家族3人の76㎡リノベーションLDKと寝室を、木の壁で大胆に仕切る。
上海で結婚。転職を機に、日本永住を決意。
結婚17年目になるWさんご家族は、ご夫婦と高校1年生になる娘さんの3人暮らし。4年前にこのマンションの一室を購入し、フルリノベーションして暮らしている。
「2015年に上海から日本に引っ越してきました。主人は上海出身、私は上海でフローリストの仕事をしていて、向こうで同じ会社に勤めていた時に知り合いました。今回、主人の転職を機に日本での永住が決まって、家を買おうということになったんです。以前、賃貸で暮らしていた時にも同じエリアに住んでいたのですが、主人がこの環境をとても気に入っていたので立地選びはスムーズでした」と話すのは、奥様。
「上海には、都心特有の喧騒感がありました。今度は自然を感じながら静かに暮らしたいと思っていたんです。見晴らしの良い場所で、四季の移ろいを感じられるような物件を条件に探しました」と、旦那様。戸建てではなかなか思うような物件に出会えず、マンションにも目を向けはじめたところ、この物件がヒット。
「モルタルと木を使った、ミニマルなインテリアにしたいということは当初から決めていました。そのため、モルタルを使った事例や好みのデザインが多くあった、nuリノベーションに設計を依頼しました」と続ける。
コンセプトは隠し部屋。空間を分ける1枚の壁。
玄関ドアを開けると、モールテックスと木で構成されたシンプルな空間が目に飛び込む。部屋の端から端までをつなぐ木の壁は、その奥に家族3人分の個室とクローゼットを隠している。
「イギリスの建築家マクラーレン・エクセルの、『Richmond House』というリノベーション事例が好みなんです。つなぎ目のない壁は、巾木どころか取っ手すら排除したシームレスなデザインで、そのミニマルさに惹かれました。この事例を参考に、最初に考えたのは “隠し部屋” というコンセプトです。生活感をなくしたかったので、リビングやダイニングのパブリックな空間と、プライベートな家族の寝室は完全に分けたいと思っていました。そこで設計デザイナーさんから提案されたのが、木の壁で個室やクローゼットを隠してしまうというプラン。(旦那様)」
一見すると、扉になっているとはわからない、直線的なグリッドで構成された壁。凹凸のないシームレスな印象に仕上げるため、ディテールにもこだわった。
「個室に続く扉には、取っ手をつけていません。個室やクローゼットの入り口すらも隠してしまいたかったんです。取っ手がなくてもストレスなく開けられるようにするため、指のサイズに合わせて幅23mmの直線に切り欠いてもらいました。個室の照明がついている時には、中の光が線で漏れたり、影が差したり。シームレスな壁に、ラインが浮き上がる様子が気に入っています」と続ける。
1人1部屋が、快適に過ごすコツ。
夫婦で使う寝室はなく、個室は1人につき1部屋用意した。それが快適に過ごすコツだそうだ。
「普段、主人は夜中まで仕事をしていることもあるので、私とは生活のリズムが違うんです。同じ部屋だと寝る前に部屋を暗くして読書をするなんてことも難しいので、それぞれに部屋があった方が良いんですよね。もともとは納戸にしようと思っていた部屋ですが、自分の部屋にして正解でした(奥様)」
高校生の娘が、イギリスにアート留学をしてもうすぐ1年。子どもが巣立った2人での暮らしは、以前とライフスタイルも変化した。
「以前より朝がゆっくりになりましたね。私よりも主人の方が早起きをして、コーヒーを淹れて待っていてくれるようになりました。時間のある休日は、もっぱら自然に触れに行きます。長野あたりの湿原に出かけて、森林浴を楽しんで、帰りに農産物を買ってくる。その野菜で料理をつくる時間が好きです」と続ける。
「出かけるのも良いですが、この部屋にいる時間もとても好きです。春には鳥がやってきて、秋には周りが徐々に紅葉していく。本当に景色がきれいなので、毎日飽きないですよ」と旦那様が締めくくってくれた。