外国人向け集合住宅をリノベ当たり前がかっこいい
素材とデザインが生きる部屋
公園の緑を活かしてリフォーム
ナラ材で作るオリジナル家具のデザインを行う「スタンダード トレード」代表の渡邊さん。現在は店舗や住宅の内装、設計も手がける渡邊さんが、築40年ほどの外国人向け集合住宅を購入し、リノベーションしたのは8年程前。
「家を買って改装したのは4回目なんです。僕にとって家は実験の場でもあります。お客さんにおすすめする前に自分で試しておく必要があると思っているので」。
目の前には、横浜・根岸の広大な公園が広がる。渡邊さんはこの借景を活かしたリノベーションを考えた。
「例えばキッチンです。公園の緑を眺めながら洗いものができるように、キッチンはオープンにして、シンクを公園側の窓に向けて設置しました」。
玄関はモルタルの土間のような造り。その向こうに広々としたLDKが開けている。
「間取りはほぼ全面的に変更しました。日本には細かく間仕切る文化があるけど、構造上問題がないのなら広々と使いたい。特に玄関や通路はなるべく豊かにしたいと思うんです」。
玄関・キッチン側の窓からは公園の緑が、リビング・ダイニング側からは、広々とした専用の庭の緑が眺められ、両方の開口部から入る光が、遮るもののない室内を通り抜ける。
バスルームは贅沢に
3階建てのテラスハウスの2階は寝室と子供部屋、3階は仕事部屋+収納に改装。
「階段は親子で手をつないで上り下りする、そんなシーンをイメージして広くとりました」。
ゆったりとした階段と、そこから続く廊下にはサイザル麻が敷かれ、素足で歩いても気持ちがいい。バスルームも3つに分けていた仕切りをとって広々とさせた。
「何より開放感を重視しました。どんなに小さなホテルに泊まっても、バスルームが贅沢だと快適に過ごせるじゃないですか」。
バスタブ、トイレ、洗面、洗濯機置き場が一体になり、生活動線、家事動線も考えられている。面によって色を変えたタイル使いが美しく、窓を開ければ公園の緑が望めて、バスタイムを優雅に楽しめる。
「タイルは前から使ってみたかった、少しムラのあるきれいすぎないものを選びました。ラインを入れる貼り方も、タイルの歴史に因んでこだわってみたものです」。
自然界にある色が落ちつく
各階を通して、東側と北側は紺色の壁、西側、南側はやや明るめの凹凸感のあるグレーの壁に塗装した。天井も微妙に違うグレーに。
「白だと壁が主張しすぎてしまう気がします。僕が使いたいのは自然界にある色。少し落ち着いたトーンが気に入っています」。
塗料は単色では使わない。白とグレーを混ぜたものに赤や黄色を混ぜたら、しっくりときて最近はよく仕事にも使っているそう。
「僕が扱う木って、何色だか分からないものですよね。1色では語れません。だから壁も含めて、単純にはカテゴリーを決められないものを目指しているんです」。
子供部屋のベッドヘッド側の壁にはナラ材をアレンジ。繊細な雰囲気を出すために、細くカットした木を貼った。
「ナラ材は湿気を吸ってくれるし、空気の浄化にいいんです。住んでみて、その効果を実感していますね」。
スタンダードなものを大切に
リビングの壁は素地仕上げ。冬場に縮んでそのままになり、目地が広がっているのが逆に味に感じられる。
「ソファーもヌメ革の素地を使ってみたのですが、めちゃめちゃ汚れてダメですね(笑)。やっぱり保護膜は必要だと思いました」。
と、まだまだこの家、実験の途中でもあることを明かしてくれた。そんな中にもすべてのものから、素材の良さがひしひしと伝わってくる。
「長く持てる、愛着のわくものを大事にしたいです。僕にとっていちばんの褒め言葉は“何だかわかんないけどいい家だね”と言われること。当たり前のことを大事にしながら、“何となくいい”ものがつくれれば」。
「スタンダード トレード」オリジナルの家具や造作が、“何となく”かっこよくて心地よい空間になじんでいた。