二度目のリノベーション 構造壁を活かし 回遊できるキッチンを作る

50年の歳月を素材から見直すヴィンテージマンションを
オーバーホールする

建築家が住み継ぐ名建築

ヴィンテージの壁のタイルをそのまま残した廊下を進むと、正面に森の中の別荘のような緑がリビングの窓一面に広がる。横浜市の大倉山駅から徒歩数分の場所とは思えない風景だ。
この築51年のヴィンテージマンションは、川の流れる森を中心に、起伏のある土地を生かして低層の住宅棟を配置している。
建物の成り立ちを調べ、ヴィンテージの良さを守りながら次の世代へ手渡すため、旧いものを修理するような丁寧さで全体を〝オーバーホール〟したのが『ムトカ建築事務所』 の村山 徹さん、加藤亜矢子さん、そして4歳のお嬢さんの3人で暮らす自邸だ。

「誰もが良いと思える普遍的な建築を目指しました」と村山さん。
村山さんがまず最初に考えたのは、正方形のリビングを作ることだった。和室だった場所をセットバックして正方形のリビングを作った。
「尊敬する建築家・吉村順三が〝日本だけでなく世界の住宅でも心地よい部屋は測ってみると三間四方の九間(ここのま)である〟とおっしゃっていたことを実践できました。図面に正方形を描いたら、あとはスムーズに決まっていきました」と振り返る。
三間四方の18畳の正方形を4畳半×4つのエリアにゆるやかに分け、家族それぞれが心地よく過ごせる4つの居場所を作った。

正方形のリビングは、4畳半を4つ分の九間 (ここのま) を実践。4つの4畳半はそれぞれソファスペース、子どもの遊び場、ダイニングと、ゆるやかに目的を分けている。TV台は川内尚子さんが製作。

4畳半が4つ分=九間(ここのま)の正方形のリビングは、ソファスペース、子どもの遊び場、ダイニングと、4つの居場所をゆるやかに分けている。背もたれの低いソファはCIBONE。TV台は妹島和世事務所出身の河内尚子さんがデザインし、E&Yが製作。

重厚感のある壁のタイルは既存のもの。

既存の建築は、逆梁を採用した梁のないすっきりとした空間となっている。窓の外の緑の美しさがいっそう引き立つ。毛利建築設計事務所(建築時の設計者)の美しさへのこだわりが感じられる。重厚感のある壁のタイルは既存のものを活かした。壁の向こうが建物を支えるキッチンのあるコアブロック。

書斎がある場所はもともと和室だった。和室を1mほどセットバックさせ、正方形のリビングを作った。

書斎がある場所はもともと和室だった。突板の壁や造作ベンチを丁寧に施工し、リビングの床をウールカーペットに戻し、50年前の佇まいを再現。「50年前にあったマテリアルを使うことを〝オーバーホール〟のルールとしました」。書斎の床はリノリウム。普段はLEDライトのふんわりとした灯り。仕事をする際はダウンライトを使用する。

窓際には造作ベンチ。ダイニングを柔らかく照らすペンダントライト。「家族の会話が弾みますよ、と、この家の照明をお願いした照明デザイナーにオススメしてもらいました」

窓際には造作ベンチ。ダイニングを柔らかく照らすペンダントライトはオルーチェ。「この家の照明をお願いした照明デザイナーに、家族の会話が弾みますよ、とオススメされたのですが、その通りになりました」

外に見える袖壁のカーブを造作ベンチのデザインに活かした。カーテンは外壁のテクスチャーを引用した『Studio Onder de Linde』製作のオリジナル。

外に見える袖壁のカーブを造作ベンチのデザインに活かした。カーテンは外壁のテクスチャーを引用した『Studio Onder de Linde』製作のオリジナル。

倉俣史朗のStar Pieceを再現

「青木淳建築計画事務所に在籍していたころから、独立後いつか自宅に倉俣史朗のStar Pieceを使いたいと思っていて、ようやくその夢が実現しました。唯一ここだけ自分の好みを反映した素材を使いました」。
Star Pieceを製作した業者を訪ね、倉俣が実際にガラスの破片を求めた群馬のガラス工場にも足を運んだ。こうして再現したStar Pieceを、洗面台に使っている。

オリジナルで作ったものがもうひとつ。キッチンのタイルだ。常滑のタイルメーカー『水野製陶園』で特別に製作してもらったこの家のオリジナル。既存の建物に使われている数種類のレンガタイルの色をサンプリングし、ピンク地に薄い白の釉薬の上から鉄粉を撒いて表情を作った。小口が見える部分は釉薬をかけて丁寧に仕上げている。建材の質感や色を大切にし、素材から丁寧に〝オーバーホール〟している。

「キッチンや洗面など水回りの空間はコアブロックとして集約し、耐震構造体の役割も担うよう設計されています。コアとコアの間に居住スペースが作られているのですが、その空間は自由に変えられるよう工夫されています」と村山さんは説明する。

倉俣史朗が作った80年代のガラスの色に合わせるのに苦労したそう。贅沢にトイレの床にも使った。

テラゾーにガラスの破片を混ぜて作った洗面台。倉俣史朗のStar Pieceを再現する際、80年代の色に現代のガラスを合わせるのに苦労したそう。

キッチンの奥が洗面室。テラゾーにガラスの破片を混ぜた洗面台は、倉俣史朗のStar Pieceと同じレシピで特注したもの。

キッチンに繋がる洗面室。水回りを集約した設計になっている。洗面台は、再現した倉俣史朗のStar Piece。

以前はダイニングキッチンだったが、ダイニングテーブルをリビングに移すことで、広々としたコの字のキッチンとした。扉の色はユーテリティの外部鉄扉から引用。

水回りを集約した堅牢なコアブロック内部。当時はダイニング+キッチンとして使われていたが、ダイニングテーブルをリビングに移すことで、広々としたコの字のキッチンとした。扉の色は既存の外部鉄扉の色を写し取った。

キッチンの窓から大きな欅が見える。

キッチンの窓から欅の大木を眺めることができる。

常滑のタイルメーカー『水野製陶園』に焼いてもらったオリジナルのタイル。

常滑のタイルメーカー『水野製陶園』が製作したオリジナルのタイル。

時間とともに価値が高まる家にする

「近隣に住んでいたのでこの建物のことは知っていました。空きが出たと知り内見に来たのですが、この景色を一目見て住みたい、と思いました」
全151戸の低層マンションの中にはメゾネットの住戸もある。建物の向きや階数によって見える景色が変わる。
築51年のヴィンテージマンションは、住民の世代交代が静かに進む。
「この建物の素晴らしさを引き継ぐ〝オーバーホール〟をすることができたと自負しています。もしこの住居をリノベする予定のある方はぜひお声がけください(笑)。50年かけて作り上げられた素晴らしい住環境を共に楽しみましょう。
ソファに座ってぼーっと外を眺める至福の時間を共有したいです」
茶室のにじり口のように、あえて小さく作った扉。ドアノブは扉の真ん中につけている。

茶室のにじり口のように、あえて小さく作った扉。「白井晟一のドアノブのように、ドアノブを扉の真ん中につけました」

 

小さな扉の向こうの部屋は、サイザルカーペットを敷いた寝室。

小さな扉を開けると、サイザルカーペットを敷いた寝室へと続く。

キルティングのカーテンは『Studio Onder de Linde』のオリジナル。

キルティングのカーテンは『Studio Onder de Linde』のオリジナル。

広々としたルーフバルコニー。「夏は子ども用のプールを作ります」

広々としたルーフバルコニー。「夏はここに子ども用のプールを置きます」

リビング同様、アイコンのひとつになっている“曲線”を取り入れたベンチを造作。

リビング同様、アイコンのひとつになっている“曲線”を取り入れたベンチを造作。

敷地内の森を流れる川には小さな滝も。

敷地内の森を流れる川には小さな滝も。「森を挟んだ反対側に別の棟が建っているのですが、常緑樹と落葉樹が混じった樹々がいい目隠しとなって住民のプライベートを守ってくれます」

「マンションのリノベですが、模型をしっかりと作りました」。床面積は130㎡、ルーフバルコニーは50㎡。

「マンションのリノベーションなので住戸内だけ作ればいいですが、ヒルタウンをレファレンスするため、住戸外の模型もしっかり作りました」。床面積130㎡、ルーフバルコニー50㎡。

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