和風×モダン 寺院の趣をマンションの中に再現。 モルタルと杉の木を組み合わせて。

和風×モダンの夫婦リノベーション寺院の趣をマンションに再現。
モルタルと杉の木を組み合わせて。

お寺に住みたい。大胆な意見に設計士は?

東京都内に建つ築16年、総面積76㎡のマンション。結婚4年目の石津さんご夫婦は、この物件を購入しフルリノベーションをして、半年ほど前から暮らしている。
「ちょうど前に住んでいた賃貸物件の契約が終わるときに更新しようか悩んでいて、どうせならこの機会に家を買いたいなと思ったのがきっかけです」と話すのは、夫の鉄平さん。
「昔から家の間取りを見るのがすごく好きで、インスタでもそういうアカウントをフォローしていたので、リノベしたいなぁと漠然と思っていました」と、妻の美樹さんが続けた。
テーマは、文字通りのお寺だ。
「最初の打ち合わせで、お寺に住みたいですと伝えました。お寺の木目が深い感じや、和の雰囲気が昔から好きなんです(美樹さん)」
当時のことを設計を担当したゼロリノベの設計士・野田歩夢さんはこう振り返る。
「昔、新潟にある旅館のリノベーションを担当したことがありました。初めて石津さんのお話を聞いたときには、自分の経験を生かせる家づくりができそうだなと思いました」
築16年、総面積は約76㎡。

築16年、総面積は約76㎡。

六葉形の釘隠し。釘の頭を隠すための装飾。

六葉形の釘隠し。釘の頭を隠すための装飾。

ガラスの蔵戸は昭和初期に作られたもの。

ガラスの蔵戸は昭和初期に作られたもの。

デスクに座るとちょうど顔が見えるように設置。

デスクに座るとちょうど顔が見えるように設置。

窓枠や床、造作家具も含め、木材は全て杉で統一。

窓枠や床、造作家具も含め、木材は全て杉で統一。

「Fender」のBluetoothスピーカー。

「Fender」のBluetoothスピーカー。

リビングの後ろに設けたワークスペース。

リビングの後ろに設けたワークスペース。

窓からの日光を取り入れて、圧迫感のない空間に。

窓からの日光を取り入れて、圧迫感のない空間に。

壁には鉄平さんの趣味であるギターを飾って。

壁には鉄平さんの趣味であるギターを飾って。

益子焼の茶香炉。お茶の葉に熱を加えて、香りを愉しむ。

益子焼の茶香炉。お茶の葉に熱を加えて、香りを愉しむ。

「木の店 木楽」の一枚板テーブル。

「木の店 木楽」の一枚板テーブル。

蔵戸や釘隠しなど、寺院を思わせる装飾をアクセントに。

しかしお寺がテーマといえど、ここはマンションの一室。完全な木造建築である寺の趣をそのまま再現するには限界がある。そこで設計士の野田さんが手腕を振るった。
「マンションはどうしても梁の形が出てしまうのが、一番の難点でした。また、完全な和風だとソファやダイニングテーブルなどの家具ともマッチしなくなってしまう懸念点も。そこで全てを和のテイストにするのではなくて、梁を見せながら、モダンな要素をプラスして調和をとるデザインを提案しました」
使用する木材は造作家具も含めて、すべて木目の深い杉材で統一。床と梁をモルタルで塗装し、キッチンの腰壁にはセメントを板状に形成した外壁材・サイディングボードを貼った。モルタルやセメントの無機質な質感は、和にも洋にも映える。こうしてモダンな和の空間が完成した。
「旅館のリノベーションをしていたときに、蔵戸や釘隠しを使った経験があり、それをこの物件にも応用しました。ベッドルームの引き戸や、リビングとデスクスペースの仕切りに使っている木枠のついたガラス戸が蔵戸です。昭和初期や大正時代のものを何種類か集めてきて、それぞれの場所に一番合うものを選びました(野田さん)」
デスクスペースの蔵戸は、デスクに座ったとき顔がくる位置のガラスを抜いて、リビングから目線を合わせられるようリメイクを施した。
そしてもう一つ、野田さんが提案した装飾が釘隠しだ。釘隠しとは、日本家屋や寺院の長押(なげし)に打った釘の頭を隠すために付ける装飾具のこと。文様・花・葉・果実・動物・昆虫などを象った様々なデザインがある。
「六葉形以外にも、ウグイスやヤモリの釘隠しもアクセントに使いました。シンプルな中にも遊び心のある家になったと思います」と夫の鉄平さんもお気に入りの様子。
キッチンの腰壁には、外壁に使われるサイディングボードを採用。

キッチンの腰壁には、外壁に使われるサイディングボードを採用。

リビングの中央にアイランド型のシステムキッチンを配置。

リビングの中央にアイランド型のシステムキッチンを配置。

キッチン左側にはトレーニングができるスペースを用意。

キッチン左側にはトレーニングができるスペースを用意。

キッチン後方のクローゼットへ続く白い扉。

キッチン後方のクローゼットへ続く白い扉。

普段使いの食器は、板を渡しただけのシンプルな棚に収納。

普段使いの食器は、板を渡しただけのシンプルな棚に収納。

キッチン後方のクローゼットは入り口が2つ。回遊できる動線に。

キッチン後方のクローゼットは入り口が2つ。回遊できる動線に。

衣類だけではなく、掃除用具や書類なども5.2㎡のクローゼットに収納している。

衣類だけではなく、掃除用具や書類なども5.2㎡のクローゼットに収納している。

玄関のすぐ目の前には、手洗い場を設けた。

玄関のすぐ目の前には、手洗い場を設けた。

手洗い場の壁面には、陰影の美しい立体タイルを選んだ。

手洗い場の壁面には、陰影の美しい立体タイルを選んだ。

シューズクローゼットの入り口には、わら細工を飾って。

シューズクローゼットの入り口には、わら細工を飾って。

モルタルの床に、木目の濃い杉が映える玄関。

モルタルの床に、木目の濃い杉が映える玄関。

30㎝の段差が叶えた、一筆書きの動線とは?

そして間取りで特筆すべきは、リビングをぐるりと囲むように作られたモルタルの土間。設計士の野田さんがこう説明してくれた。
「段差の上(リビング)がくつろぎ空間、段差の下(土間)が生活空間という棲み分けをしています。ワークスペース、キッチン、お風呂、クローゼットという暮らしの機能的な部分をすべて土間に集約することで、一筆書きの動線を描きました。たとえば家に帰ってきたとき、玄関横の手洗いで手を洗って、目の前にあるシューズクロークで靴を脱いで、そのままキッチン後方のクローゼットで部屋着に着替える。帰宅してからの一連の身支度が、リビングにたどり着くまでに完了できるようにしました。リビングに服や物を持ち込まなくて済むので、散らかりづらいのもメリットです」
また、リビングと土間の間には30㎝もの段差が設けられている。
「土間にあるキッチンの腰壁の高さは約70㎝なので、リビングにダイニングテーブルを置いたときに、腰壁とテーブルが同じ高さになるように設計しました。そのおかげで腰壁が目線を遮ることなく、すーっと視線が抜けます。また、段差を活用してワークスペースのデスクとテレビボードの高さも揃えました。高さを揃えることで、見た目も美しく仕上げました」と続けた。
大学時代、同じバンドサークルで出会ったという石津さんご夫妻。壁には鉄平さんのお気に入りのギターがずらりと並べられている。
「ヘビメタからロックまで幅広いジャンルの音楽をやっているので、曲調に合わせて使う楽器を変えています。ギターを弾くときは、この段差に腰掛けて弾いています(鉄平さん)」
最後に将来について聞いてみた。
「キッチン横のフリースペースに、トレーニングの器具を置いて今はジムのように使っていますが、ゆくゆく家族が増えたときには子供部屋として活用する予定です。また、今は引っ越したばかりで物をあまり置いていないのですが、和の雰囲気に合う盆栽や古道具を増やしていきたいなと思っています」と2人、笑顔で締めくくってくれた。
左側が玄関、右側の扉の先が9.8㎡の寝室。

左側が玄関、右側の扉の先が9.8㎡の寝室。

寝室の引き戸。実際に蔵で使用されていた蔵戸を再利用。

寝室の引き戸。実際に蔵で使用されていた蔵戸を再利用。

4枚の引き戸を開ければ、開放的な寝室にもなる。

4枚の引き戸を開ければ、開放的な寝室にもなる。

寝室とワークスペースも繋がっている。

寝室とワークスペースも繋がっている。

ワークスペースから見た寝室。

ワークスペースから見た寝室。

リビングをぐるりと囲むモルタル床の通路。

リビングをぐるりと囲むモルタル床の通路。

リノベーションは「ゼロリノベ」に依頼。

リノベーションは「ゼロリノベ」に依頼。

Ranking Renovation