
シームレスに整えるヘリテージを受け継いで
現代の暮らしに更新
回遊型の間取りを活かして
「以前この辺りに住んでいて、気になっていた建物だったんです。結婚を機に家の購入を考え始め、たまたま紹介していただきました」
前の所有者からは、“購入動機書”のようなものを要求されたそう。
「なぜここに暮らしたいのか、などを聞かれました。それ程思い入れのある家だったのだと思ったし、ヘリテージを大事にされていることが伝わってきましたね。妻の仕事ともかかわってくるのですが、古いものを大事に繫いでいきたい、という私たちの思いを伝えさせていただきました。だから使えるものは全部使っています」
7年程前にフルリノベーション済み。中央に水廻りや個室をまとめ、その周りをぐるりと回遊できる間取りは、そのまま活かすことに。
「以前住んでいた賃貸マンションは、活発なムギ(愛犬・ボーダーテリア)が走り回れる空間ではなかったんです。今では大喜びで、ぐるぐる走ってくれるので、犬ファーストの僕たちにとってよかったです(笑)」

1963年竣工のマンション。総面積は83.84㎡。

天井高が2.6m程ある、広々として開放的な玄関。左右に廊下がある。

壁のような引き戸を開け放つと、ワークルームから始まる回遊空間が現れる。

以前は寝室だったところをワークルームに。梁を活かしてデザイン。
ラインを揃えてノイズレスに
物件探しから相談していたのは、ワンストップで依頼できるnuリノベーション。
「融資から最後の施工まで、コミュニケーションが変わらないのが魅力でした。自分のやりたいことが明確だったし、自ら図面を描き起こしたいという気持ちを、親しくなった担当者の方にフラットに伝えられたのが良かったですね」
2年程しか使われていないため、キッチン、バスルームなどは既存利用。梁や建具に合わせたラインの整合性や内装材の変更などに注力した。
「既存の内装は、MDFという木板がキッチンや洗面、土間、個室などに使われていました。自分が創りたい空間からすると、木の雰囲気が強すぎてしまうので、ほとんどを外しました」
リビングの開口のある一面は、梁を覆う形でふかすことでラインを揃え、エアコンを隠しつつ、きれいな直線に仕上げて白塗装。
「極力、ノイズレスにしていこうとデザインしています。3D、2Dで図面を起こして設計デザイナーさんに伝えました」
白と剥き出しのコンクリートのグレーで整えられたシャープな空間には、峻さんのお祖父様から叔母様に贈られ、そして叔母様から峻さんへと受け継がれた大切な楽器・チェロや、その色にリンクする味のある家具が置かれている。
「チェロを弾くためのラタンの椅子などが自分の原点なんです。その色味を活かしつつ、仕事的にもやってみたいことを足している感じです」
リビングのキャビネットは、あえて置き家具に見えるようオリジナルでデザイン。モダンな空間の中に、味わいを添えている。

2面に開口のあるリビングへ。質のよい無垢のオークの床は既存のままに。

梁を覆うように壁面をふかしてラインを揃えた。エアコンをカバーし、アートスペースも確保。

テレビ下のキャビネットは、あえて置き家具のように、框組にデザインしたオリジナル。配線にも工夫した。

幼い頃から弾いていたチェロ。すぐ手に取れるようにと出している。

現代美術作家・渡辺豊重さんの作品などを飾る。アートを照らすダウンライトも最小限に設置。

木板が使われていたペニンシュラキッチンは、白塗装に変更。

ステンレスシートが貼られてたキッチン台はそのまま活用。

ペニンシュラキッチンの天板は人工大理石。
小上がりの上にベッドルームを
モルタルの土間からベッドルーム側の廊下に回ると、LDKまで続く開口に面して、磨りガラスの引き戸が。その奥は既存の小上がりを活かしたベッドルームと、ウォークインクローゼット+美佳さんの小部屋。
「もともとはふたりのお子さんの子ども部屋で、本棚を挟んで2部屋に仕切られていました。小上がりの上に寝室をつくると和テイストになりますが、ザ・和室にはしたくないなと。設計デザイナーさんと相談する中で、磨りガラスの引き戸を採用し、木枠も太さをミリ単位で検証して決定しました」
引き戸の高さは、人がかがんで入れるくらいの微妙なサイズなのが印象的。
「大きい扉にすると主張が強くなってしまいます。かといって、茶室のにじり口くらいではやっぱりだめなので試行錯誤しました」
ベッドヘッドには、コンセントやコードを隠しつつスマホが置けるよう懐を設け、ライン照明を設置。
「和と洋、どちらにも偏らないちょうど中間の表現がしたかったんです。朝は磨りガラスを通して東の開口から光が入ってきて、心地よく目覚められるし正解でしたね」

引き戸の下は収納になっている。既存の小上がりの半分を壊して、半分を活用した。開口からの光がベッドルームに差し込む。

ベッドヘッドとなる部分に懐を設け、コンセントを設置。ライン照明からほどよい光が放たれる。

ベッドルームに接続するWTC。その奥に美佳さんの小部屋がある。

WTC側との仕切りは、、空調の効率と意匠性を考えてあえて開けた。「どのくらい開けるかも細かく検証しました」
建物のコンセプトも反映して
ノイズを省いていく中では、天井で目立ってしまう照明も邪魔だった。
「リビングにはダクトレールが4本くらいあり、スポットライトがついていたのですが、全部取りました。光源をできるだけ下から焚きたいというのもありましたね」
整ったラインと邪魔なもののないシンプルな空間は、計算され尽くしていながら、どこか温かく、居心地の良さも感じさせる。
「白塗装の部分に、コンクリート剥き出しの部分があることで、ラフな感じを残せました。全部同じに整っていると、主義主張が強くなってしまう。素材感が変わる廊下などを通ると色んな表情が見えきます」
玄関の大きな動物モチーフの絵に始まり、室内のあちこちに飾られたアートや、美佳さんが担当する花なども、柔らかい雰囲気を添えている。
「受け継ぐ、ということがテーマなので、建物に合わせてリノベーションしたいと考えていました。部屋に入ると別世界、みたいな空間にはしたくなくて。和っぽいものにインスパイアされながらも洋風が混じっていたり、新しいものと古いものが調和していたり。そんな建物の雰囲気を室内にも活かすことができたのが、満足している点ですね」

白塗装と現しの壁が共存する廊下。

廊下にはもともとカウンターが造作されていた。腰かけて外を眺めることも。

ワークルーム〜LDKに接続している洗面。一部、既存の木板を残した。

蚤の市で購入した戸棚を加工してタオル収納に。
