二度目のリノベーション L字の空間に 大胆に正円の壁を立てる

家に曲線を引くL字型の空間に
正円の壁を大胆に立てる

“洞窟住宅”がキーワード

気に入った町で暮らし続けたいと希望した松薗美帆さん。物件を探し続けてようやく出会えたのが、大きな開口部が特徴のL字型の住まいだった。築43年の集合住宅の最上階に位置し、見晴らしも抜群だ。
「以前は事務所として使われていたようでした。この特徴的なL字型の家をどう使えばよいか頭を悩ませていたのですが、リモートワークが多いこともあり、私と夫それぞれの部屋を独立させながら、余白を楽しめる住まいにしたいと考えていました」

リノベーションは建築家の坂田裕貴さん/『a.d.p(アデペ)』に依頼した。
「坂田さんは知人に紹介していただきました。初回の打ち合わせでこちらの要望をお伝えしたところ、次にお会いしたときにはL字型の家に“正円”を重ねるプランを提案してくださいました。その発想はまったくなかったので、プロの知見に本当に驚きました」と美帆さん。

坂田さんも、そのときのやりとりをよく覚えているという。
「空間構成の話をした際、“カッパドキアの洞窟住宅のような感じで”と、参考写真と一緒にご提案しました。この部屋を道路から見上げてみると、カッパドキアの洞窟住宅のように見えたのです。自分が生まれる前からそこにある建物で暮らすという感覚は、かつて洞窟を見つけてそこに住み始めた祖先の気持ちに近いのかもしれないと思いました。すると松薗さんはカッパドキアに行ったことがあるとのことで、すぐに『面白いですね』と共感してくださり、家造りの方向性が定まりました」

等間隔の間柱がリズミカルに並ぶ。

等間隔の間柱が曲線を描きながらリズミカルに並ぶ。

曲線の壁に合う、コロンとした形のソファはネットで探して購入。

曲線の壁に合う、コロンとした形のソファはネットで探して購入。

写真左側がリビングエリア。右側を通って美帆さんの個室に行くことができる。リビングにはリラックスしながら読める大好きな本、個室には仕事で使う本と、本棚に置く本を分けている。

写真左側がリビングエリア。右側の通路を通って美帆さんの個室に行くことができる。リビングにはリラックスしながら読める本、個室には仕事で使う本と、本棚に置く本を分けた。

大きな窓から、根津千エリアを眺めることができる。床、曲線の壁、床はバーチ材。床はパーケット貼りを採用。

眺めのいい大きな窓が魅力。リビングエリアの天井、曲線の壁、床は共にバーチ材。床はパーケット貼りを採用。

ダイニングテーブルはアルヴァ・アアルトのartek。ペンダントライトは鹿児島の陶芸作家、城雅典さんの作品。

円形のダイニングテーブルはアルヴァ・アアルト。ペンダントライトは鹿児島の陶芸作家、城雅典さんの作品。

鉢が大好きだという美帆さん。まだ植物が植えられていない鉢がスタンバイ中。手前はクスノキの絵。

鉢が大好きだという美帆さん。まだ植物が植えられていない鉢がスタンバイ中。手前はクスノキの絵。

キッチンはtoolbox。「なるべくコンパクトにまとめました」。食洗機の下にルンバの基地を設置。

キッチンはtoolbox。「なるべくコンパクトにまとめました」。食洗機の下にルンバの基地を設置。

曲線の壁の内外で分かれる世界観

間柱が並ぶ曲線の壁はまさに洞窟住居のよう。天井と壁と床をナチュラルなバーチ材で統一し、洞窟の壁に灯りが灯るイメージで照明もデザインした。
そして、曲線が作る有機的な余白が住まいにゆとりをもたらす。

曲線の内側……リビングサイドはゆっくりとくつろぐ場所。曲線の外側は仕事場であり直接キッチンにアクセスできる通路でもある。
書棚に置く本も、内側には読書を楽しめる本、外側には仕事や研究のための本と、用途を分けて置いた。
「目的の本を使う場所で手に取ることができるのも便利です」

ドアの向こうが美帆さんの個室。

ドアの向こうが美帆さんの個室。グリーンを少しづつ増やしている。

個室はカーペット敷きに。ワークチェアは柴田文江デザインの vertebra03。

個室はカーペット敷きに。ワークチェアは柴田文江デザインのvertebra03。

ベッドのヘッドスペースの壁は、端材を利用した美帆さんのDIY。

ベッドのヘッドスペースの壁は、美帆さんのDIY。

曲線の壁がL字に折れる空間をゆるやかにつなぐ。

曲線の壁がL字に折れる空間を柔らかくつなぐ。

玄関ホールの先に作った洗面スペース。

玄関ホールの先に作った洗面スペース。

洗面ボウルは奥側に設けた。

洗面ボウルは奥側に設けた。

それぞれに最適なワークスペースを

リノベーションの際には、快適に過ごせる空間づくりのために窓はすべて二重サッシにし、断熱材も追加するなど機能面も充実させた。

「2つの個室はなるべく離したいという当初の希望も叶いました。二人が同時に家でリモートワークをしていても、それぞれ気兼ねなくオンライン会議ができます」

機能と余白のバランスが心地よい、洞窟住宅が完成した。

窓際に造作のベンチを作った。中は収納。カーテンはtoolbox。

窓際に造作のベンチを作った。中は収納。カーテンはtoolbox。

artekのアアルトのベンチは最近購入。

artekのアアルトのベンチは最近購入。

扉の奥がご主人の仕事場兼寝室。

扉の奥が夫の仕事場兼寝室。

壁のところどころにオリジナルの照明がつく。洞窟の壁のロウソクのようなイメージ。

壁のところどころにオリジナルの照明がつく。洞窟住居の壁に灯るロウソクのようなイメージ。

有機的な不思議なカタチは坂田さんのデザイン。

有機的な不思議なカタチは坂田さんのデザイン。

植物をハンギングすることもできる。

照明器具に植物をハンギングすることもできる。

『a.d.p』の坂田裕貴さん。「もしかしてL字の中に“正円”を描けるのではないかと思いついて図面を起こしてみたら、すっぽりと収まりました」

『a.d.p』の坂田裕貴さん。「もしかするとL字の中に“正円”を描けるのではないかと思いついて図面を起こしてみたら、すっぽりと収まりました」

68.3㎡。正円の壁を作ることで、L字の空間に有機的な要素が加わった。

68.3㎡。正円の壁を作ることで、L字型の空間に有機的な余白が生まれた。

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