、視覚に広がりを与える。バスケットは収納替わり。クローゼットは天井下を活用してオープンに。

すのこにマットレスを敷いたベッドと、それに合わせた造作の棚は、重心を下に下げ、視覚に広がりを与える。バスケットは収納替わり。クローゼットは天井下を活用してオープンに。

造作の棚の下に間接照明を。ダウンライトは角度の狭いピンスポットを選ぶなど、照明にこだわり夜はムーディーに。

造作の棚の下に間接照明を。ダウンライトは角度の狭いピンスポットを選ぶなど、照明にこだわり夜はムーディーに。

更新しながら長く住み継ぐ

ひとり暮らしの現在は収納も最小限だが、生活に合わせて増やしていける余地も残している。
「完成してからも追加できるように、先まで見据えて全体を計画しています」。
廊下に収納を設けたり、キッチンに吊り戸棚を設けたり、必要なものに合わせて更新することも可能だ。
「それぞれの家庭の状況にもよりますが、家族が増えても広い面積が必要な時間って、トータルで考えるとそんなに長くないですよね。そう考えると、このくらいの広さでも程良い暮らしができるんじゃないかと。うちの場合で言えば、仕事場を別の場所へ移せば3人住まいができますから。限られたスペースでも、その可能性を探っていき、リノベーションをしながら長く住み継いでいく。それを大事に考えていきたいです」。
オフィスは気持ちを切り替えられるよう、カーペットを敷いて雰囲気を変えている。

オフィスは気持ちを切り替えられるよう、カーペットを敷いて雰囲気を変えている。

自らデザインし壁面に造作した棚は、手前から奥に行くほど奥行きが深くなっている。色々な幅の本の収納に対応。  

自らデザインし壁面に造作した棚は、手前から奥に行くほど奥行きが深くなっている。色々な幅の本の収納に対応。  

Ranking Renovation