アトリエのある住まいクリエイティブ空間を
光と風が通り抜ける
緑豊かなヴィンテージマンション
都心から電車で20分あまり。高台の緑豊かなエリアには、東京とは思えないリゾートのような空気が流れる。
「田舎なんです、ここは(笑)。目の前にはテニスコートがあり、聞こえてくるのはボールを打つ音だけ。そんな環境も含めて、内見に来てひと目で気に入りました」。
アートディレクターのオタニじゅんさんが暮らすのは、重厚な外観をグリーンが囲む、築40年程の瀟洒なヴィンテージマンション。
「古い建物ならではのゆとりがあるし、ここなら自由に自分たちの暮らしたい空間が創れると思いました」。
リノベーションは妻がサイトで調べ、クリップしていたリビタに依頼した。
「何人か建築家さんを紹介してもらった中で、アラキ+ササキアーキテクツにお願いしました。建築家としてのこだわりを持ちつつも、こちらの要望にもいちばん応えてくれそうだったんです」。
高台の環境を活かした空間に
目黒に事務所を構えるオタニさん。家ではひとり絵を描くことに集中したいとアトリエを設けることを希望した。玄関を入ると、ガラスの仕切りの向こうに外の緑を借景としたアトリエが。
「壁式構造で梁や壁を壊すことがあまりできなかったのですが、玄関の壁は取り壊せたんです。そこでアトリエとの間をガラス窓にして見通しよくしました」。
元の壁の位置より少しアトリエ側に寄せてガラス窓を設置することで、玄関まわりの広さを確保。ゆとりのある明るい空間が広がる。
「玄関からベランダまで一直線に光と風を通したい、というのがいちばんのリクエストでした。細長い間取りだけど、そうすることでまわりの緑のフィーリングを取り込んで、高台の環境を活かせると思ったんです」。
そのためリビングのドアもガラス戸でオーダー。アトリエの窓とLDKの向こうのベランダから入る光が、ガラスのドアを介して家中を通り抜ける。
薄グレーのクロスで陰影を
LDKに隣接するベッドルームと居室のドアは引き戸に。
「普段は開けておいて、ひとつながりの空間にしているのですが、閉めるとドアも壁の一部のようになるんですよ」。
ほんのりグレーがかったマットな壁の色調は、閉じられた引き戸にそのまま接続して、部屋全体を落ち着いたトーンに包む。
「真っ白だと明るすぎるので、グレーを希望していました。当初はペンキを塗るつもりだったのですが、ウイリアム・モリスのクロスを提案されたんです。梁の関係で面の多い空間なので、面ごとにグラデーションがつき陰影が感じられて、これが大正解でした」。
工務店が、貼るのに苦労したという薄いクロスは、微妙な凹凸感があり、晴れた日と曇った日でも違った表情を見せるのだという。
「床は玄関とアトリエ側、LDKと居室側で素材を変えています。そうすることでオンとオフのモードを分けているんです」。
仕事モードのアトリエ側は硬質なタイルを、オフモードのLDK側は優しい色調の無垢のオーク材を。床の素材感の違いで緩やかに空間を切替えている。
細かなところに真鍮をアレンジ
「ナチュラルになりすぎるのを避けたくて、キッチンの面材と玄関のシューズボックスにはグレーの塗料を塗り、布で拭き取って微妙に彩度を抑えたトーンを出しました。建築家さんの工房で、みんなで手を加えて製作したところです」。
微妙なトーンのキッチン収納や、ガラス戸、洗面やトイレのドアなどの取っ手は、よく見ると真鍮。これもこだわりのひとつだ。
「グレーと木の質感と真鍮、がテーマなんです。建築家さんが探してきてくれた、アンティークのタンスなどから取ったものです」。
細かいところまでこだわった趣きのある空間に、さり気なく溶け込むインテリアや雑貨は、妻のセレクトによるものだそう。
「その時々で見つけた雑貨をディスプレイしては楽しんでいます。今は壁に絵を飾りたいと思っているところなのですが、どんなのがいいのか決められず、まだそのまま。でも、色々と考えるのも楽しくて。そんな時間を味わっています」。