リノベーションの可能性梁をかけ、壁をつくり、
一味違う空間を演出
富士山が見える部屋
東京都三鷹市に建つ築20年ほどの7階建マンション。黒木優司さん・裕美さん夫妻は、このマンションの最上階の部屋を購入し、リノベーションして今年1月に暮らし始めた。「購入の決め手は眺望。周りにあまり高い建物がないので、遠くまで見渡せて気持ちいいんです。冬場は富士山も見えるんですよ」とお2人は話す。
リノベーションは、コンサルタント会社が紹介してくれた建築設計事務所・A+Sa アラキ+ササキアーキテクツの佐々木珠穂さんが担当した。「3社ほど紹介していただいたのですが、佐々木さんは話しやすく感覚も合ったので、ぜひお願いしたいと思いました」(黒木夫妻)。
佐々木さんはリノベーションにあたり、まず眺望を生かすことを提案したという。「眺めがいい西側は、LDKと洋室の2部屋に分かれていたのですが、壁をとって1つの大きな空間とし、大パノラマを楽しめるようにしました」(佐々木さん)。
梁をかける
黒木さん夫妻からは、「梁をかけたい」という一風変わった要望が出された。「天井が高かったので、何か面白いことをしたかったんです。住宅関係の雑誌やWEBサイトを見るなかで、梁を見せた空間がすてきだなと思うようになって、佐々木さんに相談しました」(優司さん)。
「マンションのリノベーションで、梁をかけたいと言われたのは初めてでした」と話す佐々木さん。いろいろと考えた結果、広くなったLDKの真ん中に1本棟木のような梁を渡し、そこから切妻屋根のように両側に下がる梁を組んだ。「一つ屋根の下で暮らしている感じを出す、広い空間に落ち着きを与える、ダイニング側とリビング側の気分を分けつつ空間はスッキリ一体感を持たせるなど、この梁が生み出す効果はいろいろあります」(佐々木さん)。さらに、この梁は壁面を伝い下り、同じ材で造作した飾り棚やテレビ台につながる。「単なる飾りにしたくはなかったので、実用性も持たせました」。
壁をつくる
この部屋のもう一つの大きな特徴は、リビングにある壁で区切られた3畳ほどのスペースだ。実はこれはウォークインクローゼット兼書斎。裕美さんの「ウォークインクローゼットが欲しい」という希望と、優司さんの「小さくていいから書斎が欲しい」という願いを、佐々木さんが実現したものだ。中は2つに区切られていて、入り口も2つある。「寝室側にウォークインクローゼットや書斎を増設するのは難しかったので、リビングにつくろうと思いました。壁は天井までつなげず上部に空間をつくり、圧迫感をなくしました」(佐々木さん)。ウォークインクローゼットのおかげで部屋をすっきりと片付けることができ、書斎は集中してPC作業をしたい時に大活躍。新しくつくった壁の中は、黒木さん夫妻の生活に欠かせないスペースとなった。
また、こちらの壁はコテの跡を残した温もりのある表情が印象的だが、黒木さん夫妻と裕美さんのお父さま・妹さんが協力してDIYで塗ったのだという。「自分たちの部屋だから、自らの手が入った部分も欲しいと思って、やる気満々で作業しました」と裕美さん。優司さんも「きれいに仕上げようと気合が入りすぎ、角をつけすぎてあとからヤスリで削ったりもしましたが、いい思い出になりました」と微笑む。
こだわりのキッチンと洗面スペース
そろって料理好きで、週末は一緒にキッチンに立つという黒木さん夫妻。以前から「2人で使っても窮屈じゃないキッチンが欲しい」と思っていた。それを聞いた佐々木さんは、既存のキッチンの向きを90度変えて通路幅を広くとり、2人が一緒に料理を楽しめるキッチンを考案したという。この部屋に暮らし始めて料理への意欲がさらに高まったというお2人。凝り性の優司さんは本格インドカレーつくりにはまり、毎週末のようにスパイスの配合、隠し味などを研究。「ついに先日、究極のレシピを生み出しました」と語る。
また、洗面スペースは毎日頻繁に使うところだからこそ、デザインにこだわった。裕美さんは「壁の色やタイルをどうするか、かなり悩みましたがとても気に入っています。床はチェック柄にして、遊び心を加えました」と振り返る。
花とともに暮らす
黒木さん夫妻の部屋に彩りを添えているのは、美しく生けられたお花たち。裕美さんは4年前からお花のお稽古を続けており、部屋に花は欠かさないという。そんな裕美さんのため、佐々木さんは生け花を飾るための棚も造作した。そこでは四季折々の花が空間に潤いを与え、目を楽しませてくれる。裕美さんにこの部屋で一番気に入っているところを聞くと「この飾り棚です!」という答えが返ってきた。
一方の優司さんのお気に入りは、空間のアクセントとなる梁。「一味違う雰囲気に仕上がって大満足です。梁による音響効果もありそうなので、近々いいスピーカーを買って音楽を流したいですね」と楽しげだ。
「定年後は美味しいカレーを出す生け花教室でもやろうか」「意外と流行るかも」と冗談を言い合うお2人。暮らしに寄り添ったリノベーションを施した住まいでの暮らしを、心底楽しんでいることが伝わってきた。