キッチン周りに回遊動線を斬新なのにノスタルジック
“会社の保養所”から着想した家
人がやっていないことをやりたい
築50年ほどのヴィンテージマンションの10階。2面にある開口から都心の絶景が遠くまで広がる1室を、会社員の山下竜平さんはリノベーションした。
「物件探しでこだわったのは職場のある大手町へのアクセスがよく資産性も高い立地、それと採光、天井高です。正方形に近い部屋の形も、リノベーションに向いていると思いました」
家を手に入れるなら、自分の理想通りの空間にしたい、と考えていた。
「普通の間取りだとテンションが上がらないんです。既にあるものを手に入れるのではなく、自分で自由にプランを立てて、誰もやっていないことをやりたい。仕事でリノベーションというものがあることを知り、リノベる。さんに、相談してスタートしました」
玄関を上がると家具のような意匠の洗面台を備えたセンターキッチンが出迎える。どこかレトロでノスタルジック、かつオリジナリティ溢れる空間が待っていた。
センターキッチンありきで計画
最初にリノベる。に伝えたリクエストは、“回遊できる動線にする”、“キッチンを壁付けにしない”、“洗面台を脱衣所から外す”の3つ。部屋の中央に構えるセンターキッチンをぐるりと囲む動線上に、洗面台、バスルームへの扉、ダイニング、リビング、ベッドルームが次々と現れる。
「廊下をつくりたくなかったのと、突き当たりがあるとそこに自然とモノを置くことになるので、行き止まりのない回遊型にすることを考えました。あと、以前住んでいた賃貸マンションでは、壁に向かって洗いものをしていたのがつまらなくて、何か悲しくて(笑)。キッチンもオープンにした方が、気分が乗ると思いました」
部屋の中央に構えるセンターキッチンのシンク側では、広がる景色を眺めながら洗いものをすることが可能。友人などを呼んだときも、カウンター越しに会話しながら作業ができる。
「水廻りの制約もあるので、キッチンありきで部屋全体を考えました。セオリーとしては壁側につけたらもっと空間を広く使えるはずですが、今、景色も楽しみながら料理ができる、このプランにして良かったなと思っています」
インプットされたイメージを形に
「着想は“子どもの頃、親に連れていってもらった会社の保養所”なんです。どこかノスタルジックで温かみのある空間を目指しました」
赤みのあるマホガニーでセンターキッチンをオーダー。それにマテリアルを合わせてベンチなどを造作し、カーテンで緩やかに仕切ったベッドルームに、赤いカーペットを敷いた。
「保養所の娯楽室に赤い絨毯が敷かれていた記憶があるんです。あまり家に赤い絨毯は使わないと思うのですが、僕にとっては絨毯といえば赤でした(笑)」
懐かしさを感じさせながら、ほっこりしすぎず洗練されているのは、洗面台横にさり気なくあしらわれた大理石だったり、床一面に敷いたレトロなタイルだったり。
「仕事でヨーロッパに2年間赴任していたのですが、向こうのアパートの内廊下をイメージしています。フローリングだけは、飽きがきていてどうしても嫌でした。床って別にフローリングじゃなくてもいいでしょう、と(笑)」
グレーのタイルをメインに、柄入りのタイルで床を切り替え。センターキッチンの周りを取り囲むように張られているので、回遊動線が描かれているようにも見える。
生活感を排してシンプルに
「洗面台を脱衣所から外したのは、ゲストが来たときなど、プライベートな空間に入ってもらうと冷めると思ったからなんです。見られていいところと見られたくないところはきっちり分けています」
見える部分は生活感をできるだけカット。そのルールは全体に反映されている。
「洗面台の下や壁沿いに造作したベンチ下も、収納にもできるのですが空けていて、本当に必要なものしか置いていません」
あえてオープンにしておくことですっきりと見せつつ、空間に広がりをもたせている。
「ベッドルームのクローゼットとダイニングのストレージ、シューズクロークの3カ所に設けた大きな収納にほとんどのものを収めています。細かい収納がないので、どこに何をしまったか忘れる、ということもないですね」
無駄なもののないシンプルな空間が、快適で心地よい暮らしにつながっている。
「暮らしに不都合なこと、不便なことがないのでノーストレスです。友人からは“何でこんなことしたの?”とか言われたし(笑)、大胆な設計なので本当にこれで良かった? と最初は思ったのですが、いざ住んでみると住みやすくて、居心地がいいです。仕事から帰ってソファで寛ぐ時間が幸せですね」