家事動線から考えたリノベ通り抜ければ整う
マルチユースなワンルーム
暮らしをラクにするために
整理収納コンサルタントとして、著書を多数出版するなど、活躍されている本多さおりさん。3年程前に、当時築13年のマンションの1室をリノベーションし、家族4人で暮らしている。
「リノベは前提だったので、中古マンション限定で探していました。緑が見えることが絶対条件だったのですが、なかなか見つからなくて。5年くらいかけて探しましたね」。
出会ったのは3方向に窓があり、40㎡の広いルーフバルコニーが付いた65㎡の3LDK。
「本当はもう少し広いところを希望していたし、駅からは遠くなってしまったのですが、ルーフバルコニーの広さは魅力的でした」。
ルーフバルコニーや窓の向こうには、遮るもののない景色が広がっている。
「大事に考えたのは、インテリアというよりは家事動線。物件購入と同時に設計事務所を探したのですが、“気軽に相談できる近所のところがいいよ”と知人からアドバイスを受けて検索をかけた中で、雰囲気が合うと思った建築士さんにお願いしました」。
水回りは“家事通り”に集約
結婚後に暮らしていた古い団地やアパート、それぞれのメリットデメリットをあげながら、建築士さんに希望をリクエスト。
「前のアパートは複雑な間取りで、使い辛かったんです。まず伝えたのは、ランドリーとキッチンがつながって並び、その先にバルコニーが見える動線にしてほしい、ということでした」。
玄関ホールは左右に動線があり、右側に入ると、そこは本多さん曰く“家事通り”。洗面所、洗濯機が次々と現れ、その先に壁付けのキッチンが同じ高さで連なり、室内干しができるバーを設けた開口を抜け、ベランダへとつながっている。
「廊下は無駄だと思っていたので、通路でもありながら両側に必要な機能が揃っているこの通りは、とても満足のいく動線になりました。洗濯機を挟んで設けられた2カ所の引き戸を閉じれば脱衣所にもなるし、私が籠ってzoom飲み会をするなど個室もつくれるんです(笑)」。
家全体の中央部分に収納やバスルームがまとめられていて、“家事通り”を抜けると、LDKへと回遊できる仕組み。
「お風呂やトイレなど箱ものは普通、壁側に寄せることを考えると思うのですが、それを中央にまとめてしまうのはスゴイ。最初のプランを見て、もうすぐにOKでした」。
可変性のある空間に
「もうひとつお伝えしたのは、寝室など個室はたくさんは要らないということ。その時々に合わせて変えられるマルチユースな空間を希望しました」。
玄関から左手の動線に足を踏み入れると、畳敷きの空間に。昼間はその先にあるリビングの一部だが、夜は引き戸を閉じれは寝室に変わる。布団を敷いて4人で就寝するのだそうだ。
「日中使わない部屋を設けるのはもったいない。可変性のある間取りにして、色々な用途に使えるようにしておきたいです」。
畳を敷くことを決めてから、障子を提案された。障子の上に設けられた庇には間接照明も施され、リビングダイニングまで続いている。
「LDKは広く取りたかったですね。リビングとダイニングの間には、何か緩く仕切れるものを探していたのですが、あるお店で使われていた1枚の布が正に求めていたものだったので、売っていただきました(笑)」。
リビングを通ってキッチンエリアへ。ぐるりと回遊できる仕切りのないワンルームのような空間は、保育園児と小学生の子供が着替えなどしやすいよう“リビングの近くにクローゼットが欲しい”というリクエストもクリア。生活動線が満たされている。
“宿”のような寛ぎが溢れる
「インテリアのこだわりは、実はなかったんです。建築士さんが色々とヒヤリングする中で、具体的なことを導いてくださった感じですね」。
玄関の大谷石は予算をかけても実現したかった、夫のこだわり。ラワン合板を使った造作のキッチンや棚、壁面など、自然の風合いと調和している。
「ふたりとも“宿”が好きで、好きなホテルの写真やインスタなどもお見せしました。北欧好きという自覚もなかったのですが(笑)、テイストや色味など、求めているものが近いようです」。
整理収納のプロならではの工夫があちこちにありつつ、さり気なくあしらわれたアートや小物が素敵。
「雑貨屋さんや器屋さんなど、生活道具のお店を巡るのが好きですね。家では育児あり、家事あり、在宅ワークもあり、色々とすることがあるので、それが全て混ざり合ってもスムーズにいく空間にしておきたいと思っています。子供が成長した10年後に、どう暮らしたいと思うのかはまだわからないのですが、今は家族でワヤワヤと過ごせて毎日を快適に送れる、この空間が手に入れられてよかったと思っています」。