見せない収納ですっきりと静謐な暮らしを保つ
壁面収納と片引き戸
新築で買ったマンションを20年目でリノベ。
東京都内に建つ築23年、総面積87㎡のマンション。新築でこの物件を購入したWさんご夫妻は、20年目にフルリノベーションを決意した。
「長年住んでいると色々と劣化してくるので、その都度、部分的に修理をしてきました。ついにエアコンが壊れて、フルリノベーションを決意。ネットで見つけた素敵なおうちのオープンハウスへ行き、そこの設計士さんにお願いをすることにしました」と話すのは、奥様。
リノベーションの設計は「SEKI DESIGN STUDIO」のデザイナー・関洋さんに依頼をした。
2LDKだった間取りは、壁や扉を取り払いワンルームへと改修。部屋の中央にある浴室を囲むように、ぐるりとドーナツ型の間取りが完成した。
「お風呂の位置が制約となり、間取りを自由に決めることができませんでした。しかし水回りの位置を大きく変えると、排水管の勾配を取るために床に段差ができてしまうのが懸念点でした。生活のしやすさを考えて、床はフラットのままにしたかったです」と続けた。
見せる収納から、見せない収納へ。
リノベーションの設計で、大切にしたことは大きく2つある。1つは見せない収納だ。
「昔は物を飾りながら、見せる収納をしていました。出窓のある家に住んでいた時は、そこに細々と陶器などを並べて、毎週それを拭いていました。今の家では家電もゴミ箱も、全て壁の中に収納されています」
グレーの壁面はそのほとんどが収納の扉だ。扉の面がきれいに揃うように、収納棚は一つ一つ中の大きさを細かく調節した。一見、一続きの壁のように見えるが、キッチンの背面は食器や家電、洗面台の横は洗濯機、寝室はワードローブと、用途に合わせた収納が内部に作られている。
またW家では部屋にゴミ箱を置いていない。その代わりに、キッチンキャビネット、洗面台カウンター、洗濯機の収納内にゴミ捨て場を設置している。見せたくないものは目につくところに置かない。これを徹底することで、すっきりときれいな空間を保っている。
洗面台の鏡をウッドブラインドに変えた理由。
もう1つのこだわりは、部屋のどこからでも緑が見えることだ。ベランダから一番遠い寝室からでも緑を眺めることができる。
「洗面台はもともと一面の大きな鏡でした。それが壁となり寝室が暗かったんです。しかし仕切りをなくしてしまうと、寝室や浴室が常にベランダから丸見えの状態になってしまいます。いろいろと考えた結果、ウッドブラインドに。お風呂を使う時や寝る時は閉じておき、逆に朝は開けて歯を磨きながら日光と緑を感じています」
さらに寝室と浴室の間には大きな引き戸を設けた。引き戸を引けば、寝室を完全に個室にすることができる。引き戸は壁に沿って収納できるので、使わない時は戸があることにも気がつかないほど壁に馴染んでいる。
「寝る時は大きな引き戸を必ず閉じます。料理をするときも寝室に匂いがいかないように、引き戸を使います」
これまで2人で世界各地を旅してきたというご夫妻。部屋にはアフリカの民芸品、パリで見つけた陶器、黒田泰蔵の白磁などがセンスよく飾られている。無駄のない静謐な空間が、飾られた作品をより一層美しく際立たせる。
最後に、暮らしの変化について聞いてみた。
「今は私も主人もほとんど在宅ワークです。家にいながら細々とした家事ができるし、お昼もちゃんと食べられるのがいいですね。これまで仕事が忙しくて、旅行もたくさんしていたので、家でゆっくりと時間を過ごしていませんでした。それがリノベとコロナをきっかけに、家にいる時間がぐっと増えました。ゆくゆくは家でゆっくり過ごそうと考えていたので、それが思ったよりも早く、突然に現実になった感じです」と締め括ってくれた。