将来の賃貸も視野に普遍的な暮らしやすさを
追求するリノベーション
東京都文京区の閑静な住宅街に建つ、築20年ほどのマンション。この部屋をリノベーションして昨年末から暮らす上嶋さん一家は、ともにマスコミ関係の仕事に就く夫妻と、小学4年生と2歳の娘さんの4人家族だ。
「娘の通う小学校の学区内で、以前から家を探していました。新築マンションにはあまり心惹かれることがなかったので、古過ぎない中古マンションに手を加えて住みたいと最初から思っていたんです」と振り返る奥さま。
家探しを始めてから3〜4年経ったある日、このマンションを偶然見つけ、内見してすぐに気に入ったそうだ。
「バルコニーが広くて開放的ですし、どの部屋にも窓があるんです。暗くて納戸になってしまうような、いわゆる“捨て部屋”がないことが決め手になりました」(奥さま)。
その当時、海外留学中だったご主人にはスカイプで室内の様子を見せ、購入を即決。リノベーションの打ち合わせも、ご主人から「任せた!」と一任された奥さまが中心となって進めることになった。
シンプルな障子を間仕切りに
リノベーションの設計は、A+Saアラキ+ササキアーキテクツに依頼。以前、同事務所が手がけた友人宅を訪ねた際に、とても雰囲気が良かったことが印象に残っていたのだという。
上嶋さん夫妻の要望は、まずLDKと隣接する洋室の壁を取り払い、広々とした空間をつくることだった。
また、「以前住んでいたマンションには和室がなかったので、ぜひ和室が欲しいと伝えました」と奥さま。既存の洋室をなくし、多用途に使える和室へと変更することになった。
設計を担当した荒木さんとスタッフの河埜さんは、リビングと和室の間仕切りに障子を選択。
和室は、障子の開け閉めによって個室としても、リビング・ダイニングとひと続きの空間としても使えるようになった。
「普通の大きさだと、障子の枚数が多くなってしまうため、思い切って大きなサイズにしています。大きな障子をサッと開けて簡単に空間がつながるようにと考えました」と、河埜さん。組子のデザインがシンプルなため、和の雰囲気になり過ぎないところも、魅力的だ。
リビングの主役は、本棚
上嶋家のリビングで存在感を放つのが、壁付けの大きな造作本棚。職業柄、蔵書が多い夫妻にとって、外せない要望のひとつだったという。
ともすれば圧迫感が出てしまいそうな大きさだが、「本棚と障子を梁下の同じ高さに揃えることで、本棚から障子に向かって、自然と奥に視線が伸びるようにしました」と河埜さん。視覚的な効果により、圧迫感を感じさせずすっきりとした印象をつくり出しているのが特徴だ。
「この本棚が一番気に入っています。本をまとめて一箇所に置けるのでとても便利です」と、奥さま。棚にはまだ余裕があり、これから本が増えてもしばらくは困ることはなさそうだ。
お手伝いできるキッチン
今回のリノベーションでは、水回りも新しく、より使いやすく変更。特にキッチンは設備を1サイズ大きなものに変え、既存の仕切り壁を撤去するなどして作業スペースを広げる工夫も施した。
「娘が2人なので、自然に手伝ってもらえるようなキッチンにしたかったんです」と奥さま。
限られたスペースの中でその願いを叶えるため、荒木さんと河埜さんは、冷蔵庫の横に作業台を造作することを提案。作業しやすい広さを最大限確保しつつ、隣り合う部屋の出入りの妨げにならないよう考慮された、オンリーワンの作業台ができあがった。
この作業台は上嶋家では“おてつ台”と呼ばれて大活躍しているとのこと。
「モヤシのヒゲを取ってとか、マメをむいておいてとか、この台があることで手伝ってもらえるようになったのが嬉しいです」(奥さま)。
将来を見据えて
じつは、このリノベーションの根底には、将来を見据えたひとつのテーマがあったのだという。
「わが家は転勤族なので、将来的に賃貸に出すことも視野にいれたリノベーションでした」と話す奥さま。
自分たちが暮らしやすい家であることは大前提だが、奇抜なデザインや子育て世代向けに偏った家にはならないように意識していたという。「借り手が付きやすいように、どの世代にも、誰にでも使い勝手がいい家になるように考えてもらいました」(奥さま)。
そうしてできたのは、決して派手ではないけれど、普遍的な居心地のよさが感じられる空間だ。設計者が上嶋家の生活スタイルと普遍性を考慮して施した細やかな工夫が、住まいのあちらこちらに生きている。