年月を経て魅力を増す家大正の面影を残した
現代のコーポラティブ
文化の香る街の歴史的建物
料理研究家の平野由希子さんが暮らすのは、大正時代に建てられた、集合住宅としては首都圏で最も古いRC建造物。学生の寄宿舎として建てられた価値の高いこの建物を残そうと、13年程前にコーポラティブハウスとして再生されたものだ。
「たまたま新聞でリノベーションプロジェクトの記事を目にして、問い合わせました。古い建物に暮らすのはヨーロッパなら当たり前ですが、日本ではなかなか叶えられません。内見に来てぜひここに住みたいと思いました」。
文化人も多く暮らした文京区の閑静な住宅街。アーチ型の窓のある外観はほとんどそのまま。大きな保護樹木がそびえるアプローチに足を踏み入れると、静謐な空気感に包み込まれる。
「たまたま新聞でリノベーションプロジェクトの記事を目にして、問い合わせました。古い建物に暮らすのはヨーロッパなら当たり前ですが、日本ではなかなか叶えられません。内見に来てぜひここに住みたいと思いました」。
文化人も多く暮らした文京区の閑静な住宅街。アーチ型の窓のある外観はほとんどそのまま。大きな保護樹木がそびえるアプローチに足を踏み入れると、静謐な空気感に包み込まれる。
無駄があるからこそ美しい
「コーポラティブなので、住戸内の間取りは自由に決められました。内装には募集時の標準プランも選べたのですが、私はオーダープランでお願いしました」。
平野さんの家は、9世帯が入るうちここだけだというメゾネットタイプ。料理教室も開かれる2階のLDKは、3面にあるアーチ型の開口から光が入る。
「標準プランは、北側の窓のある面に収納を設ける案だったのですが、私は、収納は要らないな、と。それよりも窓と階段をそのまま残してオープンに使いたいと思いました」。
2階から3階につながっていたはずの階段は、上階への入り口が塞がれている。ここを収納にしてしまうよりは、昔の名残りとして残し、お気に入りのものを飾るディスプレイスペースにしようと平野さんは考えた。
「言ってみれば無駄なスペースですよね(笑)。でもそこが美しいと思うんです」。
ル・クルーゼのお鍋を並べた棚は、建物の廊下にあったアーチを活かして造作したもの。壁には、これも平野さんの希望でモールディングを施した。
「建物の雰囲気に合わせて、全体は木目と白で統一しました。でも全部同じ白にすると、単一になってしまうので、壁、扉、モールディングで3色、トーンを変えています。そこにモールディングなど装飾をほんの少し加えることで、雰囲気が出ると思うんです」。
平野さんの家は、9世帯が入るうちここだけだというメゾネットタイプ。料理教室も開かれる2階のLDKは、3面にあるアーチ型の開口から光が入る。
「標準プランは、北側の窓のある面に収納を設ける案だったのですが、私は、収納は要らないな、と。それよりも窓と階段をそのまま残してオープンに使いたいと思いました」。
2階から3階につながっていたはずの階段は、上階への入り口が塞がれている。ここを収納にしてしまうよりは、昔の名残りとして残し、お気に入りのものを飾るディスプレイスペースにしようと平野さんは考えた。
「言ってみれば無駄なスペースですよね(笑)。でもそこが美しいと思うんです」。
ル・クルーゼのお鍋を並べた棚は、建物の廊下にあったアーチを活かして造作したもの。壁には、これも平野さんの希望でモールディングを施した。
「建物の雰囲気に合わせて、全体は木目と白で統一しました。でも全部同じ白にすると、単一になってしまうので、壁、扉、モールディングで3色、トーンを変えています。そこにモールディングなど装飾をほんの少し加えることで、雰囲気が出ると思うんです」。
キッチン収納は“本屋さんのように”
無垢の木の床に漆喰の壁、タイル…。素材選びには特にこだわった。
「一貫してお願いしたのは、年月を経て味がでる“エイジング”でした。新しいときにいちばん美しいのではなく、エイジングして魅力を増す、そんな素材を使いたいんです」。
例えば半ツヤ消しの塗装のアイランドは、汚れもつきやすいのだが、それも味わいになる。
「便利すぎるものを美しいと思えなくて。キッチン収納も、天井が高いので電動式を紹介されたのですがお断りしました。私、“要りません”ばっかり言っていましたね(笑)」。
悩んだ末に吊り戸棚は本屋さんのイメージに。手の届かない上の段にはあまり使わないものを収め、必要な時のみハシゴを使って取り出す。
「全部扉を付けてしまうと圧迫感が出るので、一部分はオープンにしました」。
という棚には、アンティークのグラスやアスティエ・ド・ヴィラットの器を。カッティングボードなどの使い込んだツールとともに、ひとつの絵のような情景を生み出している。
「一貫してお願いしたのは、年月を経て味がでる“エイジング”でした。新しいときにいちばん美しいのではなく、エイジングして魅力を増す、そんな素材を使いたいんです」。
例えば半ツヤ消しの塗装のアイランドは、汚れもつきやすいのだが、それも味わいになる。
「便利すぎるものを美しいと思えなくて。キッチン収納も、天井が高いので電動式を紹介されたのですがお断りしました。私、“要りません”ばっかり言っていましたね(笑)」。
悩んだ末に吊り戸棚は本屋さんのイメージに。手の届かない上の段にはあまり使わないものを収め、必要な時のみハシゴを使って取り出す。
「全部扉を付けてしまうと圧迫感が出るので、一部分はオープンにしました」。
という棚には、アンティークのグラスやアスティエ・ド・ヴィラットの器を。カッティングボードなどの使い込んだツールとともに、ひとつの絵のような情景を生み出している。
テーブルからインテリアを発想
この部屋のインテリアを考える上で軸になったのは、8人がけの大きなダイニングテーブルなのだという。
「建物のコンセプトに合うテーブルを探していたんです。大正時代の和家具も扱っている青山の『オコンネルズ』のオーナーに相談したら、“これがいい”と譲って頂いて。設計の前に購入してしまったので、このテーブルに合わせてキッチン側を考えることができましたね」。
どこか和をミックスさせた雰囲気のダイニングテーブルは、大正時代の日本の洋館を彷彿とさせる。そこからオークの床を介してつながるキッチンは、あえて木を使わずデュポンコーリアン(人工大理石)の天板を。
「あまり木が入りすぎても調和がとれないかなと思ったんです。床とテーブルを決めたら、あとは迷うことはなかったですね」。
素材と色調にこだわった空間は、フランスの蚤の市などで入手した照明やドアノブなど、細部のパーツがさり気なく彩りを添えている。
「契約から完成まで2年もかかりましたが、その間に雑貨などを揃えました。今もフランスに行くと色々と見つけてきますが、そうやって部屋に合うものを探すのも楽しみですね」。
窓の向こうの緑が映える空間で、愛情をかけた料理のように、部屋も味わいを深めていく。
「建物のコンセプトに合うテーブルを探していたんです。大正時代の和家具も扱っている青山の『オコンネルズ』のオーナーに相談したら、“これがいい”と譲って頂いて。設計の前に購入してしまったので、このテーブルに合わせてキッチン側を考えることができましたね」。
どこか和をミックスさせた雰囲気のダイニングテーブルは、大正時代の日本の洋館を彷彿とさせる。そこからオークの床を介してつながるキッチンは、あえて木を使わずデュポンコーリアン(人工大理石)の天板を。
「あまり木が入りすぎても調和がとれないかなと思ったんです。床とテーブルを決めたら、あとは迷うことはなかったですね」。
素材と色調にこだわった空間は、フランスの蚤の市などで入手した照明やドアノブなど、細部のパーツがさり気なく彩りを添えている。
「契約から完成まで2年もかかりましたが、その間に雑貨などを揃えました。今もフランスに行くと色々と見つけてきますが、そうやって部屋に合うものを探すのも楽しみですね」。
窓の向こうの緑が映える空間で、愛情をかけた料理のように、部屋も味わいを深めていく。