逗子に引っ越してリノベーション玄関土間からバルコニーまで
眺望の抜けるプランニング
まずは賃貸に引越し。街を知るところからスタート。
結婚6年目になる安達家は、夫婦と1歳になる息子・柑太くんの3人暮らし。2年ほど前に約63㎡ある築54年のマンションを購入し、フルリノベーションをして暮らしている。2人はこの物件を購入する前に、まずは逗子にある賃貸アパートに引越したという。
「僕はこの街のことを全然知らなかったので、まずは住んでみるところから始めました。実際に住んでみると、街全体ののんびりとした空気を感じます。コンパクトな街の中に個性豊かなお店が点在していて、平日は肉屋さんや花屋さんで買い物をしたり、休日は行きつけのコーヒーショップに顔を出したり。それでいてすぐ隣は、観光客で賑わう鎌倉。都内にも1時間弱で出られます。少し足を延ばせば子供と遊べるレジャースポットもたくさん。そのバランスがとってもいいなと思っています。あと僕はサーフィンをやるので、海へのアクセスの良さも魅力ですね」と話すのは、旦那様の賢(まさる)さん。
2年ほど暮らしたこの街にすっかり惚れ込み、物件の購入を決めた。前職の不動産会社で出会った2人。同僚にはマンションのリノベーションを選択する人が多く、自然な流れで自分たちもリノベを選択した。物件探しでは、美しい佇まいが以前から気になっていた物件に思いがけず空室が出たので即決した。
ワークスペースからも街並みを眺められるように。
リノベーションの設計は、前職で同僚だった設計士の松山敏久さんに依頼をした。
「ほとんど自宅で仕事をするので、書斎が欲しいこと、サーフボードやキャンプ用品を収納するスペースとして土間をつくりたいことを伝えました(賢さん)」
それを受けて松山さんは、玄関の横のスペースに広い土間を設置。天井まである大きな棚で空間を仕切りながら、賢さんが仕事に集中できるワークスペースを用意した。さらにデスクの正面はガラス張りになっていて、バルコニーまで約10mを真っ直ぐ見渡すことができる。
「窓から一番遠いワークスペースからでも、逗子の街並みを望むことができます。土間からバルコニーまで抜けている間取りは、マンションのリノベーションではあまりないので面白い提案だと思いました」と続けた。設計を担当した松山さんは、
「高台という立地の特性を最大限に生かす間取りを考えました。そして土間から続く10mの見通しを強調するために提案したのが 、“庇(ひさし)天井” です」
庇天井とは、天井の一部に長い板を貼ることで、空間の奥行き感を演出する仕掛けのこと。
「天井の一部を低くすることで空間に立体感が生まれて、逆に庇のない部分の天井は高く感じます。そういう視覚的なトリックも所々に取り入れました」と語る。さらに庇と天井の間に生まれるスペースを活用すれば、飾り棚や天井収納という実用的な機能も果たす。
目指したのは、オールドハワイアンの温かさ。
幼い頃から家族でよくハワイを訪れたという奥様の香里さん。2人の結婚式もそんな思い出の地、ハワイにあるキャルバリー・バイ・ザ・シー教会で挙げた。
「木の温かみを感じられる歴史ある教会です。そのウッディな雰囲気を自宅のリノベーションに表現したくて、デザインのテーマは “オールドハワイアン” にしました(香里さん)」
床には懐かしさを感じさせるパーケットフローリングを採用。
「ハワイらしいウッド感を出すために、チーク材を使いました。昔の小学校で使われていたような市松張りのパーケットフローリングにすることで、レトロな印象に仕上げています(松山さん)」
収納棚やバックカウンターなどの造作家具は、床の色に合わせて塗装。全体を通してウッディな雰囲気に仕上げた。またリビングの壁の一部に採用した柔らかなピスタチオカラーは、ラタンの照明やローカル感のあるアート作品を引き立てる。
「旅先で出会ったものや、クリエイターの友人の作品が多いですね。部屋の雰囲気と合うテイストのものを意識して選んでいます(香里さん)」
この街に暮らして5年目。気がつけばご近所友達が増え、馴染みの海の家もできたという安達家。
「のんびりした田舎と刺激のある都会のちょうどいいバランス感は、ハワイと似たところがあるのかもしれません。小さなコミュニティがいくつもあり、住んでいて孤独感がないというか。子どもが生まれてからは、よりその存在を心強く感じますね。家を行き来できる友人も増えたので、しばらくはこの街を離れたくないなと思っています」と、賢さんが締め括ってくれた。