
審美性と実用性の両立デザイナーズ家具を魅せる
“生活感を見せない”が生む空間
インテリアが映える静かな美術館
片平さん一家は夫妻と娘さんの3人暮らし。以前から持ち家の購入を検討する中で選んだのがリノベーションだった。「好きなインテリアを置く空間を自由にデザインできるのが楽しそうだなと思ってリノベーションをすることにしました」と夫。自宅にはデザイナーズ家具が並び、これらが空間に馴染むようにと随所に工夫が見られる。また、夫妻ともにリモートワークで1日のほとんどを自宅で過ごすため、“静かな美術館”のような落ち着ける場所にすることも目指した。「リノベーションのプランを作るために、夫と作ったSNSのグループで各々が良いと思った画像を投稿しあってアイデアを共有していました」と振り返る妻。夫妻が意見を出し合い生まれたのは、審美性と実用性が共存する空間だった。

左がノルディック、右がミッドセンチュリーと、家具と建材を使った絶妙なゾーニングによって異なるスタイルが自然と交わる。

造作ベンチは収納棚でもあり、見た目の美しさだけではなく機能性も兼ね備えている。「子供が小さいと物が散らかりがちですけど、これだけ収納スペースがあると心配ないですね」と妻。

ゾーニングに一役買っている板張り天井。側面にも板を貼ることで、厚みのある板材を演出した。

フランク・ロイド・ライト「タリアセン1」が塗り壁に美しい陰影を作る。

夫が学生時代から憧れていた「タリアセン2」と、ジャン・ヌレの「PH28」。

正面に置かれたイームズ「プラスチックシェルサイドチェア」は夫が家具を集め始めた頃に買ったもの。

夫が「後ろ姿が可愛い」と話すハンス・ウェグナーのソファ「GE290」は、チーク材のヴィンテージにこだわり探し回って見つけた一品。
収納を兼ねた魅せる造作ベンチ
リノベ会社を選ぶにあたっての条件は造作家具を自社で製作できることだった。「造作家具を入れたいと最初から思っていたので、費用がかかる外注ではなく、自社工場で家具を作っている会社を探して。その条件に合って施工事例も良かったSHUKEN Reに依頼することにしました」と夫。
やりたかった造作家具というのが、元々和室だった空間を取り込んだ広いリビング・ダイニングに溶け込むアールが美しい造作ベンチ。2面の壁に沿って取り付けられており、空間の雰囲気を決める存在でもある。今回のリノベに合わせて購入したタリアセン2がリビングのベースカラーを決めており、造作ベンチの色も合わせた。ベースカラーに合わせた板張り天井はコーブ照明のために取り付けたが、和室だった空間との間に残った梁を目立たなくさせる効果も。ミッドセンチュリーの家具が映える空間になっている。
リビング・ダイニングの床と廊下はヒノキの無垢材を採用した。「柔らかいものがいいということで、スギも候補に入ったのですが、木目の主張が強かったのでやめました。床材にモルタルやカーペットを検討していたぐらいだったので、模様が強すぎないヒノキに」と夫。床材は最後まで夫妻で話し合った部分で、フローリングを提案したのは妻だった。「モルタルのひび割れや、カーペット汚れのお手入れを考えるとフローリングが現実的ですよね」。夫も結果的にフローリングにして良かったと話す。「今は子供がいるので、現実路線で考えてよかったと思っています」。
全ての内装をクロスではなく塗り壁にしたのもこだわり。「クロスにするか悩みました。手塗りかどうか分からない人には分からないしロマンの領域だよねって。このことをリノベで塗り壁にしていた知人に相談したら「お金で買えるロマンは買った方がいい」って言われて。人生の彩りにお金をかけるのは悪くないなと思ったんです」と妻。

ダイニング側にもデザイナーズ家具が並ぶ。家具が馴染むよう造作ベンチや床などの素材や色にこだわった。

ベンチに加え、グレーのタイル床に合わせモルタルの造作プランタを設置。インナーテラスとの見切り材には妻が好きな真鍮を採用した。真鍮はドアノブなどにも使われている。

ベランダの床を上げて室内の床の高さに合わせ、中からの延長上に外を見せる。窓から見える植栽は専門業者に依頼し整えた。

キッチンと背面のパントリーの間には十分な空間が確保されていて回遊ができる。「子供が走り回っています」と妻。

大容量のパントリーが壁に馴染む。加えて冷蔵庫も壁の延長線上に収まり、全体的に整った印象を与える。

真鍮の削り出しが美しい「ニューライトポタリー」のペンダントライト。

造作のリビングドアはベンチと同色のリブ材を使用。リブ材の縦の流れを活かすため、縦向きの取手を取り付けた。
暮らしやすさを求めて変えていく
キッチンはアイランド型で回遊できるようにし、ともに料理をする夫妻が一緒に立てる十分なスペースを確保。本来は壁につけて使うキッチンをモールテックスの腰壁で囲いアイランド型として使えるようにした。これにより、キッチンを置く必要な設置スペースを抑えている。「アイランド型は見た目がいいんですけど、油ハネとかシンクが見えたりするのが気になるので、少し高めの腰壁をつけて生活感が出にくいようにしました」と生活感をなるべく隠したいと話す妻の工夫が見られる。
キッチン背面にあるパントリーも生活感を隠すのに役立っている。3枚のスライドドアを壁と同色にすることで、閉め切った時の一体感を演出した。「料理をする際はフルオープンにして物を出し入れして、ゲストが来た時は閉めてしまえばいいので本当に楽ですね。これがないと生きていけないです」と笑顔で話す妻。
生活のしやすさを取り入れながら、見た目にこだわった片平夫妻のリノベーション。視界に入る景色は、在宅時間が長い2人にとって大きな影響を与えていると妻。「シンプルに気持ちがいいです。ダイニングテーブルに座って見えるリビングの景色は視界が抜けて開放感がありますし、仕事中にパソコン画面から視線を逃がしたい時にはベランダを見たりしています」。インテリア好きの夫には次のアイデアが生まれている。「先日、スピーカーを壁に取り付けました。プロジェクターでリビングの壁に映画を映して観たくて。今は椅子が一脚しかないのでもう一脚買って妻と楽しめるようにしたいなと」。娘さんの成長など今後の家族の変化に合わせて変えていきたいとも話す。「一回リノベをしたら終わりではなくて、住み良いようにいじれるのが持ち家の良さですよね。なので、終わりはないと思っています」。

玄関の床材はモルタル、真鍮製のブラケットライトは「千sen」を採用。

「明るすぎるより、少し暗い雰囲気を出したかったのでグレー系でまとめました」と妻。真鍮のブラケットライトやペーパーホルダーも「千sen」のアイテム。

当初、自宅全面の床を絨毯することを望んでいた夫だったが、実用性を考えて寝室のみにした。照明はイサム・ノグチの「AKARI」。








