柱を家のシンボルに生活感をほどよく除いた
魅せるワンルーム
憧れのリノベに着手
「ずっとリノベーションに憧れていたんです」というグラフィックデザイナーの小林杏奈さん。物件探しの途中でコロナ禍が訪れ、夫の在宅ワークが増えたことから、広さを求めて郊外へとシフト。2年程前に、生け垣に囲まれた当時築35年のマンションを見つけた。
「静かな環境で、建物にゆとりと清潔感が感じられたのが決め手です。春は入り口が緑のアーチのようになるんですよ」。
リノベ済みだった63㎡の3LDKを、バスルームとトイレだけを残してスケルトンに。
「もし自分が家を持つならと、10年くらい前から色々な事例をたくさん集めてデータベース化していました(笑)。その中で、いちばんデータが多かったのがnuリノベーション。パッケージ化されていなくて、自由に設計できるところも魅力的だったので、設計・施工を依頼しました」。
イメージしたのは、白をベースにグレーの素材や木の色調をバランスよく組み合わせた空間。仕切りを取り払いワンルームに見立てた箱を、設計士さんと相談しながら造りあげていった。
壊せない配管を円柱に
設計士さんに最初に伝えたのは「扉がキライ」だったそう。
「扉があると、ドアノブに服が引っかかったりするし、邪魔になるじゃないですか(笑)。それよりは無駄なもののない、オープンな空間を楽しみたいと思いました」と夫。
壊せなかった柱やパイプスペースは、島のように見立てた収納と、円柱のような柱にアレンジして、ほぼ仕切りのない空間に。
「円柱にしたパイプスペースは、キッチンを囲う壁の一部に組み込まれていました。造作するキッチンを見せたかったので、壁を取り払いたいと思ったのですが、PSをどうするか。色々プランがあったけれど、角柱にするとつまらないし、丸くできませんか?と伝えたら、“職人さんに相談します”と(笑)」。
木で周りを覆う大工さん泣かせの工法だったが、小林家のシンボルともいえる1本の円い柱が誕生。
この円柱を中心に広がるLDKは、キッチン側をグレーのPタイル、リビング側をオークの床でゾーニングした。
「キッチンは、持っていたラックのサイズに合わせて設計してもらいました。収納のないオープンなキッチン台にしたので、コストも抑えられました」。
木とステンレスでキッチン台を造作し、外壁用のグレーのタイルを壁に。
「海外のインスタなどを参考にしたのですが、本や雑貨を一緒に飾るなど、キッチン感が出過ぎていない事例がたくさんあって、素敵だなと思ったんです。ここはワンルームだし、生活感をあまり見せたくなくて。見て楽しめる、部屋になじむキッチンを目指しました」。
生活感の出るオーブンレンジは造作棚で隠し、壁に設置した棚には北欧雑貨などを並べて、ディスプレイを楽しんでいる。
ラインにこだわり統一感を
ベッドルーム〜リビングの床は、つなぎ目が一直線になるように並べた“すだれ張り”に。ベランダに向かってまっすぐ伸びるラインが、すっきりとした印象を与えている。
「この床は設計士さんが提案してくれました。ラインにこだわる方で、細かいところまで揃えられているんです」。
壁を設ける代わりに、軽くゾーニングしたリビングのインナーバルコニーと、ベッドルームの仕切りのような衝立ては、さり気なく同じ高さに。きれいに揃っていることで、空間に統一感が生まれる。
「リビングにはワークスペースを設けたのですが、Rの形状のレールを設置して、カーテンがかけられるようにしています。普段はほぼ開けていますが、オンライン会議の時などは閉じれば個室のようにもなります」。
閉じたときもコットンのやわらかいカーテンを通して、光が抜ける。造作のデスク前の壁には、壁紙の下にマグネットペイントを施して、ディスプレイを楽しんだり、メモを貼ったり。2人で作業できる広さも確保されている。
好きなものを楽しむ暮らし
玄関脇にあった洋室は、壁を取り払って丸ごと土間にチェンジ。広々としたモルタルの玄関が、開放感を感じさせる。
「色々な事例を見て、いちばん最初に土間が欲しい!と思ったんです。帰宅時にも余裕が感じられて気持ちがいいですね」。
洗面も、YouTube動画で見た事例を参考にしたもの。
「設計士さんに動画を送って、鏡や棚の付け方、ライトの位置など把握してもらいました。使い勝手もいいですし、好きなデザインを毎日、目にしていられるのは心地がいいです」。
デザイナーという仕事柄、目に触れるものの大切さを実感するという杏奈さん。部屋のあちこちには、好みのアートや雑貨が美しく飾られている。
「生活の延長線上に仕事があるので、空間は大事だなと思っています。理想の空間を手に入れることができ、暮らしが豊かになったのを感じています」。