日本の美をマンションライフに一つの空間で十の暮らしを
家族がつながる「一畳十間」の家
リノベ前に暮らしてみて分かったこと
小大建築設計事務所の小嶋さんご夫妻は、3年程前、築50年に近い都心のマンションを購入、自邸としてリノベーションした。
「和室のある竣工当時のままの3LDKでしたが、そのままの状態で1年間暮らしてみました。そうすることで光や風の入り方、暑さ・寒さなどが体感できプランニングに活かせます。これ、大事なことなんですよね」と、小嶋伸也さん。断熱性などの機能面に加え、間取り計画にも役立ったという。妻の小嶋綾香さんは、
「当時子どもは保育園児と0歳児。以前の間取りではキッチンに立って子どもの様子が見えないのが嫌でした。私達ふたりとも仕事をしていて、一緒に過ごす時間があまり取れないこともあり、家族でいる時はみんなの顔が見える、そんな家にしたいな、と思いました」。
その実感が活かされて生まれたのが「一畳十間」の家。全体の面積の70%程を占めるLDKに様々な機能を持たせることで、ひとつの空間で幾通りもの過ごし方ができる、これまでのn(個室数)LDKの概念に縛られない空間が誕生した。
日本人に心地良い暮らしとは
玄関を入ると洗い出しの三和土が現れ、室内へと招き入れてくれる。玄関先にある和室は、襖を開け放つとその向こうのリビングと一体となってひとつの空間に。
「もともと廊下があったのですが、こうすることで広い玄関ホールとして見せることができるし、和室は客間にもなり、夜は寝室にすることもできます。あえて区切らず、何にでもなる空間として存在させました」。
和室に設けられた縁側の対面には、コート掛けが備えられているが、ここに季節の花をあしらえば、床の間として楽しむこともできる。日本ならではの設えと開放的な造りが、気分を高めてくれる。
「私自身、京都出身なのですがアメリカに留学し、日本の文化をもっと知りたいと思うようになりました。日本人にとって居心地のいい空間とは何か、それを追求してマンションにブレンドしたい、と考えたんです」(綾香さん)。
リビング側には野田版画工房にオーダーしたテーマ性のあるモダンな襖。日本文化と伝統が、現代に程よくブレンドされている。
ひとつの間に機能を散りばめて
和室の他には、コンパクトなベッドルームと、2畳ほどの書斎がひっそりとある。
「壊せないパイプスペースにまとわりつけるように収納とトイレ、書斎を設けました。その周りを回遊できる箱のように見立てています」。
天井が塞がれていない白い箱のような空間は、ザラザラとした塗装が特徴的。
「粒子の粗い珪藻土を使っていて、子どもがぶつかったりしても剥がれ落ちてきません。光の当たり方で生まれる陰影も楽しめます」。
光がやわらかく差すように、壁の角はR曲面に。ベッドルーム、バスルームのドアは、金物を見せないアウトセットにするなど、細部に渡るこだわりが居心地の良さを生んでいる。
「バスルームと洗面所の床のタイル、洗面ボウルは少しテクスチャーのあるものを選びました。ムラがあると汚れなども目立たないんです(笑)」。
FRP塗装のバスルームは、洗面との間に仕切りを設けないことで広々と。床暖房も入っていて、快適なバスタイムを過ごせる。生活インフラを集約させたスペースがリビングと緩やかにつながり、どの場所にいても家族の気配が感じられる。
自然素材と光が豊かさを生む
テクスチャーのある珪藻土、無垢のオークの床材、ラワンを染色した建具…。和の設えを取り入れるときに、自然素材にこだわることも外せなかった。
「コストダウンを図るため、オークの床材はフシ入りのものを4割仕入れました。あまり目立たないように、フシの多いものはベッドルームに使い、リビングに使うものは位置を指定して張ってもらいました。かなり嫌がられたと思いますが(笑)」。
フシが自然な感じで入った床が広がるLDKには、重厚感のあるダイニングテーブルがあり、天板の下から器が顔をのぞかせている。
「器を1点ずつ楽しむことができるようにオリジナルでデザインしたんです。天板にはラワンを使っていますが、1枚板に見えるように加工しているので厚みがあります」。
テーブルを囲んで家族が集まる広々としたLDKを、昼は2面から入るバルコニーの光、夜はやわらかで幻想的な間接照明が照らす。
「和を意識した設えの中で、照明計画は欠かせません。光の色味や当たり方なども細かく計算しました。照明の奥深さを感じていますね」。
日本の美を今の暮らしに溶け込ませた心地よい空間。それぞれのスペースにそれぞれの機能を散りばめながらも一体感を持たせた「間」が、コミュニケーションを生み、豊かな暮らしを感じさせてくれる。