
遊び心を加えてコーディネート仕事もプライベートも充実する
風通しのよい都心の暮らし
2軒をつなげた1室を購入
渋谷へのアクセスがよい、若者に人気の賑やかな街。同じエリアの賃貸に住んでいたNさんご夫妻は、大通り沿いに建つ築46年の物件をリノベーションした。
「この街が気に入っていて、5キロ圏内で何度も引っ越ししているんです。購入にあたっては、予めできあがったものに暮らすのではなくて、自分たちで形にしたいという気持ちがあり、中古物件を選択しました」
場所、広さ、価格を条件に探した中でぴったりだったのは、もともと2軒の家だったところを1軒にしていたL字型の3LDK。
「水廻りが2カ所あったことで、間取りの自由度が高かったのはラッキーでした。南北に風が抜ける造りも気持ちがよくて、夏は窓を開けっ放しにして過ごしています。元オーナーさんも激推しされていましたね(笑)」
リノベーションは、ネットで探してテイストがいちばん気に入った『EcoDeco(エコデコ)』に依頼。ソフトウェアエンジニアのご主人がリモートワークを行う“執務室”、アスレティックトレーナーの奥様が仕事を行う“トレーニングルーム”を設けることを条件にしつつ、なるべく壁を排した1LDKの間取りを目指していった。

モルタルの大きなキッチンが中央に構える。総面積は78.82㎡。

リビングにはソファの代わりにligne rosetの背もたれを。家族みんなで、床でゴロゴロと過ごせるのがお気に入り。LDKの一角には、オープンなベッドスペースがある。

南側のベランダからキッチンを挟み、北側の窓に光と風が通り抜ける。浮造りの床が家全体に敷き詰められ、素足に心地よい。

北側に設けたトレーニングルームからLDK方向を見る。仕切りは設けずシームレスに。
職住一体を叶える間取り
「ふたりの必要なものから考えていったら、キッチンを真ん中にしてプライベートスペースとパブリックスペースを分けるという構成になりました。お客様の動線を考えると、トイレや洗面の位置も必然的に決まってきました」
広い土間の向こうにまず出迎えるのは、モルタルのキッチン。そして右手側にプライベートなLDK、左手側にトレーニングルーム、執務室へと続くパブリックスペースが現れる。仕切りはご主人のこだわりでアーチ型に。間取りからインテリアまで、PinterestやYouTubeなどを参考にして、ほとんどをご主人が決定したのだそうだ。
「設計士さんがたくさん案を出してくれたのですが、“僕はこう考えました”と、こちらから案を出しました。失礼じゃなかったかな、と思うくらいなのですが(笑)、尊重していただいて。でも素人なので実際にできることとできないことがあり、1つずつ確認していただけて助かりました」
広々としたオープンな1LDKに、という理想から、ベッドルームはリビングダイニングの一部として溶け込ませた。現在2歳のお子さんとともに3人で就寝しているそう。
「将来は配置を変えてもいいと思っていますが、今はこのスタイルがとても気に入っているんです。何よりも風と光が家の中を通り抜ける、この動線が好きですね」

躯体現しと白塗装がミックスされた空間。LDKには収納もたくさん設けた。

高さを抑えたベッドが、リビングに自然に溶け込んでいる。ベランダの開口前の床はタイルで切り替え、インナーバルコニーに。開口にはNORMANの、ブラインドのようなカーテン“スマート ドレープ シェード”を。

玄関には趣味のアウトドアグッズを収められるよう、広めの土間を設けた。足場板を棚板として使用している。アーチの仕切りを抜けて室内に。一部は天井まで塞がず、通気性を確保した。

エクステンションできるERCOLのダイニングテーブル。LE KLINTの照明が穏やかに照らす。床にコンセントを埋め込むなど、細かな作業を施した。
WTCを洞窟に見立てる
トレーニングルームは奥様の仕事場であり、お子さんの遊び場であり、ご主人のリラックススペースでもある。アスリートの方などクライアントと、家族でプライベートでも使うピラティスマシンが置かれている。
「通りに面していますが、私たちは騒音も嫌いではないしよく窓を開けて過ごしていますね」
独立させた洗面台には、お気に入りのタイルをあしらい、好きな雑貨でコーディネート。その先のアーチの仕切りをくぐると、ウォークスルークローゼットが続き、その先にご主人の執務室が現れる。
「洞窟をくぐり抜けて執務室につながる雰囲気にしたかったので、ここにウォークスルークローゼットをもってきました。窓があったのですが、あえて潰して暗い洞窟感を出しています」
雰囲気を切り替えるためモルタルの床を敷き、ヤフオクで入札したヴィンテージ感のあるロッカーを。電球色のペンダントライトがインダストリアルな空間を照らし出す。
「執務室には仕事用の机と、3年前から習い始めたピアノが置ける環境が必要でした。壁と天井に防音シートを貼っていて、ここに籠って仕事をしたり、ピアノの練習をしたり、時々昼寝もしたり。大事な場所になっていますね」
というご主人のこだわりはなんとトイレにも!最寄り駅の構内をイメージした内装に、“完成を楽しみにしていてね”とだけ伝えられていた奥様もびっくりしたそう。

2方向から光が入って明るいトレーニングルーム。大きな鏡が広がりを生んでいる。

造作した棚はベンチ代わりにも。

洗面、バス、トイレはパブリックスペースに。「お風呂は最小サイズにして、鏡や棚などは設けず、掃除が楽になるよう極力シンプルにしています」

洞窟に見立てた薄暗がりのWTCへ。ドアの向こうに執務室がある。真鍮の取っ手など、ひとつひとつのパーツにこだわった。

モルタルの床にインダストリアルなキャビネットを。ここで雰囲気が切り替わる。

デザインにこだわった洗面。壁面のタイルは、引っ越し前に住んでいた鎌倉で見かけた、ある家の表札に使われていたタイルからインスピレーションを得て探した。

ご主人が過ごす執務室。仕事と趣味の時間に没頭する。

「閉鎖空間なので好きなことをしてみたかった」とご主人が語るトイレは、とある駅がテーマ! 床には公共施設でよく使われるテラゾータイルを使用。壁のタイルは駅に電話をして素材やメーカーを問い合わせたそう。遊び心が溢れている。

トレーニングルームの収納の中は、奥様のアイデアで有孔ボードを活用。山崎実業のグッズを使い、整理しにくいヨガマットなどのトレーニンググッズをすっきりと、取り出しやすく収めている。
様々なものをミックスして楽しむ
キッチンは、料理好きな奥様の希望を反映して計画された。
「お料理屋さんみたいな業務用のキッチンにしたかったんです。すっきりしていて掃除しやすく、傷がついても気にならないことが大事でした。EcoDecoさんにIKEAのカスタマイズできるステンレスキッチンをご紹介いただいて、予算を抑えつつ希望を叶えられたのがよかったです」
冷蔵庫が隠れるように仕切りを立てた作業スペースは広さに余裕があり、奥様のプライベート空間も確保。造作した棚には、旅先などで買った和食器がたくさん並んでいる。
「色々と集めたいので、買うときは1点だけ。ひとつとして同じ器はなく、色々なものが溢れている感じです」
家全体のインテリアも、ご主人が選んだ家具やラグ、奥様の出身地の民芸品、そして共に画家であるおふたりのお父様とお祖父様の作品など、異なる背景を持つ様々なものが彩っている。
「全体像をイメージしたのではなく、色と質感を大切にしつつ好きなもの、使いたいパーツを詰め込んでいった感じです。出来上がるまでは少し不安もあったのですが、結果としておもしろい空間になったと思います」
ご主人の探究心が全体的な統一感を生み、動線や掃除の効率を考えた奥様のアイデアが、暮らしやすさを生んでいる。
「自分たちの生活スタイルまで落とし込んで計画したので、後悔が何もないですね。何よりも使っていない場所がなくて、どこにでも手が届くことがいいところです」と奥様が言うと、ご主人は、
「リノベーションがとても楽しかったのでまたやりたいけど、妻がここを気に入りすぎているので。まだ分からないですね(笑)」と返してくれた。

モルタルの腰壁は高めに設定。冷蔵庫の奥には、本棚を設置した小スペースが。奥様の出身地、熊本県人吉市の木工玩具・きじ馬など、味わいのあるものがあちこちに溢れている。

大型のステンレスキッチンは、IKEAでサイズに合わせてカスタムオーダーした。

キッチン収納を造作。取っ手には真鍮を使用。

旅先では窯元を訪れることも多いそう。1点1点、気になったものを買い集めている。

屋久島の「SOLMU 8」で購入したランプシェード。天然のシイノキが使われている。

美術の先生だった奥様のお父様が描いた作品。

渡欧もされていた、ご主人のお祖父様が描いた作品。
