インダストリアルとアンティーク異素材ミックスが新しい
DIYで生まれた独創空間
横浜の丘陵地に建つ築30年のヴィンテージマンション。住宅リフォーム会社に勤務する野村光吾さんと、商業施設に勤める妻・千明さんは、一目でこの物件が気に入り購入した。「周りに緑があること、天井が高く、天井の一部が斜めに設計されていることなど、建物のポテンシャルの高さがポイントでした」。
もともと住んでいた賃貸物件でも、フローリングを敷いたり、DIYで家具を作ったりと手を加えることが好きだった。自分たちで図面を描き、好きなように空間を作り上げる。そんな自由が叶えられることが、マンション購入のきっかけのひとつだった。
無垢の床と土間で変化をつける
「テイストは決めたくなかったんです。カフェ風とか北欧風とか目指したわけではありません」。という室内は、アンティークとインダストリアルがミックスされた独創性のある空間。
「当初は壁で細かく仕切られた、廊下や和室のある団地のような空間でした。まず壁を取り払い、床は前の家で使っていた無垢のパイン材を再利用して張りました」。玄関からキッチンにかけては昔の“おばあちゃんの土間”をイメージして、モルタルを流してコーティング塗装。ここまでは大工さんにお願いした。
「引っ越し前の約1カ月間は仕事が終わってから毎日通って、DIYで一気に仕上げました」。壁や建具はほとんど自力で作り上げた。時間がかかったのは壁。色々と考えた末、珪藻土の下地材を材料に選んで塗りあげた。「ちょっと荒っぽく見えてちょうどいい感じなので。下地材なので本来は上から塗るのですが、まあこのままでいいかなと(笑)」。
キッチンはあえて非日常感を
キッチンはモルタルの床にステンレスのシンクが、工業的でクールな印象を与えている。出っ張った柱にも鉄板を貼って、メタリックに演出した。「ホームセンターで畳1帖分の板を買ってきて、ケガしつつも自力で切って貼ったんです(笑)」。空間の仕切り代わりにもなっているアンティークや手作りの木製のワゴンが、雰囲気を少し柔らかくしているよう。
「玄関に近い位置にあるので、キッチンはあまり家事を感じさせたくなかったんです。入ってきたときにはっとするような空間を目指しましたね」。キッチンの脇にあった洗濯機は取り外し、シンクと同じメタリックな洗面台を設けて、ミラーとグリーンでコーディネート。少しブロカントな雰囲気が醸し出されている。
アンティークや古家具で味を出す
“暗くて狭い閉鎖的な空間”だった玄関は、収納や天井を取り、すっきりとした空間に。壁には前の家で使っていたフローリングの板を貼り、白いペンキを塗った。玄関を入ってすぐ目に飛び込んでくるスケール感のある靴箱も自作。古い門扉の裏に網戸を張って作成したというものだ。「本当は蔵戸を使いたかったのですが、重すぎて諦めたんです」。見た目にも閉塞感がなく、その上通気性がよい。
玄関ホールのドアは、キッチン側とベッドルーム側に2枚。アンティークのガラス戸にこだわって探し回った。「家の南側と北側に窓があるので、光が玄関ホールを通って、家中に抜けるようにしたかったんです。だからホールのドアは絶対にガラス戸、と思っていました」。
丘の中腹に立ち、南側には雑木林のような緑の斜面が広がり、北側は眼下に広がる住宅街を見晴らすことができる。開放的な空間になったことで、立地のメリットも十分に活かされた。
住まいへの興味は尽きない
「1年住んでみて、ようやく落ち着いてきた感じですね。リビングにソファが入って完成形に近づいてきました」。というソファはハンス・J・ウェグナーのヴィンテージもの。部屋のイメージに合わせグレーの布に張り替えた。
「インテリアは北欧ものが好きですが、でもアメリカの椅子もあるし、頂いた店舗の什器もあるし、色々です。夫婦でインテリアショップや雑貨屋をめぐったりするのも好きですね」。ヘルシンキを旅行し、アアルトの自邸も訪れたというおふたり。「アアルトが日本っぽい素材を取り入れているのを見て、実験しているのを感じました。そういう意味で、僕らももっと実験してもいいのかなと改めて思いましたね」。これからも手が加えられ、時とともに味わいを増していくに違いない。