選び抜いたマテリアルが映えるワイドスパンを確保して
ダイナミズムを味わう
14mの開口を活かして設計
4年程前、アーティスティックに彩った賃貸デザイナーズマンションでの暮らしを、TO KO SIEで公開してくださったLIXILデザイナーの安間広介さん。昨年4月に築51年のヴィンテージマンションをリノベーション。現在は都心の人気エリアを見下ろす、高台での暮らしを楽しんでいる。
「結婚して子供が生まれ、賃貸から持ち家に引っ越すことを考えました。この物件は立地が良かったこと、南側に14mのバルコニーがあってロングスパンが取れることが決め手でした」。
90㎡の4LDKを、広々としたLDK、作業部屋、キッズエリア、パントリー、バスルームで構成される2LDKに。ロングスパンの開口をLDKに活かすことは絶対条件として計画。ガラス戸で仕切られたベッドルームまで連なる開口が、昼間は明るい日差しを届け、夜は都心の夜景を楽しませてくれる。
「夜は高速の車の流れが見られてキレイです。今後はバルコニーへのタイル拡張を計画してるのですが、夜景を眺めながらお酒飲んだりするのが楽しみです」。
ノイズのないニュートラルな空間に
前回の黒をベースとした空間とは趣きが異なり、今回はややベージュがかったホワイト系の内装がやさしい雰囲気。
「住みながら貸スタジオにすることも考えているので、ニュートラルを意識しました。その代わりマテリアル感だけは大事にしています」。
床は玄関から馬張りのオールタイルに。壁と天井はムラ感を出して塗装し、造作のキッチンはモールテックスで仕上げた。洗練された素材が、非日常感と癒しムードを醸し出す。
「ベランダの開口もそうですが、間口の長く取れるものはできるだけ長く活かしているのが特徴です。2列型にしたキッチン(合計約7,300mm)や水回り洗面カウンター(3,700mm)は、滅多にないワイドなサイズになっています」。
ダイナミックな空間がさらにシャープにすっきりと感じられるのは、細部までこだわったラインの設定にある。例えば、ベッドルーム突き当たりの壁面は、幅広のフローリング材を貼り、エアコンカバーの位置に合わせて縦のラインを等分で入れた。
「高さ方向を活かす意匠の縦ラインや、既存躯体に合わせる横ラインを意識しました。間仕切りのガラス戸のスチールサッシの分割も、隣接するバルコニーの桟とキッチンカウンターの高さに合わせて設定しています」。
ベッドルーム、バルコニー、キッチンを結ぶ見えないラインを同じ高さに設定。ノイズのない静謐な空間は、隠されたこだわりにある。
自ら複雑な設計に携わる
驚くのは、プロダクトデザイナーである安間さんが、設計士を入れず自ら図面を描いて、工務店と相談してこの空間を仕上げたということ。
「展示会の空間も造ったりしているので、その延長で考えました。やりたいことは明確だったので、あとは物理的に必要なことを相談するだけでしたね」。
いちばん大切に考えたのは、“綺麗な面をつくってノイズのない背景をつくる”こと。既存マンションで見えがちなノイジーな構造体を、いかに隠してすっきりさせるか。LDKは多少専有面積を潰してでもノイズを減らすことにこだわった。
「配管の取りまわしが難しかったですね。交差するダクトまわりは、図面や3Dで指示するなど、ほぼプロの領域にトライしました」。
天井をなるべく高くしたかったバスルームは、あえて配管を剥き出しに。
「配管が出ていても成立するデザインを考えて、さび調のタイルを選び、ややインダストリアルに仕上げました。でも空間全体を同じタイルにすると表情が重くなるので、一面だけは変え、コントラストを効かせて、白やモノトーンの色味が映えるようにしました」。
バスタブ、洗面ボウル、シャワーは、安間さんが仕事で担当する『ARC-X』シリーズ。海外仕様のサイズ感で、ホテルにいるようなゴージャスなバスタイムが過ごせる。
間接照明で陰影を楽しむ
どこを切り取っても絵になる空間は、この先、貸スタジオとしての展開も期待される。
「貸している間は作業部屋に籠れるような間取りにしています。クローゼットや収納は作業部屋に、家電など見せたくないものはパントリーに収められるようにして、機能面を完全に切り分けました」。
玄関脇には、現在2歳の芹ちゃんが遊べるキッズコーナーを。どのエリアも、間接照明が生む陰影がアートのよう。
「照明は必要なところだけを照らすように計画しています。娘が起きている時間帯は照度を確保できるように、カーテンレール沿いにライン照明を仕込みました。時間帯で照明を使い分けるようにしています」。
芹ちゃんの就寝後はダクトレールに設置したスポットライトのみにして、アーティスティックなデコレーションを際立たせている。
「小物のディスプレイなどのアレンジも、もっとしていきたいですね。家具も以前から使っていたものを利用しているので、これから揃えていくところです。ますます構想が広がっていきますね」。