線を消してシンプルに 広さよりも見た目を重視した “整える”ためのリノベーション

線を消してシンプルに広さよりも見た目を重視
“整える”ためのリノベーション

築浅物件に2年暮らして決意

結婚を機にマンション購入を考えたSさんご夫妻。スカイツリーが間近に眺められる賑やかな駅から徒歩10分。見つけたのは築浅のマンションの50㎡の1室だった。
「4〜5年程前に購入し、そのまま2年程暮らしました。簡単にリフォームされていたのですが、凸凹した壁だったり、角のあるオープンシェルフだったり、細かいところが気になってしまって。テカテカして木目の強い床や建具、収納の面材などもパンチが強く、あまり好みではありませんでした」
Sさんが第一に希望したのは、空間の中を走る“線を整える”ということ。ネットで検索するうちに見つけたH2DO Architect&Associatesに相談することに。
「ビジュアルにこだわって設計事務所を探していました。建築家の久保さんが自邸としてリノベーションしていた36㎡の部屋を見て、手狭な空間でもこんなに素敵にリノベーションできるんだと思ってアプローチしました」

住宅設備はそのまま既存を使用。壁や梁をふかしてノイズのない空間に。

住宅設備はそのまま既存を使用。壁や梁をふかしてノイズのない空間に。

天井の抜ける部分は抜いて高さを出した。照明器具も最小限に抑えられている。

天井の抜ける部分は抜いて高さを出した。照明器具も最小限に抑えられている。

Sさんご夫妻。ソファは空間に合うものを探し、メルカリで購入。

Sさんご夫妻。ソファは空間に合うものを探し、メルカリで購入。

揃っているからこそ広く見える

建築家への要望は、「ラインを消した抽象的な空間に住みたい」というもの。壁や梁をふかすことで気になるラインを消して、線と面をすっきりと整える計画から始まった。
「玄関から見たときに、個室の壁が引っ込んでいてまっすぐではなかったんです。それを揃えるために廊下側に壁を出してもらいました。ベランダの開口の上は逆に出っ張っているところがあったので、ふかして揃えてもらいました」
そうすることで、エアコンが隠せるスペースと、開口の両側に掃除道具などを収められる収納を確保。
「物理的に空間を広くするというよりは、揃っていることで広く感じる、そんなところを重視しました。2㎡くらい広くなってもそんなに変わらないし(笑)、それならば見た目にすっきりしていて、気持ちよく過ごせるほうがいいと思うんです」
モダンでシャープな空間には、一方で剥き出しにされたダクトが印象的。 
「インダストリアルも嫌いではなかったので、ここは出してしまおうと。空間のアクセントになってよかったと思っています」

玄関側からLDK方向を見る。個室の仕切り壁が同じラインでリビングまで揃うように整えた。

玄関側からLDK方向を見る。個室の仕切り壁が同じラインでリビングまで揃うように整えた。

凹凸のあった開口のまわりをふかした。両サイドと上部に収納を設け、エアコンもカバーしている。

凹凸のあった開口のまわりをふかした。両サイドと上部に収納を設け、エアコンもカバーしている。

ダクトレールは剥き出しにした。

ダクトレールは剥き出しにした。

上部の収納とエアコンカバー。

上部の収納とエアコンカバー。

愛猫のミケちゃん。普段は室内を歩き回る。

愛猫のミケちゃん。普段は室内を歩き回る。

ライフスタイルに合わせて

間取りは2LDKから変えていないものの、ふたりが干渉しないで過ごせるスペースを設けること、お子さんが生まれたときにも対応できる空間をつくることも考慮した。
「ちょうどコロナに入り、ふたりともリモートワークになったので、お互い音が気になっていたんです。ワークスペースをそれぞれのスペースに設け、一人が深夜仕事をしていてももう一人は簡易ベッドで休めるようにと考えました」
ベッドルームと個室のそれぞれにワークスペースをプラス。活躍したのは、DIYが可能な“イタカグ”だ。
「リビングのテレビボード兼収納もイタカグです。サイズに合わせて加工してもらった板を組み立てるのですが、既存でぴったり合う家具を見つけるのは難しいし、造作だとコストがかかるので使用しました。私たちは大工さんに施工してもらったのですが、自分でやればさらにコストが浮かせられます」
収納も3〜4倍に増やし、建具はすべて枠のないすっきりしたタイプに変更。
「ドアはスリムになっています。ふたりとも背が高いので高さは欲しいけれど、幅はスリムにした方がモダンな印象になるかなと」

ベッドルームに、イタカグで仕切ってワークスペースを設けた。

ベッドルームに、イタカグで仕切ってワークスペースを設けた。

クローゼットもベッドルームに追加。収納量が増えた。

クローゼットもベッドルームに追加。収納量が増えた。

個室には本棚を設置。簡易ベッドを置いて第2の寝室に。

個室には本棚を設置。簡易ベッドを置いて第2の寝室に。

個室に設けたワークスペース。2人同時のリモートワークが可能。

個室に設けたワークスペース。2人同時のリモートワークが可能。

ダイニングに収納を設置。壁と同化するかのようなノイズのない佇まい。

ダイニングに収納を設置。壁と同化するかのようなノイズのない佇まい。  

テレビボード兼収納。LDの端から端まであるサイズで、たっぷり収納できる。

テレビボード兼収納。LDの端から端まであるサイズで、たっぷり収納できる。

DIYで好みの空間に整える

ややグレーがかった壁や天井は、すべてDIYで塗ったそう。
「Porter’s Paintという塗料を紹介してもらい、講習を受けてふたりで塗りました。工事期間中に1週間くらいかけてやったのですが、最後の2日くらいは徹夜でした。もう一生やらない、と思っています(笑)」
床は、リノベ時には白いモールテックスで仕上げていた。
「それが半年ほど住んでいるうちに、床の汚れが気になるようになって。真っ白な床で暮らすには、神経質すぎたみたいです(笑)。そこでグレーのペイント材を使って夫婦ふたりで上から塗りました。乾いたらモルタルっぽくなってきて、うまくなじんでくれました」
木目が強かったキッチンの面材は、ベージュグレーの色味で塗り、巾木として部屋全体に使っているアルミ材を、下部にあしらった。細かなところにこだわり、手をかけたことで意匠的にも暮らし的にも“整えられた空間”が実現した。
「以前は家ありきで、あるものをどう使うかを考えて暮らしていました。生活にフィットしてない部分がありストレスも感じていたのですが、リノベーションで家族のための空間にすることで、暮らしのかたちにあった家になりました。居心地がいいなあと心から思えますね」

床に使用したのはコンクリート用化粧材「ヌルコン」。刷毛やローラーで塗るだけで美しく仕上がる。

床に使用したのはコンクリート用化粧材「ヌルコン」。刷毛やローラーで塗るだけで美しく仕上がる。

ベージュグレーで塗ったキッチンは、表情があってお気に入り。下部のアルミ材は、巾木にも使用している。

ベージュグレーで塗ったキッチンは、表情があってお気に入り。下部のアルミ材は、巾木にも使用している。 

トイレのドアは既存のまま活用し、取っ手のみネットで探して付け替えた。

トイレのドアは既存のまま活用し、取っ手のみネットで探して付け替えた。

Sさんご夫妻とミケちゃん。枠のない細身のハイドアが天高を感じさせる。

Sさんご夫妻とミケちゃん。枠のない細身のハイドアが天高を感じさせる。

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