ノイズを消したギャラリー空間四角いリビングを完成させて
家具をアートのように飾る
箱のような家を造りたい
南向きの開口の向こうに低層エリアが広がり、遠くまで視界が抜ける分譲マンションの1室。
「当初、あまり眺望の優先度は高くはなかったんです。住んでみていいなと気がつきました」と、家主の李永祐(リ・ヨンウ)さん。
約1年前にリノベーションを決意。“職場のある駅の沿線で都心寄りのところ”を条件に、物件を検索。50軒ほどピックアップし、15軒ほど内見した中で、正方形に近いきれいな形の部屋を見つけた。
「四角い形なら制約が少なく、色々なことができるのではないかと思ったんです。2LDKを全部ぶち抜いてフルスケルトンにして、コンパクトな箱のような空間を目指しました」
もともと、リノベーションやインテリアに興味があったわけではないそう。それでも、仕事柄得意とするリサーチ力で色々と調べていくうちにどんどんはまっていった。
「YouTubeやピンタレストなど、たくさん見てインスピレーションを得ました。インテリアショップやショールームも回り、だんだん詳しくなっていきましたね」
リノベーションは物件探しからワンストップで任せられる「リノベる。」に。さらに「リノベる。」が行っているインテリアコーディネートサービスも利用して、設計士も驚くほどストイックなリノベーションに着手した。
ノイズのないシンプルな空間
「参考にしたのはあるジュエリーショップです。展示品の為のシンプルな箱という雰囲気がとてもかっこよくて、自分も箱に家具を飾っていくような家を造りたいと。生活感のあるものをどこまで削れるかぎりぎりまで考えました」
広々とさせたリビングは、ノイズを避けるために天井まで白く塗装。クールな空間に、全体に敷いたカーペットが温かさを添えている。
「木のフローリングなどでほっこりとさせたくはなかったんです。でも白を基本にした冷たい感じの空間にすると、今度は今の流行りっぽくなりすぎる。そことは差をつけたいと思っていたとき、設計士さんがカーペットを教えてくれました」
リビングの一角には、ベッドルームが緩やかにゾーニングされている。
「ベッドルームは仕切るのもありかなと思ったのですが、そうすると抜け感が損なわれるし、リビングが狭くなってしまいます。札幌出身で広い家に慣れているので、開放感が欲しいんです。本当にもうリビングだけでいいんじゃないか、と思ったくらい(笑)。最初から水廻りだけは区切り、ワンルームにしたいと伝えていました」
キッチンとワークスペースを個室に
広々としたリビングに対して、シャワールームやキッチンは必要最小限に備えた。
「お風呂に浸かることはあまりないので、バスタブもやめてシャワーだけにしました。料理にもこだわらないので、キッチンもコンパクトにして、ワークスペースを同じ空間に設け、リビングと区切っています」
散らかりやすいキッチンやワークスペース。仕切ることで生活感を隠し、リビングをホテルのような空間に。
「食器や調理器具にもそれほどこだわりがないので、見せるとノイズになるということもありました。でも狭くなるのは嫌だし、透け感だけはもたせたかったので、祖母の家で使っていた記憶があるガラスブロックを使ってもらったんです」
キッチン側、リビング側にガラスブロックを通して光が通過し、抜け感を生み、閉じられた空間が開放的に感じられる。また、キッチンのドアやリビングドアには、抜け感のあるポリカーボネイトを採用。
「クリアな素材を探していたところ、海外のサイトで見つけて、この素材でドアを造作してもらいました。ガラスの扉もいいけれど、動きのあるところには安全かと思うんです。色々と自分で調べて提案しましたが、細かいところまでは分からないので、設計士さんにその辺りを旨くチューニングして頂きました」
円テーブルからイメージが広がった
インテリアも、リノベーションが決まってから研究。名作が至るところに置かれている。
「最初にフリッツ・ハンセンのスーパー円テーブルだけは決めていて、ここから発想を広げていったところはあります。ヴィンテージが流行っていた頃、何かピンとこないなと思っていたのですが、このシャープなデザインを見た時にぐっとくるものがあり、自分の好みがわかってきたんです。全体的にクールな色を使って行こうと、一気にイメージが沸きあがりました」
“プロダクトすぎないところがいい”円テーブルに合わせて選んだインテリアは、リーン・ロゼのソファ、FLOSのペンダントライト、USMハラーのサイドボードに、レクリントのシーリングモデルなど。
「でもベッドスペースのワードローブやベッド、チェアなどにはIKEAのものも選んでいます。アノニマスなものを加えることで、バランスも整うと思うんです」
家づくりが初めてとは思えない情報量と知識。新たな趣味が見つかったという李さんの今後の目標は、アートを増やしていくことだそう。
「展示スペースから始まった空間なので、ギャラリーっぽくしていきたいです。一気に揃えるのではなく、余白を楽しみつつ少しずつ増やしていきたい。“家に帰る”ではなく“家に行く”、そんな感覚で、どこよりも自分がリラックスできて楽しめる場所にしたいですね」