デザイン性と機能性を融合絶妙のバランスで魅せる
緑と光に包まれる家
開放感を最優先して
白い鉄筋コンクリート造の築37年程の集合住宅。正方形サイズのバルコニーがせり出すように2カ所に設けられ、3面の開口から光が降り注ぐ明るい空間を、一級建築士・松田奈緒子さんは、自邸として自ら設計しリノベーション。
「一度フルスケルトンにしたのですが、配管や取れない壁などがあり、ある程度制約を受けました。その中でも必要なワークスペースと個室を設けつつ、いかに開放感を出すかを考えました」。
玄関を入ると目に飛び込むのは、アーチ型の開口のあるホールや、ガラス扉の奥のグリーンの茂るリビング。タイルがヘリンボーン状に敷き詰められた三和土(たたき)を上がると、どこかエスニックな雑貨やアートに導かれ、まるで迷路に迷い込んだような雰囲気に包まれる。
メインとサブ、2本の廊下を設ける
LDKにつながる廊下に加え、アーチ型の開口をくぐったところも、オープンなクローゼットを備えた廊下。あえて設けたスペースが、総面積86.7㎡の空間にゆとりを感じさせる。
「壊せない壁を仕切りにして、その奥を個室にするかどうかと考えたのですが、そうすると壁に囲まれた廊下を1本つくることになり、家に入ってきたときに狭い印象を与えてしまいます。そこであえて開口のある仕切りを立てて、メイン廊下・サブ廊下を設けました」。
抜けのある空間が奥行きを感じさせ、回遊できる2本の動線が、迷路のような雰囲気を生んでいる。小学生のお子さんもコート掛けのあるサブ廊下で遊ぶのが大好きなのだそうだ。そしてサブ廊下の向こうに子供部屋と主寝室を設置。
「子供部屋はふたりになっても使えるように、少し広めに取りました。使いたかった壁紙があり、そこから空間全体を考えていきました」。
繊細なタッチの動物絵柄の壁紙を一面に。そして個性的な壁紙を邪魔しないように、空間をコーディネート。
「主寝室はグリーン系の壁紙を選んで、森っぽく落ち着く感じにまとめました。アクセントウォールは使い過ぎても難しいけれど、どこかに取り入れたかった。もし壁が白だったら、カーテンで遊んだりしていましたね」。
インテリアまでトータルに考える
大学で建築を専攻、その後インテリアコーディネーターの資格も取ったという松田さん。
「設計をしてもインテリアまでは関わらず引渡しになってしまって、ずっと途中で放棄している感じがしていたんです。設計とインテリア、両方大事だと思うんです」。
ご夫婦ふたりとも在宅ワークが多いため、必要だったというワークスペースからは、ガラスの室内窓を通して広々としたLDKを一望。そこはグリーンやアンティーク、味わいのある家具やラグが独自の世界観を構成。
「フランスっぽいアンティークを入れつつ、少し北アフリカのリゾートを意識しています。家具はTRUCKのほか、友人の木工家具職人さんに造作してもらったものです」。
床はもともとの細いナラ材のフローリングを削り、染色し直して再利用。古い家の魅力を残している。
「きれいすぎると落ち着かないので、所々に武骨な感じも入れたいと思い、天井は剥き出しにしました。でもそのままだと汚い部分があったので、コンクリートに見える風にエイジング加工をしています」。
暮らしやすさにも配慮して
以前住んでいた家は、ある程度自由設計ができるコーポラティブ。その時の経験も今回、活かされた。
「前の家はLDK一体型だったので、使いやすさ以上に見栄えを優先しました。今回は半独立型でもあり、見栄えと同じくらい使い勝手も重視しました。機能性の高いメーカーの既製品を選択し、真鍮の取っ手に付け替えたり、タイルをアクセントに使ったりしています」。
配置を変えられなかったキッチンは、仕切りのドアのみ取り払って、緩やかにダイニングと接続させた。背面カウンターは、籐を面材に使い、予め置くものを考えてサイズをオーダー。
「整理収納の勉強もしたので、使い勝手も考えています。例えば、仕切り壁に小窓を設けたのですが、通気性の確保と同時に、タオルなどの洗い物を向こう側のランドリーに投げ入れられたり(笑)」。
洗面、バスルーム、トイレ、ランドリー、ウォークインクローゼットはひとつのスペースにまとめられ回遊できる造りに。
「生活動線を考えたことで、きれいも保てるようになりました。ワークスペースで仕事をしているときは、リビングのグリーンを眺めて癒されたり、ゆったりとした気持ちで過ごせます」。
プロにコーディネートを依頼した、バルコニーのグリーンもますます豊かに。庭の中にいるかのような緑と光に満ちた空間が、仕事もプライベートも充実させている。