ヴィンテージマンションのリノベ築50年の良さを生かしつつ
味わい深い空間に
最上階の眺望に魅かれて
フレッシュチーズの製造・販売を行うCHEESE STANDを経営する藤川真至さんと妻の望さんが暮らすのは、築50年を超えるヴィンテージマンション。藤川さんがこの部屋を購入したのは、2021年のこと。「それまでは職場近くの賃貸マンションに住んでいたのですが、駐車場つきの物件に借り換えようと探す中でここに出会い、せっかくなら購入しようかということになりました」(藤川さん)。
渋谷区の住宅街に建つマンションは、直線的なファサードやアーチ状のエントランスが印象的で、ヴィンテージマンション好きにはたまらない雰囲気。共用部も手入れが行き届き、管理体制も良好だ。「決め手になったのは、この部屋に入ったときの眺め。最上階ならではの抜けた感じがすごくよくて、ここに決めました」(藤川さん)。
以前は写真家が住んでいたという部屋は、LDKに寝室と和室という間取りだった。「床は絨毯張りで雰囲気もよかったのですが、住みやすさのためにリノベーションは欠かせないと考えました」。
クローズドキッチンを、オープンに使いやすく
リノベーションは、ALP, Incの江口智行さんに依頼した。江口さんはリノベ前の部屋を見て「やりがいのあるいい物件だ」と感じたという。その一方で、既存の天井の低さが気になったという。「最上階のため屋内側に断熱が施されている可能性があったので、一部を解体調査したところ、屋内側に断熱材がないことがわかり、天井をスケルトンにできました」(江口さん)。
こうして圧迫感を解消しつつ、藤川さん夫妻の「キッチンをオープンにして人を招けるように」「バスルームを広くしたい」といった要望を叶えるリノベを行なった。クローズドタイプだったキッチンは壁を取り払い、ダイニングにせり出すカウンターを設けることでオープンに。キッチンの設備そのものは、既存の状態が良かったためそのまま使っている。「コンロは4口あり、ガスオーブンもパワフル。とても使いやすいキッチンです」(望さん)。一方、コンパクトだったバスルームは、バスタブの位置を変更することでゆったりとした空間とした。「構造上変更できない点も多かったのですが、できるだけ開放的な空間としつつ、建具などヴィンテージならではの味わいのあるものは既存を生かすことを心がけました」(江口さん)。また古い建物ゆえに温熱環境が心配だったが、床暖房やインナーサッシを導入することで快適に過ごせるように工夫している。
既存を生かし、より上質な空間へ
江口さんは「ヴィンテージマンションは、建物の質としてはしっかりしているものが多いので、使えるところ・変更するところの見極めが大切になる」と話す。藤川さんの家の場合は、建具やキッチンなど使えるものは残しつつ、天井や壁を取り払うことで明るく開放的な空間へと生まれ変わった。望さんが「古い部分が残っているところが好き」と話すとおり、新設部分も既存の雰囲気を反映してつくることで、空間に一体感をもたせている。
藤川さんがこの部屋に暮らして、約2年。住み心地をたずねると「光がたっぷりと入るし、居心地がいい。夕方にのんびりしていると、優雅なひとときを過ごしているなと感じます」とのこと。当初希望していたとおり友人を招くことも多いそうで、皆で料理を楽しむひとときを楽しんでいるという。