夫婦2人の90㎡リノベーション木のトンネルで空間を分ける
額縁のあるワンルーム
和室のある4LDKを、緑溢れるワンルームへ。
結婚3年目になる谷口さんご夫妻は、昨年この物件を購入しフルリノベーションをして暮らしている。もともと4LDKだった間取りは、ほとんど間仕切りのないワンルームへと生まれ変わった。
リノベーションの設計・施工は、リノベ会社「ゼロリノベ」に依頼。物件探しからワンストップでオーダーできる会社の中から、事例のデザインが一番しっくりきた会社を選んだ。物件探しで重視したことは主に2つ。
「2人とも植物が好きだから、日当たりがいい部屋が希望でした。そしてもう一つは、私の実家から近いこと。高齢の母が1人暮らしなので、何かあった時にすぐ駆けつけられる距離に住みたかったです。この2つを軸に探したところ、すんなり決まりました」と話すのは、奥様の定恩(ジョオン)さん。
日当たりのよさに加え、南向きの大きな窓があったことも決め手となった。
「大きなLDKを中心にした間取りを考えていました。そのため、部屋のどこにいても風が通り抜ける開放感に惹かれました」と、旦那様の諒太さんが続けた。
テーマは常設展と企画展のある家。
オブジェや雑貨を集めるのが好きだと話す谷口夫妻。新しい住まいには、2人のコレクションを飾る展示スペースを設けることにした。
「せっかく手に入れたのに、仕舞い込んだままで飾れていない作品がたくさんありました。そんな話を設計士の野田歩夢さんにしたら、『常設展と企画展のある家』というリノベのテーマを提案してくださいました」と、諒太さん。
大きな家具やオブジェは常設展として通年を通して飾り、小さな作品や絵は企画展として定期的に入れ替えるという案だ。美術館の企画展のように季節や気分に合わせて作品を入れ替えることで、家にいながらも新鮮な気分で過ごすことができる。白い壁と仕切りのないシンプルな間取りが、飾られた作品を一層引き立てる。
飾られた作品だけではなく、リノベーションで作り上げた建具や造作したキッチンそのものも常設展の作品の一つとして考えた。例えば、リビングと寝室をつなぐ“トンネル”も作品の1つだ。チーク材で囲われた1.4mの通路が、先の景色を額縁のように切り取る。
「ただの廊下にするのではなく、チークの端材をぐるりと貼りました。印象的な通路にすることで、パブリックスペースであるLDKと、プライベートスペースの寝室を視覚的に分ける役割を担っています。個室のないワンルーム空間なので、どうやって心理的に距離を生み出すかを試行錯誤しました」と、野田さん。
オイル塗装を施したチーク材は、床に使用したオーク材よりも色が濃くツヤのある素材。これも野田さんのこだわりだ。
「チークの自然なツヤが、植物の緑とよく合うんですよね。寝室のインナーテラスに植物を飾るという話を聞いていたので、植物がより映える木材を選びました」
水道管の制約を1.6mのベンチで克服
個室を設けていない谷口邸だが、 3.5㎡の玄関とLDKの間には扉を設けた。独立した空間の玄関土間は、モルタルと木材ですっきりとしたデザインに。玄関ドアの横には、長さ1.6mの細いベンチを用意した。実はこのベンチの下には、水道管が通っている。
「当初は壁の中に水道管を収める予定でした。しかし、そのためには壁を厚くする必要があり、玄関の面積が狭くなってしまいます。そこで飾り台のような段差を作り、その下に水道管を通すことにしました」と野田さん。その飾り台の上に、諒太さんがDIYでベンチを作った。
「ホームセンターで買ったコンクリートブロックの上に、一枚板を乗せただけなんですけどね。ベンチの横には、河原で拾ってきた石に革紐を巻いて、関守石(せきもりいし)風にして飾っています」
もちろん玄関土間にも、至る所にお気に入りの作品が展示されている。
「玄関の一番目立つところには、101 COPENHAGENのコンソールテーブルを飾りました。長い8本の足がアーチ状になった佇まいが橋のようでお気に入りです。テーブルの真ん中には、その時々で好きな作品を飾っています。今は作家・小孫哲太郎さんの花瓶です」と定恩さん。好きなものに囲まれながら暮らす楽しさを、リノベーションによって叶えた谷口さんご夫婦。住まうほどにさらに素敵に進化していくだろう。