アートから考えたリノベーション作品を楽しみ、今を楽しむ
ギャラリーとしての住空間
家もアートコレクション
「3年くらい前からアートを買い集めるようになったのですが、前に住んでいた賃貸では、飾るのにちょうどいい場所がなかったんです」。
という亮太さん、彩香さんご夫妻。リノベーションは購入した作品を家で楽しむことが目的だった。
「リノベ済みマンションなどを探したのですが、映えそうな部屋がなくて。それならリノベーションから始めようと」。
見つけたのは駅から徒歩4分、当時築47年、南東に2面の開口がある48㎡の2LDK。
「休みの日によく回っている渋谷のギャラリーに近い立地で探しました。資産性も考えて選びましたね」。
設計施工は、インスタグラムを見てデザインがとても気に入っていた設計士さんに依頼。
「アートを飾るために設計してほしい、とお願いしました。リノベーションも彼の作品として考えているので、空間全体がアートコレクションになるようにと。あまりリクエストはしないで、最低限の希望だけを伝えて、あとは設計士さんのセンスにお任せしました」。
作品を邪魔しないデザインに
白い壁にグレーの床と天井。スタイリッシュな空間には、Rがつけられた壁面やアーチ型の仕切り壁が、やわらかな印象を加えている。
「1LDKにすること、人を呼べるようにダイニングキッチンを広く取ることは希望しました。設計士さんは、食事をしながらアートが眺められる展示スペースをまず提案してくれました。家に来た人は入った瞬間、“ギャラリーみたい”と言ってくれます」。
玄関からLDKまで続く土間はダイニングキッチンに面していて、この壁面にメインの展示スペースが。全面にピクチャーレールを設け、口径の狭いシャープなスポットライトでアートを照らしている。
「土間の突き当たりは本来シューズインクローゼットなのですが、今はアートスペースとして使っています。玄関の棚も、棚板を減らしてディスプレイ用にしています。持ちものは最低限にしているんです」。
シューズインクローゼットと書斎を囲む仕切り壁は天井まで塞がず、梁とのバランスを考慮して隙間を開けた。
「スイッチパネルも見えない位置に設置するなど、生活感が出ないよう、細かいところまで計算されています。ギャラリーに何度も足を運んで設計していただいたようです」。
空間に溶け込む真っ白なキッチン
お料理が好きな彩香さんは、キッチン台に4口のガスコンロをリクエスト。設計士さんのおすすめである田中工藝にオーダーして造作した。
「ダイニングとしても使用するので、大きいサイズが役立っています。スイッチの形などわがままを聞いてくれたり、見えない位置にオーブンレンジの置き場を設けていただいたり。アートを邪魔しないデザインがいいです」。
背面にあるパントリーとの間も広々とさせて、ふたりが同時に立てる広さに。
「以前はキッチンとダイニングが分かれていたのですが、今は距離が近いから、つい手伝う雰囲気になってしまいます(笑)」と亮太さん。
スツールはカウンターの高さに合わせて探しまわり、ネットで購入。インテリアはひとつひとつ、空間と予算に合わせて選んだものだ。
「パントリー、書斎の周りの壁の2カ所に、プロジェクターで投影して映画などを観ることもできます。LDKを広々とさせたのは正解でしたね」。
リノベから縁がつながった
中村さんご夫妻はともに医療関係者。そもそもなぜアートに興味を?
「もともと好きだったのですが、ある時、初めて買った1枚を何もない壁に飾ったら部屋の空気ががらりと変わったんです。そこからはまっていきました」。
コロナで出された給付金はほぼ、アート購入に回したそう。
「20代くらいの同じ世代の作家さんを人としてリスペクトしているし、応援したいという気持ちがあるんです。ここは作家さんを呼んで交流する場にもなっています」。
通常、自分の作品が売れた後、どのように楽しまれているか知る機会のないアーティスト。そんな人たちが興味を持って訪れてくるのだそうだ。
「カウンターでご飯を食べながらアートのことを語り合ったりしていますね。この先、子どもが生まれるなど生活に変化があった時はまた考え直すつもりですが、今は、今の暮らしを楽しみたい。アートを考えたリノベーションが、こうして縁をつないでくれて、興味を広げられたことも嬉しいですね」