廊下が生む生活の奥行き空間を分けて緩急を
想像が膨らむ“地中美術館”
玄関から始まる異空間
お子さんが誕生して、“汚しても傷つけても味になる家”に住みたいと考えた亀石佳奈さん。高台に建つ築34年のマンションを購入。Puddle Inc.に依頼しフルリノベーションした一室は、玄関を開けたところから、感動的といっていいほどの空気感に包まれる。
「最初のテーマは“地中美術館”なんです。今は仕切りを取りワンフロアにするのが主流ですが、我が家はむしろ空間を切りたいなと。籠った感じにするのが希望でした」。
Puddle Inc.に伝えたのは、和室が欲しいということと、玄関を大事にしたいということ。
「ドアを開けても全く興味を惹かれない家はつまらないなと。入ったときに“この家何だろう?”と、想像が膨らむような家にしたいと思いました」。
デコリエに包まれた壁と床、銅を塗装したシューズインクローゼットの引き戸。奥へと細くつながる廊下には、ギャラリーのようなディスプレイ棚が設けられ、まるで美術館に招き入れられたかのよう。
生活までをデザインする
「明るいところと暗いところ、広いところと狭いところを区別して味を出すために、廊下が欲しかったんです。廊下は光や匂い、音もシャットダウンしてくれるし、寛ぐ場所と騒げる場所を分けてくれます」。
廊下を介して南側と北側に開口部のある造り。両側の窓を開け放てば、風が家中を通り抜けていく。路地のような雰囲気の北側に対して、南側は外の借景も清々しい、広々としたLDKが。
「ワインが好きなので、友人もたくさん集まってきます。だからここはみんなで集えるようにと考えました」。
壁2面に沿うソファー、夫が選んだ家電をビルトインしたキッチンに、ワイングラスや茶道具を収める棚も造作で。クロスを剥がして現れたコンクリートの味わいに、シンプルなインテリアが調和する。
「空間だけではなくて、生活もデザインするというのがPuddle Inc.さんの考え方なんです。どう変化しどう楽しんでいくのか。そこまで提案してくれる会社でした」。
見せる収納が苦手だという佳奈さんに合わせて、収納もたくさん設けられ、デザイン性と機能性が満たされている。
間や静けさを大切に
玄関に加えてもうひとつのこだわりだった和室は、気分を変えたいときにひとりになれる場所でもある。
「ここは家事動線や使い勝手ではなく、わざわざ行きたい場所にしたかったんです」。
お母様がお茶の先生だという佳奈さん。静けさに包まれる和室は、茶室をイメージした。
「ちょっといい料亭でお座敷に通されるときのように、入り口もあえて奥まったところに配置しています。そこに行くまでの過程も味わいたいんです」。
そんな佳奈さんが寛ぐのは、LDKだけでなく、将来は子供部屋にする予定の北側の部屋だという。
「ここで写真集や洋書を見たり、外の景色を楽しんだりする時間が好きです」。
家族やゲストとの時間を楽しみつつプライバシーも確保する、満たされた生活。郊外の丘陵地の、心地よい風が吹き抜けていた。