若手建築家のリノベーションスケルトンからの再構築
光が生む陰影を楽しむ
全ての部屋が南に開いた贅沢空間
お祖母さんが所有していた築47年のヴィンテージマンションの一室。100㎡を超す広々とした空間を受け継いで、建築家・日高海渡さんのリノベーションは始まった。
「2面採光かつ全ての部屋が南側に面した、今はあまりない間取りでした。最初にベッドルームとトイレ、浴室だけを造って、後は住みながら少しずつ工事を進めました。のちのち後悔したんですけどね(笑)」。
もちろん図面は自分自身で。部屋の左右を貫き全ての部屋を分けていた廊下や壁を排してスケルトンに。玄関を入ると、細長の大空間を南側にずらりと並んだ窓から入る光が照らす。
「施主兼設計者ですから大工さんは嫌だろうなと思って(笑)。工事の間、仕事は近くのカフェでやっていました」。
ここは日高さんの自宅兼事務所、そしてモデルルーム。実験の意味も込めた空間は約1年前に完成した。
窓から考える家づくり
「誰でも来られる家であり、かつプライベート感もある、そんな間取りを考えました」。
施主やパートナーのデザイナーとの打ち合わせは、“オフィスリビング”と呼んでいるエリアで。ここまではモルタルの床でスリッパを使用する。その奥の、ベッドルームにつながるエスニックなコーナーは、プライベート感を出すため段差を設け、スリッパを脱いで上がる仕様に。床も白く塗装して床座にした。
「子供の頃、父の仕事でパキスタンに住んでいたことがあるんです。当時両親が買ったものや、自分が大人になって旅に出て買ってきたものなど、倉庫にはしまっておきたくないものをここに集めています」。
思い入れのあるコーナーは、壁で仕切る代わりに、モルタルを左官した低い台をリビングの造作のソファーからL字型につなげて設置。ここは友人など大人数が集まるときは椅子としても使うそう。
「家の中でいちばんよく過ごすのは、このソファーの上です。仕事の合間、よく寝転んだりするので広めのデイベッドがいいと思いました」。
掃き出しではない、腰高の窓に合わせてソファーを造り付けに。窓に合わせて内装を考えるのは、日高さんが常に大切にするところでもある。
「窓って住宅の中でいちばん大事だと思うんです。光、風を感じて外とつながることができるし、生活のリズムを生むものですから。場所ごとにどういう使い方をしたらいいか、窓を眺めながら今も考え中です」。
凹凸のある空間が陰影を生む
もともとリビングダイニングだった矩形平面の空間に壁を加えて、ダイニングキッチン+ゲストルームに変更し、さらにDK側にはL字型のキャビネットを造作した。
「きれいな直方体の空間をつくるのがあまり好きではないんです。大きい面にはものを置きにくいし、空間に凹凸があった方が、想像が膨らむと思うんです」。
希望だったアイランドキッチンにはできなかったため、つながり感を出すためにもキッチンからダイニングにL字型に続く、キャビネットが有効だったのだそう。
ラワンで造作したキャビネットには、友人を招いてよく楽しむというワインや、1点1点味のある食器類が並ぶ。
「適当に買い集めたものです(笑)。ダイニングテーブルもソーホースに合板を置いているだけ。椅子も中古で気に入るものを見つけたその都度買っています」。
ダイニングにはインドネシアで買ったバティックが。時間によって変化する窓から入る光が、大切に受け継がれるヴィンテージマンションの一室を照らしていた。