
好きなサウンドをテーマにポップなカラーが彩りを添える
仕切りのない回遊型空間
念願だったリノベーション
「昔からインテリア関係の雑誌などを見るのが好きで、いつかはリノベーションをしてみたいと思っていたんです」
というSさんご夫妻。リノベーションを知ったきっかけは、この『TO KO SIE』だったそう。
「前は賃貸に住んでいて、高い家賃を払い続けるなら購入した方がいいという気持ちが芽生えてきました。長年住んだ街にアクセスしやすいエリアで、物件を探し始めました」
物件探しから依頼したのは、nuリノベーション。
「アドバイザーさんと回ったのですが、壁紙が剥がれていた物件を内見した時には、湿気がきやすい部屋かもしれない、など指摘してくれました。良いところだけではなくて、マイナス面も伝えていただいたことで、信頼感が生まれましたね」
5、6軒ほど内見して、子育て世代が多く住む街の、管理の行き届いた築20年程のマンションの68㎡に決定。2LDKをスケルトンにして、憧れだったリノベーション計画をスタートさせた。

玄関を入るとLDKに続く回遊廊下が現れる。

名作家具が置かれたLDK。現しの梁はクリア塗装を施した。壁はすべて塗装で。

クールな内装に、ポップな差し色が効いている。床はモルタルの代わりに、汚れを落としやすい塩化ビニールタイルを敷いた。
テクノサウンドを空間テーマに
「最初にどんな空間にしたいかを考えるときに、“好きな音楽が似合う部屋にしたい”というようなことをお伝えしました」
音楽、特にテクノサウンドが好きだというご主人が依頼したのは、“アルヴァ・ノトの『Deuterotype』が似合う部屋”。
「テクノよりもさらに近未来的な、グリッチノイズという、ランダムにノイズを入れたリズムだけの音楽なんです。同時に、好きな家具や内装を撮り溜めた写真をスクラップブックにして、好みのテイストをお伝えしました。抽象的なのですが、自分がどういうものか知ってもらいたくて。設計デザイナーさんはそれを受け止めてくれて、“創作意欲が沸きました”と言ってくれました(笑)」
3パターンのプランの中から選んだのは、中央にバスルームを挟んで回遊する空間。白とグレーのモノトーンで統一しながら、イエローやグリーンなど、ポップな色合いが要所に加えられている。
「本来、自分の好みからいうと無機質でインダストリアルな空間をイメージしていたのですが、色を使うことを提案されて。ちょっとポップな要素が入った方が抜けた感じになるし、妻にとってもいいかなと思いました」

玄関からワークスペース側への回遊スペース。仕切りはなくシームレスにつながっている。

中央に洗面、バスルームといった水廻りをまとめた。左手にベッドルーム、トイレがある。

ご主人のワークスペースは、天井を好きなカラーのグリーンで塗装。

ワークスペースでは音楽を聴く時間も堪能している。

憧憬するミース・ファン・デル・ローエの作品集は、前から持っているもの。

キッチンへと続く回遊動線には、パントリーを設けた。
音楽の世界観を表現
北欧的なかわいい雰囲気が好みだという奥様は、
「100%夫の好みでいいと思っていたんです。でもキッチンは割と好きにしていいと言われたので、色やタイルを選んで遊んでみました。ただ、あまり可愛くしすぎても嫌がられるので(笑)、面材のイエローは、明るすぎないよう調整しています」
回遊スペースを抜けると、ベランダの開口側にLDKが広がる。3.5mある壁付けキッチンのマスタードイエローが印象的だ。
「タイルの大きさなど、主人がこだわりました。引き出しの取っ手もさんざん悩んだ結果、それならない方がいいねと、設計デザイナーさんの提案で手掛けの穴を彫り込む形になりました(笑)」
もともとバウハウスのデザインに惹かれていたというご主人。憧れていた家具もあり、リノベに合わせて購入を決めた。
「欲しいものは決まっていたのですが、経験値がないので、実際全部揃えるとなると本当に合うのかどうかと。nuさんにはインテリアコーディネートサービスがあるので、相談に乗ってもらえたのも良かったです」
ダイニングにはジャン・プルーヴェがデザインしたVitraのテーブルとイスを。リビングには薦められたMontanaのシェルフを採用。壁に掛けられたポップなアートが、すべての家具のカラーを集約しているかのよう。
「たまたまアートフェアに行って見つけたアクリルのアートなんです。家の中の色を拾っているみたいでいいなと思い、購入しました」
現しにした梁の無機質な雰囲気に、ランダムに混ざり合うカラーが、テーマとしたテクノサウンドに似合う、クリエイティブな空間を生み出している。

開口に面した明るいリビングダイニング。

キッチンは海外の事例を参考に。アメリカ留学経験のある奥様の希望でオーブンをビルトイン。「これがあるだけで食生活が違ってきます」

ややくすんだマスタードイエローをチョイス。引き出しは取っ手の代わりに丸穴彫り込み加工に。

以前から欲しかったジャン・プルーヴェのダイニングセット。脚の形状やカラーが空間にマッチ。

テレビ下のシェルフはMontana。FLANNEL SOFA「SIESTA」のカラーも悩んで決定。

空間のコンセプトを集約するかのようなアートは、フランス人ストリートアーティストInvaderの「Rubik Camouflage」。

「世界貯蓄デー」のイベントのポスター。カラフルな色彩が空間に似合う。
ほどよい距離感がちょうどいい
「もともと夫婦で“ドアを閉めないし、部屋は別にいらないよね”と話しあっていました。だから回遊廊下にはドアを設置していません」
リビングと廊下側を仕切る壁は、天井まで塞がず、ほどよい高さを考えて、こだわりだった“新宿のジェラート屋さんで見た左官壁”を再現。これまでの暮らし方と改善したかった点、そして憧れを随所に詰め込んだ。
「服が好きでたくさん持っていて、これからも増え続けるので(笑)、クローゼットは大容量に。キッチンや洗面はふたりで作業ができる広さに、などの希望を叶えました。そして何より“お互いが干渉せず、適度な距離感が取れる”ことを実現できたのが良かったと思っています」
ご主人は毎日、奥様は週4日ほどリモートワークを行うというおふたりにとって、それぞれのワークスペースで仕事をしながら、完全に遮断されず気配が感じられる、そんな間取りが最適解だったそう。
「音楽はワークスペースで聞いています。妻はリビングでテレビを観たりすることも多いのですが、お互い音が気になることもなく、ちょうどいい距離感が保てています。これまでの不便を解消しつつ、それぞれ居心地のいい場所を確保できたのが良かったですね」

静謐な空気感のワークスペースが、ご主人の居場所。

リビングの仕切り壁は、グレーで粗めに塗装。誰かが廊下を通っても見えない高さにこだわった。

奥様のワークスペース。リビングのソファから絶妙に隠れる、干渉しない位置に設定。

洗面台は脱衣室から独立させることを希望した。ふたり同時に使える広さと、鏡の大きさにも配慮した。

廊下を活かしたクローゼット。たくさん持っている服が収まるよう大容量に。
