デザイナー夫妻が手掛ける 映画の世界観を取り込んだ こだわりの空間設計

デザイナー夫妻が手掛ける映画の世界観を取り込んだ
こだわりの空間設計

ウェス・アンダーソンに憧れて

Uさん夫妻が中古マンションを購入しリノベーションをしたきっかけの一つは、コロナ禍で妻がフルリモートワークになったことだった。「前々から家を購入したいという話はしていたのですが、ゆっくり考える時間がなくてタイミングを逃していました。でも、妻が日当たりが悪い部屋で一日中リモートワークをするようになったこともあって、二人で相談して購入を決断しました」。物件探しの条件は、妻の実家があるエリアの駅近で日当たりが良いこと。加えて猫との暮らしを考えていたため、ペット可であることだった。そこで見つかったのが、南向きでペットを飼うことができる今の物件。現在は、夫妻とリノベ後に迎え入れた猫のエマちゃんと暮らしている。
Uさん夫妻は映画監督ウェス・アンダーソン好きで、空間作りのベースはウェス作品を参考にした。「一貫して大好きなので、結婚式もウェス・アンダーソンを意識してイメージボードを作成して、式場のプランナーさんに説明しました」と妻。
『ダージリン急行』『ムーンライズ・キングダム』『グランド・ブダベスト・ホテル』などで知られるウェス・アンダーソンの世界観をベースに作り上げた空間には、随所にこだわりが散りばめられている。

当初、夫妻が座る場所にキッチンがあった。一部屋をなくし、キッチンを下げたことで広々としたリビング・ダイニングのスペースを確保した。

当初、夫妻が座る場所にキッチンがあった。一部屋をなくし、キッチンを下げたことで広々としたリビング・ダイニングのスペースを確保した。

南向きの窓からの日光で真冬でも暖かい。

南向きの窓からの日光で真冬でも暖かい。

テレビが掛かっている壁一面をライトグレーにして、周辺のホワイトと差を出すことで奥行きを演出。

テレビが掛かっている壁一面をライトグレーにして、周辺のホワイトと差を出すことで奥行きを演出。

天井部の出っ張りになる梁の存在を和らげるため、ハンギングシェルフを設けた。「猫を飼うことを想定していたので、キャットウォークにもなるかなと」と夫。

天井部の出っ張りになる梁の存在を和らげるため、ハンギングシェルフを設けた。「猫を飼うことを想定していたので、キャットウォークにもなるかなと」と夫。

ベースカラーを意識しまとめる

リノベーションを手掛けたのはSHUKEN Re。「妻が何年も前からリノベ関連の本を買ったり、リノベ会社に資料請求をしたりして情報は結構揃っていて。いくつか事例を見て選んだのがSHUKEN Reでした」と夫は話す。夫妻ともにデザイナーという仕事柄もあり、自身でイメージボードを作成し担当者にイメージを伝えた。主にイメージボードを作成したのは妻。「フリーソフトを使って3Dの間取りを作ったり、Pinterestで見つけた写真やカラーチャートを付けて希望を伝えました。イメージは具体的に伝える方がいいと思って」。
プランを考える中で意識したのはウェス作品の特徴の一つである色の統一感。「ベースカラーは、ホワイト、木材で見せる明るめのブラウンと、モルタルを入れたかったのでグレートーンを加えました。このベースカラーを出ない範囲で空間を作っています」と夫。
大まかな間取りも夫妻が提案している。元々、南側の窓に沿って並んでいたキッチンとリビング・ダイニングだが、西側にあったキッチンを北側にすることでリビング・ダイニングを広くした。そのリビング・ダイニングから玄関までの廊下の床は夫の希望で、チーク材のヘリンボーン貼りに。「リビング・ダイニングだけにするか予算の関係で迷いましたが、廊下までやって正解でした。一日で一番長く過ごすのはリビング・ダイニングなので、ここにはお金をかけようと。そういうメリハリはつけましたね」と夫。
東側にあった和室の一部は室内窓が特徴的なワークスペースに。「家の中にもう一つ家があるみたいな雰囲気に憧れがあって、大きな室内窓を設けました。窓枠は空間の統一感を考えてアイアンを使わず、温かみのある木枠にしています」と妻。

ワークスペース。背面の可動棚には夫妻が趣味で集めた品々が飾られている。広く取られた室内窓から十分に光がとれる。

ワークスペース。背面の可動棚には夫妻が趣味で集めた品々が飾られている。広く取られた室内窓から十分に光がとれる。

棚上部の壁にも室内窓を設けた。子供用にと用意した部屋(現在はエマちゃんの部屋)とを繋げ、換気と採光の役割を持つ。

棚上部の壁にも室内窓を設けた。子供用にと用意した部屋(現在はエマちゃんの部屋)とを繋げ、換気と採光の役割を持つ。

全てのアーチ状の入り口にあるサインペインティングは、サインペインター「PEANUTS BUTTER SIGNS」によるもの。文字の書体や色味がウェス風になるよう全て特注。

全てのアーチ状の入り口にあるサインペインティングは、サインペインター「PEANUTS BUTTER SIGNS」によるもの。文字の書体や色味がウェス風になるよう全て特注。

レコード棚は「PYTHAGORA」のセミオーダー家具。色調に統一感を持たせつつ、棚に置く小物などでさりげなく差し色を入れる。

レコード棚は「PYTHAGORA」のセミオーダー家具。色調に統一感を持たせつつ、棚に置く小物などでさりげなく差し色を入れる。

カップボードには「Astier de Villatte」をはじめとする妻のコレクションが収められているほか、上部には「Coral&Tusk」の刺繍絵や、夫妻の友人が手掛ける「Streptocarpus candle」のキャンドルなどが飾られている。

カップボードには「Astier de Villatte」をはじめとする妻のコレクションが収められているほか、上部には「Coral&Tusk」の刺繍絵や、夫妻の友人が手掛ける「Streptocarpus candle」のキャンドルなどが飾られている。

曲線とアクセントカラーで整える

モルタルで仕上げたキッチンの腰壁は、ウッド感のあるリビング・ダイニングを引き締める。「実家が工場だからなのか、カクカクしてキッチリしたものが好きなんです。でも全てそうすると無機質な雰囲気になってしまうので、妻が要所要所に曲線を入れて一辺倒にならないようバランスをとってくれました」。パントリーの入り口のアールや、リビング・ダイニングの円形テーブルなど空間に曲線を加えたり、キッチンのタイル目地をライトグレーにして柔らかい印象を与えるなど、空間全体のバランスを考えた工夫が見られる。
パントリーの壁はアクセントカラーとしてウェス作品を意識して選んだターコイズブルーを入れた。洗面所やトイレ、エマちゃんの部屋の壁にもアクセントカラーを加え、落ち着いたベースカラーの空間にリズムを作る。
暮らし始めて1年以上経った今、心境の変化があったと夫は話す。「最初は一人になれる書斎が欲しいと言っていたのですが、ワークスペースや将来の子供部屋を作ることを考えて諦めていました。でも今はリビング・ダイニングが快適で、エマと一緒に床に寝て日向ぼっこしたりして、くつろぐ時間が多いので、一人になるための部屋が欲しいとは思わなくなりましたね」。
2人の理想が散りばめられたご自宅。1年以上住んだが全く飽きない完璧な家と夫妻が言う一方で、猫のエマちゃんが加わったことでリビングドアに猫用の扉をつけることを検討中だという。新たな家族や物が増えれば、生活リズムが変わり空間の形も変わる。はっきりとしたコンセプトを持ち、ブレない軸を持ったUさん夫妻邸では、変化も心地よく調和していく。

モルタルの腰壁があるキッチンのイメージは等々力にあるカフェ『ASAKO IWAYANAGI SALON DE THÉ』の空間。腰壁は作業スペースを隠しつつも圧迫感を与えない絶妙な高さになっている。

モルタルの腰壁があるキッチンのイメージは等々力にあるカフェ『ASAKO IWAYANAGI SALON DE THÉ』の空間。腰壁は作業スペースを隠しつつも圧迫感を与えない絶妙な高さになっている。

上部は収納棚などを設けずシンプルにすることで空間に余裕と軽さを与える。

上部は収納棚などを設けずシンプルにすることで空間に余裕と軽さを与える。

ステンレスのキッチンや換気扇、モルタルの腰壁などインダストリアルな部分がある中、パントリーのアクセントカラーとアーチ状の入り口が全体のバランスをとっている。

ステンレスのキッチンや換気扇、モルタルの腰壁などインダストリアルな部分がある中、パントリーのアクセントカラーとアーチ状の入り口が全体のバランスをとっている。

玄関扉を開けると土間が奥に伸び、広がりを感じさせる作りに。

玄関扉を開けると土間が奥に伸び、広がりを感じさせる作りに。

リビング・ダイニング側から見た玄関。廊下までヘリンボーン貼りの床が続き、空間の連続性を演出した。

リビング・ダイニング側から見た玄関。廊下までヘリンボーン貼りの床が続き、空間の連続性を演出した。

廊下には本棚を設けた。収納だけでなく、表紙や背表紙にある色が空間の統一感を邪魔しない程よいアクセントになっている。

廊下には本棚を設けた。収納だけでなく、表紙や背表紙にある色が空間の統一感を邪魔しない程よいアクセントになっている。

丸い鏡に丸い裸電球が可愛らしい造作の洗面台。床はハニカムタイルで、ベースカラーに沿って統一感を守りつつも遊び心を見せる。「HAY」のカーテンは日本未発売の商品で海外から取り寄せた。

丸い鏡に丸い裸電球が可愛らしい造作の洗面台。床はハニカムタイルで、ベースカラーに沿って統一感を守りつつも遊び心を見せる。「HAY」のカーテンは日本未発売の商品で海外から取り寄せた。

ツートーンの壁が印象的な部屋は将来子供ができた時のためにと用意した。今は愛猫のエマちゃんの部屋になっており、夫は「贅沢ですよね」と笑顔で話す。

ツートーンの壁が印象的な部屋は将来子供ができた時のためにと用意した。今は愛猫のエマちゃんの部屋になっており、夫は「贅沢ですよね」と笑顔で話す。

トイレの丸窓やブラケットライトは、ウェス作品を意識し潜水艦をイメージ。

トイレの丸窓やブラケットライトは、ウェス作品を意識し潜水艦をイメージ。

他の場所でも使われているターコイズブルーをアクセントクロスに使用。全ての部屋が色や柄など何かしらが全体とリンクしている。

他の場所でも使われているターコイズブルーをアクセントクロスに使用。全ての部屋が色や柄など何かしらが全体とリンクしている。

北側にある寝室はキッチンとの間に設けた室内窓で南側と繋がっている。「トイレや風呂場を除いて、家全体が繋がるようにしました。風が抜けて気持ちがいいですよ」と夫。

北側にある寝室はキッチンとの間に設けた室内窓で南側と繋がっている。「トイレや風呂場を除いて、家全体が繋がるようにしました。風が抜けて気持ちがいいですよ」と夫。

Uさん夫妻と一緒に暮らすエマちゃん。

Uさん夫妻と一緒に暮らすエマちゃん。

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