
リノベ済み物件をより心地よく凛とした空気が流れる
編集者の住まい
リノベ済み物件との出会い
雑誌『暮しの手帖』編集長の北川史織さんが暮らすのは、東京・浅草のマンション。北川さんが隅田川を見晴らすこのマンションを購入したのは、2019年のこと。「40歳になる頃から、このままずっと賃貸マンション住まいでいいのかと考え始めました。ローンが組めるうちにマンションを購入するのもありなのかなと、物件を見るようになりました」。
『暮しの手帖』以前は、住宅雑誌の編集者だった北川さん。「もともと家を見るのは好きなので、物件を探し始めると、やっぱり自分の家がほしいなという気持ちが強くなりました。都内の東側にある中古マンションを中心に10軒ほど見て、このマンションに出会いました」。
築30年ほどの53㎡の空間は、当時の住人によってリノベーションされていた。「前の住まい手は、偶然にも同業の編集者。もともとの1LDKの間取りを、ブルースタジオの設計で、回遊性のあるワンルームにリノベーションしていました。ワンルームの開放感とぐるぐる回れるユニークな間取り、そして隅田川が見える眺望の良さにひかれて、購入を決意しました」。

キッチンでコーヒーを淹れる北川さん。キッチンの床は玄関から続く土間仕上げ。ブルーのペンダントライトは、前の住人から譲り受けたもの。

2列型のキッチンは、以前のリノベーションで造作したもので、入居にあたり壁面にタイルを張った。「シンプルなつくりですが、料理しやすく使いやすいキッチンです」。

土間のキッチンは、リビング・ダイニングより1段低くなっている。ダルトンのチェストには、乾物など食材を入れている。

壁一面の収納の扉には、エンボス加工の壁紙が張られている。「カラフルな内装の中でここは白だったので、手を入れずにそのまま使っています」。

最上段の端っこがア太郎くんの定位置。「人見知りなので、来客時はここに隠れていることが多いです」。

愛用の器は、旅先や展示会で手に入れたものが多い。
多様に使える壁一面の収納
リノベーション済みの部屋は、洗面・バス・トイレなどの水回り以外はワンルームという潔い間取り。そのワンルームを、160㎝ほどの間仕切り壁でLDKと寝室・書斎とにゾーニングしている。水回りスペースも含めて回遊できる動線をはじめ、玄関とキッチンの床を土間でつなげたり、壁一面の収納を設けたりと、あちこちに工夫がこらされている。「以前の住まい手の方が暮らしやすくリノベーションしてくださっていたので、入居にあたって間取りは変更しませんでした」。
一方、インテリアについては自分の好みで変更を加えた。「ピンクや赤紫の壁などカラフルなインテリアだったので、壁を白く塗ったりして少し手をいれました。窓際の楕円形のちゃぶ台や天童木工の低座イスと座卓などは、以前から使っていたものを引き続き使っています」。無垢のナラのフローリングを生かした床座のスタイルは、目線が低くなり、空間を広く感じさせる効果もある。白を基調としたLDKは、無駄なものがなく凛とした佇まいをみせる。
リビング・ダイニングの壁一面に設けられた収納は、以前の住人から引き継いだものだ。リビング側には本や雑誌、テレビを収納し、キッチン側には食器類を収納している。収納の最上段が空いているのは、猫のア太郎くんのキャットウォークになっているからだそう。「2020年に保護猫を引き取りました。猫が収納の天板部分を歩けるようにと壁面に猫階段とキャットウォークを造作したのですが、ア太郎は収納の天板ではなく、その下のスペースが好きらしく。本を入れておいてもお構いなしに歩くので、あきらめて一番上の段はア太郎のために空けています」。

リビング・ダイニングの壁一面に設けられた収納棚。リビング・ダイニングの家具は、以前から使っていたものが多いが、左手の肘掛け椅子は最近入手した。「建築家・田中敏溥さんが設計した椅子です。ナラ材と帆布を使っていて、座り心地がとてもいいです」。

リビングの窓からの眺望。「この眺めが購入の決め手になりました」。隅田川の花火大会もよく見えるそう。

ア太郎くんを迎えた時に、窓の上の壁面にキャットウォークをつくり、キャットウォークや収納への猫階段も設けた。

「わざわざつくったキャットウォークよりも、棚の最上段がお気に入りのようです」。

収納の扉の一部は黒板塗料で仕上げてあり、マグネットがつく。

住まいのあちこちに絵が飾られている。奥の抽象画は山口一郎さんの作品。

角部屋のため、3方向から光がたっぷりと入る。白い間仕切り壁の向こう側に寝室と書斎がある。

ダイニングの本棚は、以前から使っていたもの。「こちらの本棚には、料理関係の本をまとめています」。

コンパクトながら、使いやすく設計された書斎。以前の住まい手が編集者だったため、色の確認がしやすい蛍光灯が設置されている。
苦楽をともにする、相棒のような存在
北川さんがこの家に暮らすようになって、6年ほどが経つ。6年の間には『暮しの手帖』編集長就任や、ア太郎くんとの暮らしが始まるなどのさまざまな出来事があった。「編集長になってまもなくコロナ禍となり、在宅勤務が始まりました。それまでは忙しくて家で過ごす時間が十分にはもてなかったのですが、一日中家にいるようになって、改めていい家だなと思いました」。ともすれば閉塞感を感じる状況も、自然光が入り、風が通る住まいが支えになったという。「あのとき引っ越してきてよかったと思いました。今振り返ると、この家と苦楽をともにしてきたなと思います」。
北川さんは今春で編集長を卒業し、4月からはフリーランスの編集者として仕事をしていくという。仕事の場として、そして生活の場として、まもなく訪れる新しい日々がこの住まいで紡がれていく。

寝室と書斎との間の壁の一部が空いている。左手の窓には、上からも下からも開くことができるハニカムスクリーンを設置。光や外からの視線をコントロールしながら景色を楽しむことができる。

窓側から寝室を見る。右手の木製窓の奥はバスルーム。

モザイクタイル仕上げのバスルーム。ガラス張りのため明るく開放感がある。

バスルームの向かい側は洗面コーナー。外廊下に面しており、窓から自然光が入る。洗濯乾燥機はドイツのAEG製で、入居後に壊れたため買い替えた2代目。

寝室から水回りへの通路。右手のドアはクローゼット。

ドアノブは前の住人が選んだもの。

クローゼットから水回りを見る。

引戸を開けると、玄関につながる。

玄関。タイル張りの土間がキッチンへと続く。
