クリエイター夫妻の居住空間ノイズのないクリーンな部屋を
自分たちらしく彩る
モノを置いて映える箱に
プロダクトデザイナーの小松岳(がく)さんと、マーチャンダイザーの木綿(ゆう)さんご夫妻は、昨年、川沿いに建つ築41年のマンションをリノベーションした。
「賃貸に暮らしていた時、家具を集めるようになったのですが、どんなにいいものを置いても空間はよくならない、ということに気づいてしまったんです(笑)。家具を映えさせるためには箱が大事だと思ったことが、リノベーションのきっかけです」。
デザインを学んでいた学生時代に知り合ったおふたり。空間に求めたのは“シンプルでクリーンな箱”だったそう。
「斬新なことがしたかったわけではないんです。空間で特徴を出すより、好きなものを置くことで自分たちらしさが出るようにしたいと思いました」。
ネットなどで何軒かリノベーション会社をあたった中で、決まったテイストに偏っていなかったnuリノベーションに依頼。
「個別セミナーで渡されたパンフレットやエコバッグのデザインも良かったんですよね(笑)。細かいところまで丁寧にやっていると直感しました」。
絶妙なトーンにR意匠を
3LDKをスケルトンにして1LDKに変更。玄関の土間や広々としたLDKなど、間取りの希望を叶えつつ、譲れなかった細かなポイントを随所に取り入れた。そのひとつがグレー×ベージュの塗装。
「リノベで白にする人は多いと思うのですが、ちょっと違うことをやりたい気持ちがありました。照明器具や雑貨などを差し色として使うので、白だとコントラストがつき過ぎてしまいます。グレー×ベージュはモノを目立たせずなじませる絶妙な色合いだと思って。天井まで塗ることは考えていなかったのですが、設計デザイナーさんに“そこまでやった方がいい”と言われました」。
壁や天井のニュアンスのあるカラーに加えて、やさしい印象を与えているのがRの意匠。リビング、キッチン、玄関などの間仕切り壁のコーナーにR曲面を取り入れた。
「動線上に角が出るのが嫌なんです。触ると痛いし、目にも痛い。光もそこで途切れてしまいます。普段私がデザインをしている中で、人が触るものを角にはしないんです。尖った要素をできるだけ省きたいと思いました」。
こだわったことでオーバーした予算を抑えるために、LDK以外の壁はDIYで塗装したのだそう。質感、素材感、きめ細かなデザインが居心地のよい空間を生んでいる。
シンプルを極める細かなデザイン
LDKで圧巻なのは、6mもある壁付けキッチン。
「気に入った海外の事例が壁付けだったんです。ふたりで料理をするので、動きやすいように広いスペースも必要でした」。
こだわったのは、端から端まで1枚の天板でつなげること。
「ベランダ側にワークスペースを設けたので、どうしても段差が出てしまうのですが、そこも斜めにつなげて1枚に見せるようにしました」。
平面図を描いて希望を提出。キッチン前には、塗り壁に合わせたカラーの、目にうるさくない程よいサイズのタイルを選び、縦長に貼った。
「下から貼っていったタイルの寸法ありきで、目地の高さに揃えて棚板を取り付けました。揃えられるものは揃えるようにしましたね」。
棚はすべて壁の中で固定する形で造り付けに。
「後から付けると金属のブラケットが見えてしまうのが嫌で。棚自体の存在感は消して、なるべくノイズの出ない空間にしたかったんです」。
オーブンレンジはビルトイン、冷蔵庫はパントリーに置くことで、生活感も排除。リビング側では、すべてオープンに造作した棚に、旅先などで購入したお気に入りの雑貨を飾り、楽しんでいる。
テイストに偏らず自分らしく
ベッドルームにはウォークインクローゼットを併設。木綿さんの希望で、LDKのフローリングに対して、こちら側には薄いベージュのカーペットを敷いている。
「好みのベッドフレームが見つからないので、輸送用のパレットの上にマットレスを置いてベッドにしました。ベッドヘッドはDIYです。ベッドルームはクリーンな雰囲気なので、ちょっと武骨なものをプラスするとバランスが取れると思いました」。
北欧風、ヴィンテージ風などに偏らず、様々なテイストをミックスさせることで、自分らしい空間に仕上がるという小松さん。リノベーションは必然だったともいえる。
「ハコの条件の中で仕上げることも楽しかったです。躯体を活かした天井や配管など、古いものをあえて残してみせて、そこに新しいデザインを混ぜていく。そういう空間が自分たちにはふさわしいと思っています。新旧がうまくミックスされたシンプルなハコを、好きな家具や雑貨で彩ることができる、自由度の高い空間になったと思います」。