沖縄外人住宅の再生s

Renovation Report リノベーション・オブ・ザ・イヤー
受賞作品・動画セレクション

いよいよ投票が始まる「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2023」。今年も審査員として、TOKOSIEから斉藤アリスが参加する。今年のエントリー事例にも興味津々だが、その前に昨年の結果を振り返ってみたい。ここでは、2022年の12月6日、東京大学伊藤謝恩ホールで発表された授賞作品の中から、TOKOSIE読者が興味を持ちそうな物件をセレクトして、動画でご紹介する。
リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、リノベーション協議会の会員企業が、自分たちの自信作をエントリー、それを読者が投票し、投票結果を参考にノミネート作品が決まり、それを住宅メディアの編集長たちが審査する。賞は、総合グランプリと工事価格別の最優秀賞、そして特徴のある事例に特別賞が与えられる。審査会では、個々のリノベーションの持つ意味、デザイン、住宅性能などについて、総合的に議論されるが、ここでは、特に、施主のこだわりが表現されたデザイン・コンシャスな事例をセレクトした。

ローカルレガシー・リノベーション賞
Mid-Century House
沖縄・消えゆく外人住宅の再生

沖縄の外人住宅は、在日米軍のために基地周辺に建設された住宅で、東京にも福生などに米軍ハウスと呼ばれる同様の住宅がある。アメリカンスタイルの住宅で、特別な存在感があり、1970年代に民間に開放されると、ミュージシャンやアーティストが移り住み、独特のカルチャーを生み出した歴史がある。老朽化して建て替えが進む中にあって、リノベーションしてカフェやショップとして再生する流れがあるが、本件はその代表的な事例だ。

今回のリノベーション・オブ・ザ・イヤーでは、その外人住宅を文化遺産として継承していく試みが評価された。さらに、リノベーションでは、住む人の世界観をどこまで表現できるかが大きなポイントになるが、その点でも、パームツリーを植え、ミッドセンチュリー家具を各部屋に配し、スタイリッシュな空間づくりに成功している。

この物件は、住まいであると同時に、民泊および撮影用ハウススタジオとしても活用予定。

1000万円以上部門 最優秀賞
Ring on the Green-風と光が抜ける緑に囲まれた家

1000万円以上部門の最優秀賞は、実はTOKOSIEで取材済みの事例だった。一級建築士事務所HAMS and,Studioを主宰する伯耆原(ほうきばら)洋太さんが、行った2軒目の自宅リノベーション。

東京都内にある築30年ほどのマンション。風呂場があった中央にオープンキッチンを置き、空間の抜けを作ったことで、ワンルームとしての広さを出すだけでなく、視覚的な開放感が演出できた。

最も目を惹くのが、空間全体を繋ぐ天井に吊るされたリング状のアイアンバー。2重構造で上下に照明が組み込まれており、シチュエーションによって使い分けることができる。シャープさが際立つ鉄だが、同じ素材で作られた造作棚のフレームから始まり、空間全体へと湾曲し延びる姿は“ただ吊るされた”という静的なものではなく、循環する動的なもので柔らかな印象を与える。

広さに加えて、この物件の大きな特徴が窓の多さ。3つの外壁に8つの窓があることで、充分な採光と風が通り抜けるのは魅力的だったが、プライバシー確保の問題があった。自邸と近隣、互いの視線が交わらないようにする必要があり、そこで窓にインナーサッシを設け、アウターサッシとの間に植栽とブラインドを設置。さらにインナーサッシの手前には内壁を取り付け5重構造の窓にした。これにより、外からの視線を遮るだけでなく、断熱効果や奥行きを持たせる視覚的な効果、室内の一体感も生み出す形になった。

フェミニン・リノベーション賞
世界を旅するネイリスト
海外の開放感と自然の光が広がる空間

神奈川県横浜市にある築48年の中古マンション。インスタグラムで36万人のフォロワーを持つネイルアーティストがプロデュースした住居兼ワークスペースだ。

海外からインスパイアされた空間で、部屋のすべてを明るいウッド色とホワイトでまとめ、各所にデザイン的な工夫も入れながら、「理想の女子部屋」としてまとめている。リノベーションには、自分の描く世界観の実現に向けてどれだけこだわるかという軸があるが、飾り棚の造形やバスルームの取っ手やシャワーヘッドなどの金具類まで、女子の感性で細部にまでこだわり、スタイリッシュな空間を実現している。

「コト」のデザインリノベーション賞
コトなるカタチ

築20年程のファミリー向け3LDKマンション。必要性の無い和室を無くし、その分広いLDKとしたいなど、できるだけあるものを活かす、部分リノベーション。間取りのカタチは変えていない。変えたのはキッチンのカタチ、出入り口のカタチ、建築としてのカタチは活かし、ディテールを大胆に変更した。

キッチンはLDKのメインとなるように、セミクローズドからY型のオープンに。親がキッチンで作業しながら、子どもたちの様子を見ることができる勉強スペースにもなり、週末は子供たちがお寿司屋やたこ焼き屋のカウンターに見立てて料理を振る舞ってくれる。キッチンで出来るコトが格段に増えた。

向かい合わせの寝室の扉は大胆なアーチ開口とし、カタチをガラリと変えた。寝室の扉は鏡貼りとすることで、廊下をまたいでダンスレッスンスペースとなり、扉を開けば廊下を含めて一体感あるワンルームのように使うこともできる。

目指したのは「家の中で色々なアクティビティーを体験でき、家族で暮らしを楽しめるコト」料理をみんなで楽しむコト、バルコニーで朝食をとるコト、ハンモックでのんびり読書するコト、サロンとしてゲストをもてなすコト、子供の可能性を引き出だせるコト。間取りのカタチを変えずに、少しばかり、異なるカタチを添えることで、新しい暮らしが実現した。

3次元空間活用リノベーション賞
Summer Camp House-子供達の「自分で」を育てる家

リノベーションによって、子どもたちが一日中楽しく遊べる基地のような家が誕生した。

何より楽しく拝見したのは、フィールドアスレチックのような場所が家の中に出現し、子ども達が遊ぶ写真。3つの高さの違うフロアやアスレチック壁など、3次元に空間を活用し、子ども達のために工夫を重ねたリノベーションだ。
3人のお子様がいるお施主様は「サマーキャンプのような、子どもたちだけの自由に過ごせる空間」をという希望をされたという。「体を動かす遊びは外でしなさい」ではなく、のぼったりもぐったり勉強したり、と家の中に取り入れた楽しい空間は、制約のある住まいを平面で考えるのではなく、立体的に空間として活用できるということを改めて教えてくれるリノベーション事例である。(リノベーション・オブ・ザ・イヤー、講評より)

マーケティング・リノベーション賞
北九州・まちなかロッヂ

エレベーターなしの団地の4、5階という物件に山小屋風のリノベーションを施し、アウトドア好きに売ろうという企画。

築39年、エレベーターなしの5階部分という負を抱えた公団住宅の一室。「まちなかロッヂ」というコンセプトのもとに、アウトドア好きが喜ぶ内装を整えた上で、エレベーターがないことを「日々運動ができる」とポジティブ変換したマーケティングプランを作った。これを再販で行ったリノベ会社の凄みを感じつつも、時代が追いついてきて、この物件を良いと思って住みたい人がいるだろうなと思えたことが嬉しい。見方を変えることで、負はベネフィットにもなりえる。リノベーションの奥深さも、改めて感じることができた。(リノベーション・オブ・ザ・イヤー、講評より)

Information
リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022特設サイト

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