食を介して人とつながる家日本の“察する文化”を大切に
モダンと和の融合空間
パブリックスペースを大空間に
閑静な住宅街に佇む、築40年程のヴィンテージマンション。食を通して人と人とのコミュニケーションを図る「てとてと」の豪希さんと桃子さんは、1年前にここを購入してリノベーション。
「料理教室やホームパーティーをやりたくて、間取りもそれに合わせて考えました」。
間仕切りをすべて取り払い、パブリックスペースであるLDKだけで54㎡という大空間に。廊下は設けず、ラワンの有孔ボードでプライベートスペースを区切った。
「僕が“和”をテーマにしたいのに対して、妻は“カントリー”なんです(笑)。ふたりの希望を取り入れるとごちゃごちゃになるので、建築士さんに好みのデザインを集めたスクラップブックをお見せしある程度お任せしました」。
無垢のオークの床に、むき出しのコンクリートの梁、ラワンの仕切りや棚に包まれた空間は、スタイリッシュなのに懐かしさも漂う。
「和の設えをしても似合うし、カントリーにも調和します。両方のエッセンスがうまく取り入れられた空間になったと思います」。
建築家と職人の知恵と技を結集
素朴なラワン素材のアクセントにもなっている有孔ボードは、“和”につながる部分もある。豪希さんの意向を組んだ、建築家・松島潤平さんのアイデアだ。
「日本家屋の“察する文化”を大切にしたいと思うんです。例えば欄間とか、仕切られていても向こう側の気配、様子が伺えます。そんな文化を有孔ボードで表現してもらいました」。
ラワンのドアは、隠し蝶番とソフトクローズのドアダンパーを使い、レバーハンドルのないミニマルなデザインに。キッチンの収納棚はプッシュオープンにすることで取っ手がないデザインにこだわった。
「棚板、仕切り板、キッチンカウンターや造作テーブルの天板など、厚さが全て9ミリに揃えられているんです」。
9ミリという厚さは、木にしては薄く、金属にしては厚い。こうすることで何の素材を使っているのか分からない不思議な雰囲気を作り出したのだそうだ。
「さり気ないこだわりが随所に感じられます。ものづくりに思い入れのある人が集まってできた家だと思いますね」。
コンパクトにして十分な生活空間
「人が集まるパブリックスペースが中心で、それ以外にはあまりこだわらないと、建築家さんには伝えました」。
プライベートスペースはベッドルーム、将来のための子供部屋、ウォークインクローゼット、パントリー、水廻りがシンプルに並ぶ。
「空間が狭いベッドルームは、少し広く見せたいと思い、有孔ボードを膨張色である白で塗りました。唯一のDIYです」。
トイレは、以前持っていたミニクーパーの色である鮮やかなタヒチブルーを塗装してもらった。洗面もトイレも本物のマリンランプが用いられていて、インダストリアルな雰囲気。
「私の好みがいちばん出ているのが洗面なんです」と桃子さん。
薄いグレーの壁に、イタリアの職人手づくりのシンク。ナチュラルでやわらかな雰囲気が漂う。整然と並べられた生活空間はコンパクトだが必要十分、けれどさり気ないこだわりが、やはり感じられる。
家から出会いが広がっていく
「専用庭があったのも、このマンションを選んだ理由のひとつなんです」。
ウッドデッキを敷いたテラスでは、桃子さんがバラやアジサイ、ハーブなどを育てている。
「この1年で60回くらいパーティーを開きましたが、ここに来てやりたいことがどんどん実現している感じです」。
空間に合わせて長方形に造作した大きなオークのテーブルは、大人数でのパーティーで活躍。おふたりが大好きな、益子などで買い集めた作家ものの器や漆器が、ゲストをおもてなしする。
「ここには僕たちの好きなものが詰まっているんです。自分を分かってもらう、自己表現にもこの空間はなっていますね。やりたいことが広がり、色んな出会いや機会が得られて、家を手に入れた以上のものがあったと思います」。