色相環をインテリアにテーマパークのように愉しむ
開拓期アメリカの英国人の物語
理想の箱に出会い、2度目の空間づくり
人気の私鉄沿線の駅から徒歩約3分。築42年のビルの1室は、ドアを開けた瞬間から、テーマパークを訪れた時のような高揚感に包まれる。
「解体済みで販売されていた物件だったんです。三角形に近いユニークな形で、2方向に窓があり、入った瞬間に間取りやインテリアのイメージが浮かんできました。これは買うしかない、と思いましたね」と家主の鈴木鉄平さん。
8年前にこだわって建てた注文住宅を売却。新たにマンションリノベに着手することに。
「前回の戸建てを経て、インテリアに興味を持つようになり、本業を続けながらインテリアコーディネーターの学校に2年間通ったんです。色々な知識を得て、自分がどれだけできるか確かめてみたいというのもありました」。
SHUKEN Reの担当プランナーに様々な希望を伝え、相談を重ねながらスタート。約半年前に個性的で美しい2LDKが完成した。
部屋毎にテーマカラーを
タイルが床一面に貼られた玄関からは、ガラス入りの扉や室内窓を介してLDKの様子が伺える。ブルーの扉を開くと、ヴィンテージの家具が置かれた趣きある空間に、様々な色彩が溢れかえっている。
「色相環を意識してコーディネートしました。ブルーから始まってグリーン、イエローそしてレッドへと繋がっていきます」。
総面積61㎡の空間は、それぞれの部屋毎に、テーマ性を与えて色相で表現。
「本格的なイギリスのリッチを表現したリビングダイニングはネイビーからブルーへ、框型のシックなキッチンから、癒しフレンチ系のベッドルームへはグリーンが伸びて行き、サニタリーはイエロー。そしてバスルームを挟み、開拓期アメリカを表現したレッドのアトリエへと繋がっていきます。空間毎にテーマ性を持たせながら、全体としてひとつにまとまっている、テーマパークのような家を目指しました」。
統一されたテーマは“アメリカ開拓期のイギリス人建築家の家”。LDKにはブルーで塗装したモールディングの腰壁にウッドシャッターを採用し、自ら設計した壁面収納兼TVボードには、Gucciの壁紙を取り入れた。選ばれた素材とこだわり抜いたデザインが、古き良き時代を思わせる空間に、独創性を加えている。
ドアを開けると遠い異国へ
「間取りのイメージはできていたので、どんな素材を使って落とし込んでいくかと、家具選びに時間をかけました。キッチンの横の壁にはレンガを貼りましたが、室内用ではハードな味が出せないので、外用の乱形石を選びました」。
床をタイルに切り替えたキッチンは、サイドの壁をエクステリア用のレンガで荒めに。グリーン系のムラ感のある面材にウォールナットを組み合わせたキッチン台が目を引く。
「キッチンも家具として見せたかったので、イタリアのCUCINA一択でした。この色の框型は施工例の画像がなくて、全貌がわからないまま発注したのですが超お気に入りです。汚したくないので、ほぼ使いたくないですね(笑)」。
キッチンからさり気なくグリーンでリンクしている寝室は、1枚の絵のよう。
「キッチン前から室内窓を通して寝室を望むこのアングルが、実はいちばん好きなんです。寝室は、女性も男性も素敵だと思える空間に仕上がったと思います」。
LDKと雰囲気が変わり、フレンチなテイストが癒される雰囲気。Gucciの壁紙のグリーン、額縁のグリーン×ゴールドなど、色のコーディネートが見事だ。
「洗面台は仕切る予定だったのですが、それでは普通だなと思い、独立させて見せることにしました。水回りはウィリアム・モリスの壁紙を使って、イエローでまとめています」。
トイレには、なんとイギリスの街並を再現。夜のロンドンを模した壁紙に、一面には建物をイメージしてレンガを貼り、床には石畳をイメージしてタイルをあしらった。
「扉を開けるとイギリスに着く“どこでもドア”なんです(笑)。コロナで旅行に行けなかったので、トイレでゆっくりするときに、ロンドンの夜景を眺めようと。うちに来た友人がトイレに行くときは、“イギリス行ってきます”と言ってもらっています(笑)」。
カラーを混ぜつつ統一感を
ワクワクする空間の連続はアトリエで完結。躯体現しの壁と天井に、一部、腰壁とウィリアム・モリスの壁紙、ブリックタイルを使って、抜群のセンスでアレンジ。
「色を使うと全体にがちゃがちゃしてしまうので、何か規則性を持たせたかったんです。そこで色相観でぐるっと1周つなげてきました」。
そのイメージのベースとも思われるのは、ダイニングの照明。様々な色のシェードがいくつも束ねられたユニークなデザインだ。
「10年くらい前にたまたま見つけて、前の家でも使っていた、墓場まで持って行きたい超お気に入りです(笑)。高さのあるこの照明を吊るせるように、床のレベルは上げず、天井も造らないで、天井高を確保しました」。
すべてはここから始まって、ひとつのストーリーが生まれていったかのよう。
「シンプルとかモダンとか、人それぞれ好きなテイストはあるけれど、せっかく色々な色彩、素材があるので遊んでみたいと僕は思いますね。ここまできたら家も作品。人生の中であと何回か作品づくりを楽しんでみたいと思います」。
リビングのチェアに身を沈め、愛猫のこっちゃんとともに、ゆったり時を過ごす。そんな時間も、いつもデザインのことが頭にあるそうだ。