
制約を個性に変える先輩と作り上げた
唯一無二の住空間
“ソト”と”箱”で分ける暮らし
熊谷さんが基本設計、佐伯さんが詳細設計・施工を担当するという、信頼関係に基づいた協働作業だ。
熊谷さんのお宅には友人がよく集まる。スチールシェルフに並ぶ豊富な種類のお酒が、ここで過ごす楽しい夜を物語っている。
「キッチンとダイニングは、友人が集まる場所である“ソト”として広く確保しました。
一方で、寝室とクローゼットなどのパーソナルスペースは“箱”の中に納めています」
選んだのは、57.31㎡に10.6㎡のバルコニーがついた物件。抜け感のある窓からの景色を楽しめることが決め手だったという。1972年築の建物だ。
工事を進める中で、想定外のできごとが起きた。寝室の天井建材にアスベストが使われていることが判明したのだ。
「目を瞑って残す選択肢もありましたが、アスベストが使われていることがわかった以上、しっかり撤去したいと考えました。撤去費用が思ったよりも高くつくことになり、その他にも古い給排水管を新しいものに替えるなど、限られた予算の中で長い目で見て直したほうが良い部分は修繕しました。その結果、躯体をそのままにせざるを得ない部分が増え、DIYも増えました(笑)。真夏の長期休暇に集中してDIYしたのでかなり大変でしたが、多くの友人に手伝ってもらい、何とか形になりました」

躯体現しの壁、モールテックスで仕上げたグレートーンのキッチン。

「空間を遮らない、背もたれの低いソファが良かったので、『フランネルソファ』でオーダーしました。汚れがつきづらいファブリックを選んだことも気に入っています」。

大学の研究室が同じだった熊谷さんと佐伯さん。阿吽の呼吸でリノベーションを進めることができた。

カール・ハンセン&サンの、コーア・クリントのサファリチェア。「長く使い込まれたサファリチェアを見た時からいつかは欲しいと思っていたので、引っ越しのタイミングで購入。背もたれの角度が変わるので座り心地も抜群です」

ルイス・ポールセンのラジオハウス ペンダントと、スティーブン・ギルのサイン入りポスター。本棚は将来的に文庫本を2列に並べることができる奥行に設定した。

円形のダイニングテーブルはマルニ木工。「天板の縁どりが気に入りました」。ブルーのチェアはHAY、手前はハンス・J・ウェグナー。
料理好きのための本格キッチン
友人たちと料理をしながら食事をすることが多い熊谷さんのために、キッチンは本格的な仕様にこだわった。
「料理を作るのは好きなのですが、皿洗いは苦手なので大きいシンクを選び、BOSCHの食洗機を入れました。洗い物が増えることを気にせずに、取り皿をどんどん使ってもらえるのもうれしいですね。フラットなキッチンで、向かい合って調理をしたりしながら、お酒をよく飲んでいます」
キッチンは水に強いモールテックスを採用し、佐伯さんが施工を担当した。
「モールテックスは硬化が早いので時間との勝負でした」

素地が露になったルイス・ポールセンのペンダントライトは、最近リリースされたモデル。躯体現しの天井や梁と呼応する、マットな質感が空間に馴染む。

キッチンのモールテックスは佐伯さんが施工。キッチン下の扉内にWIFIルーターなどを収納。

食洗機はBOSCH。コンロは掃除が楽なIHを選択。

ハンマーヘッドの水栓は、ハンス・グローエ。

コンクリートの荒々しい仕上げに負けないように、電球も個性的なものを選択。
隠し扉で仕切る”箱”の領域
躯体現しの天井と梁、白い壁、グレーのリノリウムの床。モノトーンの空間に、ラワン合板でしつらえた“箱”がバランスよく収まっている。リビングから見える本棚の横の壁は、からくり扉のようなしかけになっていて、把取っ手のない壁面を押すと、プライベート空間への入口が現れる。
「施主はドアの閉め忘れが多そうなので、すべての扉の金物は、自動でゆっくり閉まるドアクローザーを使いました」と佐伯さん。長い付き合いの二人ならではの心配りだ。

モノトーンの空間に浮かぶ、木の”箱”。本棚の横が扉になっていて、中がプライベートな寝室とクローゼットになっている。

すかしばりにすることで、扉がわかりにくくすっきりとした見た目に。

本棚の右側の壁を押すと、魔法のように扉が開き、寝室へと通じる。手前に服を収納するラックが現れる。「服を畳む作業を減らしたいので、服の収納はラック掛けを多用してます」

廊下側の扉からも寝室にアクセスできる。
制約を個性に変えるセンス
限られた予算の中で躯体を多く残し、玄関のタイルもあえてそのままに。それらがデザインの一部として違和感なく溶け込んでいるのは、ひとつひとつ愛情を持って選んだ家具、照明の色味と質感、そこに加えたアートで全体を丁寧に調和させた、熊谷さんならではのインテリアセンスがあるからだ。
大学時代からの信頼関係で結ばれた先輩とともに作り上げた空間。人が集い、語らい、楽しむための、唯一無二の住まいがここに生まれた。

床のはつった跡が味わいとなっている玄関。「ここはそのうちDIYで整えたいとも考えています」

和紙を挟んで作られたプライウッドの小口が美しい。

玄関の下足入の扉の取手を縦と横に。

ゆったりとした余裕の感じられる廊下。「一般的な廊下の幅は70cm前後ですが、壁面にアートなどを増やしていきたいので、100cmに広げました」。ユニットバスと廊下の間にできた奥行き50cmほどの空間は洗面スペースに。

タイルは熊谷さん自らDIYで仕上げた。「洗面ボウルと水栓はINAXですが、メーカーのロゴが入らない、海外で流通しているものを取り寄せました」と細部へのこだわりも。壁面は窪ませてニッチ収納に。

正面のアートはデヴィッド・シュリグリー。

トイレのドアノブは色とカタチがキュートなUNION。

フォルボのリノリウムの床材。廊下側をブルー、リビングダイニングをグレーに。








