リフォーム済み物件を活かして 閉じたり開いたりで変貌 光と風が通り抜ける暮らし

リフォーム済み物件を活かして 光と風が通り抜ける
可変性のあるワンルーム

既存を活用して好みのテイストに

ベランダの向こうに広がるのは、都心の有名な神社の杜と再開発中の高層ビル群。建築家の四方美紀さんは、築50年超えのリフォーム済み物件を自邸としてリノベーションした。
「この辺の住環境が気に入っていたのと、夫が自転車で会社に通える立地であること、低層住宅専用地域で目の前に高い建物が建たないことなどの好条件から決めました」
仕事柄、リノベーションはマスト。スケルトンにできる物件を探していたが見つからず、リフォーム済みの部屋を選択した。
「既成の物件は好みの素材ではないことが多く、床や壁など仕上げ材をほとんど変えています。ただ、なるべく産業廃棄物を出したくないので、お風呂やトイレなど、活かせるものは活かしました。コスト的にもかなり抑えられましたね」

ベランダの開口の向こうには、低層住宅が広がっていて視界が抜ける。冬は暖かいが、夏は太陽が高い位置にあるので、日の入り方が違い涼しく過ごせる。

ベランダの開口の向こうには、低層住宅が広がっていて視界が抜ける。冬は暖かいが、夏は太陽が高い位置にあるので、日の入り方が違い涼しく過ごせる。

総面積は52㎡。光と風を取り込める、開放的な空間を計画。

総面積は52㎡。“光と風を取り込める、開放的な空間”を計画。

四方デザインアトリエの四方美紀さん。

四方デザインアトリエの四方美紀さん。

自由度の高い回遊型空間

2LDKだった間取りはほぼ変えていないが、引き戸を開け放てばワンルームにもなる、回遊型の空間に。LDKからベッドルーム、ウォークスルークローゼット、土間、水廻りへと通り抜けることができる。
「開けたり閉めたりすることで色んな使い方ができる、そんな空間にしたいと思いました」
ご主人と保育園児のお子さんと3人での暮らし。個室を仕切っていた壁を一部撤去することで、広々とさせたLDKに、一角をカーテンで仕切れるよう天井にカーテンレールを取り付けた。
「以前はワークスペース、今はキッズスペースとして使っているのですが、いずれは仕切りを立てて子供部屋にすることも考えています」
LDKには南側のベランダから光が差し込み、冬は暖房をつけなくてもポカポカと暖かい。
「以前、勤めていた事務所が“パッシブデザイン”を大事にしていて、太陽の熱や風といった自然のエネルギーで空調をデザインすることに取り組んでいたんです。光と風が抜けることを設計に活かしているので、季節によってコントロールして、快適に暮らすことができます」
寒い日には引き戸を閉じれば暖かく、開ければ風が抜けて心地よい。将来的な間取りとともに可変性が大切にされている。

廊下やベッドルームへの引き戸を開け放てば、回遊できるワンルームに。既存の床の上に、オークのフローリング材を敷いた。

廊下やベッドルームへの引き戸を開け放てば、回遊できるワンルームに。既存の床の上に、オークのフローリング材を敷いた。

閉じれば空気を遮断して、暖か。

閉じれば空気を遮断して、暖か。

天井は一部壊して、天井高を確保。空間になじむようコンクリートに薄く塗装をして、明るめに仕上げた。

天井は一部壊して天井高を確保。空間になじむよう、コンクリートに薄く塗装をして、明るめに仕上げた。

カーテンを閉じれば、リビングの一角を仕切ることもできる。

カーテンを閉じれば、リビングの一角を仕切ることもできる。

廊下の壁に連続性を持たせる

北側にあった個室はウォークスルークローゼットにするとともに、玄関と繋げて土間にした。
「リノベ前は寒くて暗い部屋だったんです。それなら土間を設けて、ベッドルームやLDKとオープンに繋げれば、北側の窓からの光も全体に活かすことができると考えました」
玄関を入ったときに、土間が左右に広がり、視界が抜けて広がりを感じさせる効果も。土間の床には石を模したタイルを選んだ。
「タイルは目地が入ることで、端正なイメージとなって空間が引き締まり、襟元を正す感覚になるんです」
素材選びのひとつひとつに意味があり、視覚的な効果が考えられている。例えば、玄関先の廊下に続く、光沢が美しい壁は、
「ヴェネチアンスタッコという大理石を模した左官材で仕上げています。普通はメインの部屋となるリビングなどに使うのですが、いちばん長い廊下の壁に使いました。廊下側に建具をつけず、一面の壁にして連続性を持たせ、そこにこの左官材を使うことでアクセントとして見せています」
光沢のある壁には外の風景が映り込み、ここでも広がりを感じさせてくれる。
「朝起きると、ウォークスルークローゼットを通って土間から廊下へ回ってくるのですが、左官の壁に光が当たってとても美しいんです。毎日この景色が見られることが、かけがえのないものに思えています。」

ヴェネチアンスタッコで仕上げた廊下の壁面。引き戸に枠を設けず、繋がりを持たせた。

ヴェネチアンスタッコで仕上げた廊下の壁面。引き戸に枠を設けず、繋がりを持たせた。

タイルを敷いた土間。WTCに接続している。ベニヤの引き戸は全部開閉させず、端を空けて有効に使えるスペースに。全身鏡があることで、広がりを生んでいる。

タイルを敷いた土間。WTCに接続している。ベニヤの引き戸は全部開閉させず、端を空けて有効に使えるスペースに。全身鏡があることで、広がりを生んでいる。

土間の反対側。シューズクロークは扉のみ造作して取り替えた。真鍮のフックなど、細かいところにこだわりが。

土間の反対側。シューズクロークは扉のみ造作して取り替えた。真鍮のフックなど、細かいところにこだわりが。

リビングからベッドルームを通ってWTCへ。 土間で洗濯物を干し、すぐに収納ができるよう動線を考えた。

リビングからベッドルームを通ってWTCへ。 土間で洗濯物を干し、すぐに収納ができるよう動線を考えた。

広がりを感じさせるための工夫

LDKの壁一面に設置されたキャビネットや、キッチン台、ペニンシュラなどは、使い勝手やデザイン性を考えて造作したもの。
「全体的にグレーと白、木の色調で統一していますが、木が多いと重たくて圧迫感が出てしまいます。そこでキッチンの棚の扉は白くして軽さを出しました。色が明るいことも視覚的な広がりを感じさせてくれます」
冷蔵庫の前に取り付けた扉は“垂直収納扉”に。調理作業中などは垂直に扉を収めておくことで、開けたり閉めたりの手間が省かれ、必要のないときは扉を閉めておけば、生活感を隠してすっきりとさせられる。
「ペニンシュラの棚はバランスを考えてデザインしています。一部ステンレスをあしらったことで、締まる雰囲気になったと思います」
細部まで計算されたデザインの中に、アートやギャラリーで購入した作品、古道具などが美しくディスプレイされている。
「アートブックなどを見て、おもしろいと思ったものを取り入れたりしています。キッズスペースの壁にかけた黄色い作品は、太陽をイメージしているんですよ」
制約のある空間の中でも、外に向けて開放される、風通しのよい空間に。全体的な間取りから細部に至るまで、心地よく暮らすためのアイデアが散りばめられていた。

白い面材を使った棚の扉には、丸を開けて手がけに。グレーのモザイクタイルを壁面にあしらった。

白い面材を使った棚の扉には、丸を開けて手がけに。グレーのモザイクタイルを壁面にあしらった。

リビングから見えない位置に家電を収納。飾り棚を設けてディスプレイを楽しんでいる。

リビングから見えない位置に家電を収納。飾り棚を設けてディスプレイを楽しんでいる。

冷蔵庫は、普段は扉で隠し、調理時などは扉を垂直に収納。

冷蔵庫は、普段は扉で隠し、調理時などは扉を垂直に収納。

オリジナルでデザインしたペニンシュラの一部。棚が浮き上がっているように見える。マグネットを付けられるステンレスであしらった。

オリジナルでデザインしたペニンシュラの一部。棚が浮き上がっているように見える。マグネットを付けられるステンレスであしらった。 

洗面所の収納鏡は既存のものを取り替えた。天井まであるミラーは、扉のグリッドにデザイン性が感じられる。

洗面所の収納鏡は既存のものを取り替えた。天井まであるミラーは、扉のグリッドにデザイン性が感じられる。

アンプやレコード、CDなどのサイズに合わせて棚を造作。ご主人とともに趣味の音楽を楽しんでいる。上部にはエアコンも内蔵。窓際のNEW LIGHT POTTERYのペンダントライトのシェードに、外の風景が反射する。

アンプやレコード、CDなどのサイズに合わせて棚を造作。ご主人とともに趣味の音楽を楽しんでいる。上部にはエアコンも内蔵。窓際のNEW LIGHT POTTERYのペンダントライトのシェードに、外の風景が反射する。

黄色いアートは自作したもの。窓のように抜けを感じさせる。色々なところに鏡を設置し、映り込みによる広がりを演出している。

黄色いアートは自作したもの。窓のように抜けを感じさせる。色々なところに鏡を設置し、映り込みによる広がりを演出している。

アートブックがインテリアのヒントに。ハンス・J・ウェグナーの椅子で。

アートやデザインの本がインテリアのヒントに。ハンス・J・ウェグナーの椅子で。

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