古きを愉しむレトロな建具が映える
セルフリノベーション
通勤時間短縮のために引っ越す
窓から公園が見渡せる、都心の築50年近いビンテージマンション。ともに建築業に携わる夫妻と大学生の2人の娘さんのOさん一家が、このマンションの1室に引っ越してきたのは2014年3月のこと。ご主人は「それまでは横浜に住んでいたのですが、私の転勤で通勤時間が往復3時間かかるようになってしまったんです。そこで、家族に勤務先の近くに引っ越させてくださいとお願いしました」と振り返る。
引っ越し先の条件は、ご主人の勤務先に近いロケーションに加え、4人家族に十分な広さがあること、そしてリーズナブルなこと。「条件を考慮すると自然と古いマンションになりましたが、リノベーションを自分たちでやろうと考えていたので、築年数はあまり気になりませんでした」。
こうして選んだのは、約80平方メートルの角部屋。見晴らしも良く、玄関を中心に南北に細長い3LDKという間取りだった。リノベーションにあたって、夫妻は南側のリビング・ダイニングと和室、キッチン、サンルームの壁を取り払い、ひとつながりの空間にした。「間仕切りは必要最低限にして、個室のドアもトイレとお風呂くらいにしか設けないというくらい思い切りました」。
古い建具をインテリアとして楽しむ
Oさん宅で目を引くのが、リビングに飾られたたくさんの古建具。これは、大正時代末期から昭和初期にかけて東京・横浜各地に建てられた集合住宅で使われていたもの。ご主人がその研究に携わっていた関係で、取り壊される時にゴミとして処分されそうになっていたものを譲り受けたものだという。
「いずれは文化財として郷土資料館などに保管してもらえたらと考えたのですが、大きいものはなかなか受け入れてもらえなくて」と振り返るご主人。長年自分で倉庫を借りて保管していたが、ようやく今回の引越しで日の目を見たという。
ボロボロだった建具は、家族総出できれいに汚れを落とし、木製建具にはポーターズペイントを塗り、襖は知人の大学生に張り替えてもらったという。奥さんは「娘の友達が遊びに来ると、壁にドアがたくさん並んでるのを見てビックリするんですよ」と笑う。
長年、戦前の集合住宅の研究をしてきたご主人は「戦前の集合住宅の中でも、木製建具を使っていたのは昭和一桁までに建設された建物だけ。昭和10年前後からはスチールサッシに代わるんです」と解説してくれた。また、建具には片面が襖で裏面が板戸というものも多いのだとか。「初期の集合住宅は和と洋を混在させるのがテーマだったから、和室の側には襖、廊下や洋室の側は板戸になっているんです」。
家族や友人で楽しみながら施工
床や壁面の基礎的な工事などは工務店に依頼し、塗装工事と棚等の造作工事はDIYにチャレンジした。例えば壁の場合、全面に断熱材を張り、その上からコンパネを張っるところまでは工務店に依頼し、パテで穴埋めをし、サンダーをかけてから、ポーターズペイントを3度塗りするところはDIYで行ったという。
都心での暮らしを楽しむ
Oさん一家がここに暮らし始めて3年以上が経つ。当初は引っ越しに難色を示したという奥さんや娘さんたちも、今では都心の暮らしを楽しんでいるという。奥さんは「古い建物なので、竣工時から住んでいらっしゃる方が多いんです。『銀杏拾ってきたのよ』って下さったり、『寄席の券貰ったんだけどいかない?』とお誘いいただいたり、ご近所づきあいも新鮮です」と話す。
また、3方向に窓があり風通しが良いこと、南側の窓が大きいことから、住み心地も良いとのこと。「冬は奥まで光が差し込んで暖かいし、夏は太陽が高いのであんまり直射日光は差さない。窓を開けていると風がサーッと抜けるから、夏もあまりクーラーは使いません」。
古い建具たちが映える都心のビンテージマンションは、古いものを愉しむというリノベーションの新たな可能性を教えてくれる。