建築家夫妻の自邸リノベ 収納と庇が室内を取り巻く
“帯収納の家”
リノベ済み物件を再構築
「同じ建物の中で3軒ほど内見したのですが、外の緑道の景色がよく見える、この部屋に決めました」。
田中さんご夫妻が職場に近い立地に見つけたのは、1981年竣工の大規模なマンション。複数の建物がそれぞれ中庭を囲むように静かに並んで建ち、都心でありながら森の中にいるような気分に包まれる。
「将来、子どもが生まれることも考えて、広さのあるファミリー向けの物件を探していました。リノベーションすることは前提でしたね」。
ともに美大出身で、建築関係の仕事に携わるおふたり。リノベ済みで売り出されていた3LDKをほぼスケルトンにして、自らの設計で2LDKに変更することに。
収納から設計をスタート
大手ゼネコンで大規模な再開発を担当する夫・裕大さんがコンセプトを、フリーランスで住宅の設計などに携わる妻・彩湖さんが、使い勝手を考慮したアイデアを出し、最終的なデザインやディテールなどはふたりで議論しながら決めていった。
「ふたりの職業柄、マテリアルのサンプルや美術関係の道具など、モノがたくさんあったんです。広々とした空間を確保しつつ、どう収納を配置するかを考えることからスタートしました」。
大きな収納を造作すると、部屋の開放感が邪魔されてしまう…。
「そこで、収納を帯状に引き延ばして、壁側に巻き付ける“帯収納”を考えました。収納としてだけでなくベンチやTVボードにもなり、足元にあるためオープンな空間を阻害しません」。
角のところで緩やかなRのカーブを描く“帯収納”の上部には、収納と平行に庇がぐるりと走っている。
「RC造のマンションは梁が大きくて圧迫感があり、空間が分割されてしまうんです。そのマイナス面をクリアするため、梁下にL型の庇を設け空間が連続していくことを目指しました」。
一部の庇には30mmのスリットを入れて、ライン照明を施した。スリットから漏れ出る光が凹凸のある壁面を照らして陰影を生み、幻想的な雰囲気に。“帯収納”の一角の壁面では、プロジェクターで投影してホームシアターも楽しむことができる。
食器棚に合わせて統一
全体にカーペットが敷かれた落ち着く室内は、グレージュトーンで統一。
「インテリアは、以前勤めていた設計事務所から結婚祝いでいただいた、オーダーの食器棚に合わせました」。
というのは彩湖さん。ナラ材の色味に合わせて、収納や庇、建具などの素材を選択。キッチンも設置されていた新品のキッチン台を撤去して、彩湖さんがデザイン。面材など使う素材を選んで大工さんにオーダーした。
「雑多なものが目に入るのは嫌なので、立ち上がりを高めに設定して、シンクまわりが隠れるように考えました。吊り戸棚は付けたかったのですが、夫に却下されましたね(笑)。連続した庇の空間を守るため、腰の位置に収納を設けました」。
キッチンと玄関側の居室の間の壁には、庇と同じ幅だけ開閉できるガラス戸を設けた。
「奥の部屋にも光と風が通り、緑が見えるようにしたかったんです。外の景色を取り込んで空間を一体化させる、というのが全体のコンセプトですね」。
廊下だったところはワークスペースとし、家全体を清々しい空気が回っていく。
縦型ブラインドで開口を1枚の壁に
開口からの光が明るく差し込むLDKは、ウッドブラインドを閉じれば一面が覆われて、また違った雰囲気に変化。
「横型ブラインドは、隙間が出てしまうのが嫌で縦型を選びました。閉じると1枚の壁のようになってくれて正解でしたね」。
グレージュトーンのインテリアの中で、ブラインドだけは濃い目の色をセレクトした。
「全部同じ色味では締まらなくなってしまうので、キャビネットの取っ手の色に合わせて、茶系の濃いめの色を選びました。これも良かったことのひとつです。自分たちの住む家を自分たちで計画するのは、制約がない分、難しいところもありましたが、やりたいことを全部叶えられたので満足していますね」。