2軒めのリノベーション アイアンバーが繋ぐ
マルチユースなワンルーム
自邸を売却して2度目のリノベーション
一級建築士事務所HAMS and,Studioを主宰する伯耆原(ほうきばら)洋太さんが、妻の智世さんと2軒目の自宅リノベーションを行った。1軒目は、フルハイトカーテンと螺旋階段が印象的な“Wonder the one room”と名付けたワンルームに仕上げたが、完成の翌年に売却。そこで得た資金で行ったのが今回のリノベーション“Ring on the green”だった。「1軒目の完成後、私と妻がリモートワークになったのですが、2人が自宅で仕事をするのが難しくて。間仕切りを増やせば生活できたのですが、中途半端に手を加えるなら2軒目をやろうとなり新しい物件探しを始めました」と話す洋太さん。
夫妻共に大手ゼネコンに勤めていたが2軒目の完成とともに独立。自身が設計した現在の住まいは、住居としてだけでなくオフィスやスタジオなど、職場も取り込んだ伯耆原夫妻の活動空間になっている。
物件の特徴を殺さず最大限活かす工夫
購入したのは東京都内にある築30年ほどのマンション。物件選びでこだわったのは広さだった。前回は部分的なリノベーションだったが、今回初めてフルリノベーションに挑戦。90 m²の2LDKをワンルームにした今回の物件は自由度が高く自身の大きな経験になったという。
風呂場があった中央にオープンキッチンを置き、空間の抜けを作ったことで、ワンルームとしての広さを出すだけでなく、玄関を入って正面にあることで、視覚的な開放感を演出している。
最も目を惹くのが、空間全体を繋ぐ天井に吊るされたリング状のアイアンバー。2重構造で上下に照明が組み込まれており、シチュエーションによって使い分けることができる。「前回のリノベーションで収納棚のフレームとして使っていた鉄素材を天井にぶら下げたいと考えていました」。北側の書斎から奥のワークスペースまで伸びており、空間の連続性を生み出す。シャープさが際立つ鉄だが、同じ素材で作られた造作棚のフレームから始まり、空間全体へと湾曲し延びる姿は“ただ吊るされた”という静的なものではなく、循環する動的なもので柔らかな印象を与える。
広さに加えて、この物件の大きな特徴が窓の多さ。「3つの外壁に8つの窓があることで、充分な採光と風が通り抜けるのは魅力的でしたが、プライバシー確保の問題がありました」。都心の住宅街にある伯耆原邸では、自邸と近隣、互いの視線が交わらないようにする必要があった。そこで窓にインナーサッシを設け、アウターサッシとの間に植栽とブラインドを設置。さらにインナーサッシの手前には内壁を取り付け5重構造の窓にした。これにより、外からの視線を遮るだけでなく、断熱効果や奥行きを持たせる視覚的な効果、室内の一体感も生み出す。オフィスビルの外装に代表される、“ダブルスキン”の考え方が元になっており、大手ゼネコンに勤めていた経験を持つ伯耆原さんならではの工夫。
連続性のあるライフスタイルの実践
“住まい”や“職場”としてだけでなくマルチユースな空間を意識し設計された伯耆原邸は“ショールーム”としての役割も持つ。空間デザインとして自邸を見せることはもちろんだが、伯耆原さんがデザインした家具を見せる場でもある。友人の板金職人と立ち上げた“Ferrum+”は伯耆原さんがデザインした家具を形にするプロダクトライン。アールや視覚の抜けがあるフレームデザインが繊細さのある緊張感と軽さを持たせる。「前回のリノベーションで鉄フレームの造作棚を作った経験を活かしました。空間設計で重要な要素になる家具も自分で手掛けたいなと」。
伯耆原邸をSNSで見た複数の人から、リノベーション設計の依頼が来ている。「こういう家でこういう住まい方をしたいと言っていただきます。この人にお願いしたいということで来てくれることほど幸せなことはないですね」。
1軒目のリノベーション物件を売却し、新たなリノベーションを行った伯耆原夫妻。自身の行動や経験を次に繋げるライフスタイルは、まさに自邸の中心に置かれたアイアンバーがもつ連続性と循環の繋がりを感じさせる。社会の大きな変化によって影響を受けた生活環境に合わせ行った2度目のリノベーション。伯耆原夫妻によるライフスタイルと共に住まいを替える暮らしの実践はこれからも続く。