Less is Moreを具現  ミニマルな空間に宿る 本当の豊かさ

“Less is More”を具現 ミニマルな空間に宿る
本当の豊かさ

こだわり抜いた作品としての家

デザインユニット「トネリコ」の米谷ひろしさん、増子由美さんご夫妻が現在暮らすのは、都心に建つ70年代のヴィンテージマンション。10年程前に購入し、自らリノベーションを行った。
「その前に住んでいた物件もリノベをしたのですが、まだ若かったので予算的にすべてできたわけではありませんでした。ここは独立前に初めてフルリノベーションを行った空間です。作品として考えていたので、細かいところまでこだわり抜いています」
と、米谷さん。増子さんが希望するイメージを米谷さんが図面化。細かな素材やカラーなども共有してプランニングした。
「デザインのツボがふたり一緒なので、プランは立てやすかったですね。0から伝えなくても9から始めれば10になる。それは大事ですね」
と増子さんは語る。
真白の壁とグレーの床、薄グレーの天井に包まれた、究極的にシンプルでミニマルなリビングで。ソファー上の梁をあえてふかすなど、空間デザイン上の細かな計算がなされている。

真白の壁とグレーの床、薄グレーの天井に包まれた、究極的にシンプルでミニマルなリビングで。ソファー上の梁をあえてふかすなど、空間デザイン上の細かな計算がなされている。

2面は壁面収納に。マットなメラミン化粧板仕上げのパネルを使い、壁のように見えることにこだわってデザイン。

2面は壁面収納に。マットなメラミン化粧板仕上げのパネルを使い、壁のように見えることにこだわってデザイン。

5m幅のソファー、人工大理石のテーブルは造作で。空間の余白を考えて設えた正面の壁の下部は、“床の間”として存在している。“God is in the detail(神は細部に宿る)”をモットーに、煙感知器に至るまでオリジナルでデザイン。間接照明以外、リビングの灯りはダウンライト1個のみ。

5m幅のソファー、人工大理石のテーブルは造作したもの。空間の余白を考えて設えた正面の壁の下部は、“床の間”として存在している。“God is in the detail”をモットーに、煙感知器に至るまでオリジナルでデザイン。間接照明以外、リビングの灯りはダウンライト1個のみ。

エントランスをLDKに見立てる

もともとは70㎡ほどの空間が3LDKに細かく分かれていた。壁などすべて取り払いスケルトンにしてワンルームに。
「集合住宅なので配管は移動させられません。それを見越した上で解体してみたら、洗面所の入り口の位置を変えることができました」。
もともとリビング側にあった入り口をキッチン前に移動させ、配管を避けてコンパクトに設計。ここはエントランスホールでもあるが、三和土(たたき)はなくまるでLDKの一角のよう。
「造作した鏡の引き戸を閉めれば玄関のドアが隠れて、エントランスが部屋の一部のようになります。暗くなりがちな玄関や廊下を明るい場所にすることと、空間を有効的に使うことを考えました」。
靴は、エントランス脇に設けられたシューズクローゼットの中に入れてしまえば、何も邪魔するもののない空間に。落ち着いたグレーのセラミックタイルの床がそのままリビングまで連なり、導いてくれる。
エントランスでもあるキッチンスペース。鏡の引き戸を閉じることで、LDKの一角に早変り。リビングに対して天井は低く設定され、変化がつけられている。

エントランスでもあるキッチンスペース。鏡の引き戸を閉じることで、LDKの一角に早変り。リビングに対して天井は低く設定され、変化がつけられている。

引き戸を開ければ玄関のドアが出現。右手にコートもかけられるシューズクローゼットが設けられている。 

引き戸を開ければ玄関のドアが出現。右手にコートもかけられるシューズクローゼットが設けられている。 

バスルームへの入り口。いつでもホカホカのタオルが使えるタオルウォーマーは、採用して良かったもののひとつ。

バスルームへの入り口。いつでもホカホカのタオルが使えるタオルウォーマーは、採用して良かったもののひとつ。

お風呂、トイレ、洗面、ランドリーを一体に。間接照明が幻想的な雰囲気。

お風呂、トイレ、洗面、ランドリーを一体に。間接照明が幻想的な雰囲気。

計算し尽くした“壁のような収納”

「人を招くことを前提にデザインしたんです」。
シンプルでミニマルなモノトーンのリビングは、天井高が上げられ開放感に包まれる。
「隣にベッドルームを設けましたが、壁ではなくクローゼットを仕切りにしています。天井もあえて開けて、空間を分断しないようにしました。人の気配を残したかったんです」。
壁のように見える、グリッド状のパネルで構成された面はすべて壁面収納の扉。これを開くと衣類を中心に生活用品が現れる。
「何もない状態で生活したいので、収納も大事なテーマでした。師である内田繁が言っていたのは、“一般の人が驚くくらいじゃないとプロじゃない”ということ。寸法にとことんこだわり“壁に見える収納”を追求しました」。
面として美しく見える600mmまでのサイズを守って扉の幅を設定。手をかける目地の幅はギリギリ指が入る13mmの細さに。マットな真白の面に細い目地がシャープなラインを描く。
「自分の家なのでギリギリに挑戦してみる、実験的な意味合いもありました。結果としてデザイン的にも収まりがよく、さらに掃除もしやすくてクリーンに過ごせる空間になりました」。
ベッドルームとの仕切りにもなっている壁面収納。天井まで塞がず、開けてつながりをもたせた。

ベッドルームとの仕切りにもなっている壁面収納。天井まで塞がず、開けてつながりをもたせた。

観音開きの扉を開くと、整然と衣類が収められていた。「朝、どちらかがまだ寝ているときに音が気にならないよう、ベッドルーム側ではなくリビング側に設けました」。上部のハンガーをかけるポールは見えない位置にこだわった。中央の最上部はプロジェクター。

観音開きの扉を開くと、整然と衣類が収められていた。「朝、どちらかがまだ寝ているときに音が気にならないよう、ベッドルーム側ではなくリビング側に設けました」。上部のハンガーをかけるポールは見えない位置にこだわった。中央の最上部はプロジェクター。

持っているものを想定して、収納力を考えたそう。右端の“床の間”の下も収納になっている。

持っているものを想定して、収納力を考えたそう。右端の“床の間”の下も収納になっている。

ソファー下には本を収納。増子さんが装丁を担当した「キッチン」「アムリタ」も保管。

ソファー下には本を収納。増子さんが装丁を担当した「キッチン」「アムリタ」も保管。

何もないからものの美しさが映える

エントランスにあるキッチンは、腰壁に床と同じセラミックタイルを使用した。
「玄関を入ったときに、手元が見えないように腰壁の高さを考えました。これも初めてやってみたことのひとつです」。
キッチン背面の収納の扉は、開け閉めや出し入れがスムーズにできるよう片開きに。生活上の動作も計算済みだ。
「料理はダイニングのテーブルに運んでいただきます。床に直接座るのも気持ちよくて、ゴロゴロしたりしていますよ(笑)」。
目地の多いフローリングに比べすっきり見えることと、経年変化しない素材感が魅力だったセラミックタイルの床は、夏は冷んやりと涼しく、冬は床暖房により暖かい。空をイメージして薄いグレーでグラデーションをつけた天井の下に広がる空間には、静寂な空気感が漂う。
「“Less is more”というミース・ファン・デル・ローエの言葉がありますが、何もないミニマルな状態が、自分たちがいちばん心地よく過ごせる空間なんです。茶の湯文化にも通じるのですが、何もないからこそ、器であったり、アートであったり、そこにあるひとつのものが美しく見えてきます。そういうレスの状態をつくりたい、という思いを結集させ誕生した家ですね」。
キッチンカウンターもセラミックタイルで。ダウンライトはここも1つだけ。

キッチンカウンターもセラミックタイルで。ダウンライトはここも1つだけ。

腰壁を通常より高くしたため、キッチンに立ったときに手元が隠される。

腰壁を通常より高くしたため、キッチンに立ったときに手元が隠される。

キッチン収納は使いやすいよう片開きの扉を採用。食器、調味料などアイテム毎に分けて使いやすく。

キッチン収納は使いやすいよう片開きの扉を採用。食器、調味料などアイテム毎に分けて使いやすく。

室内を飾るのは、友人のアーチスト中出武彦さんの作品のみ。

室内を飾るのは、友人のアーチスト中出武彦さんの作品のみ。

ベッドルームには造作で仏壇が設けられていた。

ベッドルームには造作で仏壇が設けられていた。

「トネリコ」の代表作である照明器具“MEMENTO”。ライトを点けると、アラビア数字をあしらったシェードを光が通過して、幻想的に拡散する。

「トネリコ」の代表作である照明器具“MEMENTO”。ライトを点けると、アラビア数字をあしらったシェードを光が通過して、幻想的に拡散する。

米谷ひろしさんと増子由美さん。2002年に君塚賢さんと「TONERICO:INC.」を設立。店舗設計、店舗デザインを中心に、住宅、プロダクトデザインを手がける。

米谷ひろしさんと増子由美さん。2002年に君塚賢さんと「TONERICO:INC.」を設立。店舗設計、店舗デザインを中心に、住宅、プロダクトデザインを手がける。

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