なぜ今、リノベーションなのか 住まい選びの潮流 リノベーションを改めて考える

なぜ今、リノベーションなのか住まい選びの潮流
リノベーションを改めて考える

リノベ業界の第一人者に聞く

昨今、ますます人気のリノベーション。既存マンションのリノベは、住まい選びに欠かせない選択肢となっている。優良なリノベ物件の統一規格を定めている『リノベーション協議会』によると、2020年首都圏におけるマンション販売動向は、新築の供給戸数27,228戸に対して、中古成約数35,825戸と、新築を上回るニーズがデータで示されている。また、協議会が定める品質基準を満たした中古の「適合リノベーション住宅」は12年間で約5倍の発行件数に。
なぜリノベの気運が高まっているのか? その利点とは? そもそもリノベーションって? 『リノベーション協議会』の副会長であり、リノベーション会社『ブルースタジオ』のクリエイティブディレクターである大島芳彦さんに、リノベが求められる背景やその意義、そもそもの基本などについて伺った。
 
一般社団法人『リノベーション協議会』とは、リノベーションにかかわる様々な業者が集まった業界団体。安心できる既存住宅を提供するため、インフラ、耐震性、構造などの面から、優良な品質基準を満たす「適合リノベーション住宅(R住宅)」を定めている。
『ブルースタジオ』専務取締役、クリエイティブディレクター大島芳彦さん。リノベーション業界の第一人者。著書に「なぜ 僕らは今、リノベーションを考えるのか」(学芸出版社)がある。

『ブルースタジオ』専務取締役、クリエイティブディレクター大島芳彦さん。リノベーション業界の第一人者。著書に「なぜ 僕らは今、リノベーションを考えるのか」(学芸出版社)がある。

理想の暮らしを編集する時代へ

「経済的な理由からリノベーションを選ぶ人が増えた、というのもあるとは思いますが、実はそれは本質ではないんです」と、大島さん。
「本来、家は『つくるもの』だったはずなのですが、人口増加の経済成長時代の住宅の大量供給によって、多くの人にとってそれはいつしかマイカーや家電製品と同じように『買うもの』になりました。しかし現代の感覚は、家を手に入れることはそもそも目的ではなくなり、むしろ『自分らしい理想の暮らし』を手に入れたいという感覚が優ってきているのです。家とは理想の暮らしの一部に過ぎず、それが新築なのか中古なのか、はたまた賃貸なのか、それらは生活者それぞれの理想の暮らしにとっての対等な選択肢になってきたといえます。つくる時代から買う時代、そして今、“理想の暮らしを編集する時代”に変わったと私は思っています」。
リノベーション以前は、リフォームという言葉が一般的だった。そもそもこれは、どう違うのだろう?
「Reformの語源は“Re(再び)”“form(形づくる)”ですから、建築的なハードウェアの話です。それに対してRenovationは“Re(再び)” “innovation(革新・刷新)”を起こすことを意味します。これはハードウェアを超えた暮らし全般を刷新するマネジメントの視点、つまり“理想の暮らしを俯瞰し多角的に編集すること”を意味します。これは家を手に入れようとする人が消費者ではなく、オンリーワンの暮らしをデザインする当事者になるということです」。
Case Study① 両側にバルコニーのある風通しのよい空間を活かして“刷新”した実例。外に向かって水平方向に広がりを強調するため、棚やテーブルの高さをフラットに統一している。

Case Study① 両側にバルコニーのある風通しのよい空間を活かして“刷新”した実例。外に向かって水平方向に広がりを強調するため、棚やテーブルの高さをフラットに統一している。

リノベーションのメリットとは?

既存マンションのリノベーションには、中古だからこその利点もあるという。
「新築マンションを購入する場合は、商品として市場に提供されているものを選ぶことになるわけですが、それは事業者側の経済原理に支配された状況で、選択肢も限られています。けれど中古(既存住宅)の場合は、売却益を考えない個人が売主であるケースがほとんどですから、自分だけの住環境をリーズナブルに、圧倒的に多数の選択肢の中から選び出せます」。
供給過多の時代を経て、現在は物件のストックも豊富だ。
「何よりもまず、自分の住みたい街の中を選ぶことからして自由になります。理想の暮らしのデザインの第一歩はまず、家そのものよりも地域選びからです。どんな学校や商店街があり、そこで何が手に入り、どんな人が住んでいるか。これは、家単体よりもはるかに重要な暮らしの要素です」。
Case Study② LDKを中心にリノベーションした実例。キッチン・サニタリー・収納の動線を整理しつつ、品のある贅沢な空間に更新。

Case Study② LDKを中心にリノベーションした実例。キッチン・サニタリー・収納の動線を整理しつつ、品のある贅沢な空間に更新。

築年数だけでは評価できない

築浅〜築数十年まで幅広く揃っている中古だが、築年数は気になることのひとつ。何を基準に選べばいいのだろう。
「住宅には『法定耐用年数』というものがありますが、これを建築の寿命と勘違いしている人が多いですね。実際には、これは税法上の減価償却資産算定の基準でしかなくて、建物自体がこの年数をかけて劣化していくことを意味するわけではありません。実際の現状の建物性能はメンテナンス履歴によって大きく変わってきます」。
共用設備、外装関連の大規模修繕履歴の有無とその内容は重要なチェック事項。構造に関しては新耐震基準(1981年6月1日〜)以前の物件であっても、耐震補強され定期的にメンテナンスされているものなら安心だという。
「さらに第三者機関による耐震判定の『評定書』があれば、現行法の新耐震基準に見合っているといえるので、まだまだ数は少ないけれど、その中から選ぶのもいいでしょう」。
Case Study③ 夫婦でリモートワークできることも考えてプランニング。3LDKを広々とした1LDKに。5面採光にトップライトのある珍しい空間を活かしてリノベーションした。

Case Study③ 夫婦でリモートワークできることも考えてプランニング。3LDKを広々とした1LDKに。5面採光にトップライトのある珍しい空間を活かしてリノベーションした。

見定めるべきポイントは

「また、ある程度建設からの歳月が経つと、材料工学的な観点からも建物が落ち着いた状況になっているという利点があります。設備、管理なども含めてひと通り色々なトラブルを経て解決済みなので、その点では経年を経た物件は『こなれている』とも言えます。どんな人が住んでいるかや、管理組合の運営、会計状況なども明らかです」。
既存マンション選びの際、特にチェックすべき大事な要素は、管理組合だと言う。
「“マンションは管理を買え”と言われるほど、管理組合がきちんと運営されているかどうかは重要です。区分所有マンションを買うというのは、戸建てと違って共同体の一部を買うということ。共同体の意思決定組織である管理組合の資産価値維持に対する強い意思と組織力があるかどうか。その指標が管理規約、総会議事録、決算書、長期修繕計画などです」。
『ブルースタジオ』など物件選びからはじまるワンストップサービス会社に依頼することで、これらをチェックしてもらうなど、プロの目で管理組合の運営状況を判断してもらうことも可能だ。
Case Study③ 1LDKの中心にあるオープンなキッチンが、家族のコミュニケーションの場に。

Case Study③ 1LDKの中心にあるオープンなキッチンが、家族のコミュニケーションの場に。

今、求められている空間とは

リノベーションの編集作業の醍醐味といえるのが、間取りやインテリアのデザイン。住む人の個性や好みによって様々だが、今の主流をあえて聞いてみた。
「日本の分譲マンションは、古くは『田の字プラン』と言われて、それから50年間くらい真ん中に背骨のように廊下が通ったくらいで、今に至るまでほぼ変わっていないんです。狭い北側の玄関を入ると廊下の左右に納戸のような薄暗い部屋。その先にトイレ、風呂があって廊下を抜けドア開けるとキッチンとダイニング。そして南の明るい間口を二分するリビングルームと寝室…。リノベーションを選ぶ人はこんなステレオタイプの間取りに違和感がある。何でみんなこうも同じプランなんですかと」。
時代とともに標準的な家族構成の変化もあり、かつての部屋数重視で細かく仕切られ、廊下で分かれていた間取りから、今は仕切りをなるべく排して広々とした空間を求める傾向に。リノベ前の部屋数−1+LDKで考えるのが主流だという。ドアを開けたらいきなりリビングが広がっていたり、キッチンを暮らしの中心に考えたり。リノベであればこれまでの固定観念から解き放たれ、個々人の理想のライフスタイルに合わせた間取りが可能になる。
Case Study④ 家に入るとまず広がるのがこの光景。「“ただいま”と玄関を開けたら“おかえり”が待つ家」を目指してプランニング。中心にダイニングテーブルとカフェカウンター付きの巨大なキッチンを設けた。

Case Study④ 家に入るとまず広がるのがこの光景。「“ただいま”と玄関を開けたら“おかえり”が待つ家」を目指してプランニング。中心にダイニングテーブルとカフェカウンター付きの巨大なキッチンを設けた。

時代を超える本物の価値を住み繋ぐ

「また、本物の素材にこだわる人が多いのもリノベの特徴です。日本の住宅産業はクレーム産業であるがゆえ、新築の場合、基本的には品質にばらつきがなく経年変化しづらい本物の素材を模した新建材が好まれてきました。ただ、リノベーションを考える人たちにとっては経年は劣化ではなく“優化”なんです。時を経るほど味を増す、特に床などは見た目にばらつきがあっても天然の無垢の素材を求める人がほとんどですね」。
既存の物件に価値を見出し、長く楽しめる暮らしを住み繋いでいく。それは今求められているサスティナブルともつながっていくかもしれない。
「昔は消費に豊かさを感じていたけれど、暮らしの喜びとは買って消費することではなく、自分で編集し育てていく喜びです。それは、これからの生活者は『消費者』ではなく『当事者』であるということ。そういう感覚を私たちは大事にしながら、オンリーワンの愛すべき暮らしの環境づくりをお手伝いしていきたいですね」。
Case Study③ 玄関から広がる風景。床のタイルをLDKまでつなげ、バスルームとの仕切りにはガラスを採用して、抜け感を出している。

Case Study③ 玄関から広がる風景。床のタイルをLDKまでつなげ、バスルームとの仕切りにはガラスを採用して、抜け感を出している。

Case Study② 広々としたLDKは、床材を切り替えてリビングとダイニングを緩やかにゾーニング。

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築地にある「blue studio」東京オフィス。物件探しから設計までトータルにサポート。

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オフィス内の打ち合わせでは、ひとりひとりのライフスタイルに寄り添い、相談にのってくれる。オンラインセミナーも開催。

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グッドデザイン賞など、毎年数々の賞も受賞。

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