設計士の自邸リノベーション デザインの歴史的背景まで掘り下げた ◯◯風ではない、本質的な物づくりとは?

設計士の自邸リノベーションデザインの歴史的背景まで掘り下げた
◯◯風ではない、本質的な物づくりとは?

大切にしたのは、違和感のない暮らし方

リノベーション会社「HOUSE TRAD」で設計士を務める細田邦彦さんは、2023年にこの物件を購入しフルリノベーションをした。もちろん内装の設計は自ら手がけた。仕事の合間を見つけながら半年ほど時間をかけて、じっくり向き合ったと話す。
「いつかは自分の家を設計したいと考えていました。しかし、なかなか理想の物件に出会えず、長年探したんです。ここは高台の静かな環境が気に入り、空室が出た時にすぐに購入しました」
5LDKだった間取りは2 LDKへ。寝室、オーディオルーム、広いLDKに加え、キッチン室とウォークインクローゼットを兼ね備えた間取りへと生まれ変わった。
「せっかく100㎡もあるのに、空間が細切れになっていてもったいないな、と感じていました。特別に凝った設計はしていませんが、強いて言うなら違和感のない暮らしを意識しました」
それぞれの部屋に扉は極力設けず、空間のつながりと生活しやすい動線を大切にした。一方で、天井や壁の素材は細かく使い分け、空間のごとに異なる雰囲気を演出している。
「日光が一番入るリビングダイニングの壁は真っ白にしました。白が光を反射するので、朝から夕方まで明るいです。反対に、オーディオルームには壁にカバの無垢材を貼り、天井はピンク色にすることで落ち着いたトーンに。また、寝室は天井にオークの無垢材を貼り、壁は薄めのグレー。光を拾わず、安眠できる空間にしました」と続けた。

築46年、総面積は約100㎡。

築46年、総面積は約100㎡。

リビング横には約16㎡のオーディオルーム。

リビング横には約16㎡のオーディオルーム。

オーディオルームから、リビング方向を眺めて。

オーディオルームから、リビング方向を眺めて。

アーチ状になった入り口には、カバの無垢材をぐるりと貼って。

アーチ状になった入り口には、カバの無垢材をぐるりと貼って。

少しずつ買い集めたレコードの数は3000枚以上。

少しずつ買い集めたレコードの数は3000枚以上。

1960年代に作られた悪魔の素焼き人形。メキシコのオクミーチョ村の作家・マルセリーノ・ビセンテ作。

1960年代に作られた悪魔の素焼き人形。メキシコのオクミーチョ村の作家・マルセリーノ・ビセンテ作。

木彫り熊の作家・高野夕輝の作品。

木彫り熊の作家・高野夕輝の作品。

デザインを紐解くと、世界の歴史が見えてくる

世界各国の家具や小物、器などが所狭しと並んでる細田邸は博物館さながら。北欧家具からアフリカの民芸品、ブラジルの椅子、アイヌの木彫り細工まで、実に幅広いジャンルのものがあり、眺めているだけでも飽きない。
「ここへ越すまでは家とは別に、コレクションを置いておくための倉庫を借りていました。その維持費だけでもけっこうかかっていましたね(笑)。やっと眠っていた収集品をお披露目できる日が来て嬉しいです」
一つ一つの家具や雑貨について質問をすると、どれも具体的で詳細な回答が返ってくる細田さん。集めたものへの思い入れの深さを感じさせる。
「最初は好きなものを買い漁っているだけだったんですが、次第に『なぜこのデザインが生まれたんだろう?』という理由が気になってきました。調べていくうちに、歴史的な背景とデザインが繋がってきて、デザイナーの意図が汲み取れるようになってきたんです。それを自分のデザインする内装や家具にも落とし込んでいます。物のもつルーツを知っているからこそ、“◯◯風”ではない、本質的なデザインになると思っています」
ただかっこいいだけではなく、デザインの本質を追求する細田さんの設計にはファンも多く、指名での設計依頼が絶えない。
TOKOSIEで公開している記事にも「米軍ハウスから学ぶ現代日本の暮らしのルーツ」「実家を大変身!理想の一人暮らしをスタート」「上階に両親、下階に親子の部屋を入れ替え」など、細田さんが手がけた施工事例は多い。

寝室。ピーターヴィッツ&オールMニールセンのデイベッドに座って。

寝室。ピーターヴィッツ&オールMニールセンのデイベッドに座って。

寝室の天井には細いリブデザインのオークの無垢材を貼り、広く見える視覚効果を狙った。

寝室の天井には細いリブデザインのオークの無垢材を貼り、広く見える視覚効果を狙った。

2つ並んだ折りたたみ式のシングルベッドは、1960年代のハンスJ.ウェグナー作。北欧家具店「talo」で購入。

2つ並んだ折りたたみ式のシングルベッドは、1960年代のハンスJ.ウェグナー作。北欧家具店「talo」で購入。

照明はフィンランドの照明作家・リサ・ヨハンソン・パッペのもの。

照明はフィンランドの照明作家・リサ・ヨハンソン・パッペのもの。

細田さんが本棚の中で一番かっこいいと話す、モーエンス・コッホ作のブックケース。

細田さんが本棚の中で一番かっこいいと話す、モーエンス・コッホ作のブックケース

使わない時はテレビを造作キャビネットの中に収納。家電を見せない工夫も行き届いている。

使わない時はテレビを造作キャビネットの中に収納。家電を見せない工夫も行き届いている。

キャビネットを挟んだ寝室の反対側は、高校生2年生になる娘さんのお部屋。

キャビネットを挟んだ寝室の反対側は、高校生2年生になる娘さんのお部屋。

細田デザインの出発点は、ジュエリーブランド「e.m.」

いま多くの人に支持される設計士・細田さんのキャリアの出発点は、意外にも建築事務所ではなく、ジュエリーブランドだった。
「デザインの専門学校を卒業後、構造設計専門の建築事務所に勤務していましたが、ここに居続けたらキャリアが限定されてしまうと感じました。そんな時に、ジュエリーブランド『e.m.』でインテリアの担当者を募集していると知りました。試しに受けてみたら採用。人数が少なかったこともあり、内装の設計はもちろん、什器のデザインから店舗への納品まで自分1人でこなしていました」
「e.m.」では約5年間勤務し、その後は家具や住宅の設計デザインを行う「Pacific Furniture Service」へ転職。5年間で数多くの住宅設計を担当した後、2012年に高校時代からの友人である水野さんと2人でリノベ会社「HOUSE TRAD」を設立した。
「水野とは高校時代、レコードを買い漁ってはサンプリングして曲を繋いで、俺たち音楽ならデビューできるんじゃない? と夢をみていた仲でした。どちらも会社を辞めるタイミングが重なって、じゃあ一緒に事業をやってみようか?と、リノベーション会社を作りました。いろんな経験を経て、自分には人の暮らしに寄り添ったデザインをするのが合っているなと思ったんです。設計デザインは僕が、それ以外の業務を水野が担当し、役割分担しながらやっています」
設計だけではなく、インテリアやジュエリー、音楽までも広く触れてきた細田さん。その経験があるからこそ、内装から造作家具まで高い一貫性をもった空間設計を叶えている。現在は店舗やオフィスの設計にも力を入れているという同社。これからの活躍にも目が離せない。

イタリア製「Maralunga」のソファ。背もたれを出し入れできる。

イタリア製「Maralunga」のソファ。背もたれを出し入れできる。

リビングの窓際から部屋全体を眺めて。

リビングの窓際から部屋全体を眺めて。

天井から隙間なくカーテンを垂らすために、天井に掘り込みを入れた。

天井から隙間なくカーテンを垂らすために、天井に掘り込みを入れた。

天板が折りたためるダイニングテーブルは、ハンスJ.ウェグナー作。

天板が折りたためるダイニングテーブルは、ハンスJ.ウェグナー作。

食器棚には骨董市で見つけた100年から200年前のヴィンテージ食器も多く並ぶ。

食器棚には骨董市で見つけた100年から200年前のヴィンテージ食器も多く並ぶ。

ブラジルの家具デザイナー・パーシヴァル・レイファーの牛皮ソファ。

ブラジルの家具デザイナー・パーシヴァル・レイファーの牛皮ソファ。

イタリアを代表する照明器具メーカー・アルテミデ社のフロアライト「SHOGUN」。

イタリアを代表する照明器具メーカー・アルテミデ社のフロアライト「SHOGUN」

アーチの垂れ壁を抜けると、キッチンへ続く。

アーチの垂れ壁を抜けると、キッチンへ続く。

キッチンと背面の収納は、細田さん設計の完全造作。

キッチンと背面の収納は、細田さん設計の完全造作。

料理に集中できるよう独立型のキッチンを採用。

料理に集中できるよう独立型のキッチンを採用。

バスルームは全面にグリーンのモザイクタイルを貼った

バスルームは全面にグリーンのモザイクタイルを貼った。

洗面台には木材と大理石を使用。ホテルライクに仕上げた。

洗面台には木材と大理石を使用。ホテルライクに仕上げた。

ファミリークローゼットの入り口は、ウエスタンドアに。

ファミリークローゼットの入り口は、ウエスタンドアに。

天板が大理石でできたブラジリアンローズウッドのキャビネットは、アメリカの家具メーカー「Knoll」のもの。1970年代のフローレンス・ノール作。

天板が大理石でできたブラジリアンローズウッドのキャビネットは、アメリカの家具メーカー「Knoll」のもの。1970年代のフローレンス・ノール作。

デンマークの照明メーカー「Vitrika」のウォールランプ。ヴィンテージ家具店「ihållande」から購入。

デンマークの照明メーカー「Vitrika」のウォールランプ。ヴィンテージ家具店「ihållande」から購入。

玄関のニッチ棚や部屋の入り口など、アーチのデザインで柔らかな印象に。

玄関のニッチ棚や部屋の入り口など、アーチのデザインで柔らかな印象に。

リノベーションの設計は「HOUSETRAD」が担当。

リノベーションの設計は「HOUSETRAD」が担当。

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